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「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花③

愛してる、そばにいて0682

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 「ほ~、ほ~、これなんて私にぴったりじゃない?」
 無数に並べ立てられた頭部だけのマネキンに被せられた帽子の一つを手に取り、それを頭に被って、鏡で一通りのチェックを済ませ、滋が背後に控えている男性陣へと尋ねかけた。
 が、当の夫は秘書との打ち合わせに余念がなく、カケラとも滋に注意を向けようとはしない。
 義理の息子の方は、それなりにでも自身の役割を許容しているのか、一応はあからさまに無視することなく滋の問いかけにも反応して、軽く肩を竦めている。
 「…こちらは今年の最新のモードになっておりまして」
 スーパースターやセレブの来訪にも慣れているデパートの店員たちだったが、それでも一際キラキラしい一家の来訪に舞い上がっているのが、わずかに頬の赤味やキョドった態度に透けて見えている。
 パシッパシッと、会話の合間にストロボが焚かれ、何枚ものスチール写真が取られてゆく。
 一人足りないが、一応は『道明寺一家のある日の一コマ』とかなんとかいうタイトルで、近日の週刊誌に掲載される予定の写真だ。
 その他にも、それらは外部向けの広報として使用されることになっていて、戒もそうした仕事のいくつかにもっと幼い頃から協力していた。
 父である司との関係は険悪だったが、道明寺一族としての役割を戒がおろそかにすることはなかった。
 それこそ優等生すぎるほどに。
 一時期は異母弟の佑都の存在で、道明寺家の後継者としての地位を危ぶまれたこともあったが、戒は常に跡継ぎとしての立場を忘れることがなかった。
 かつては自身が嘲られることは、母をも貶められる材料になる、そんな健気な想いからの努力だったが、いまやそのことさえ遠い記憶に埋もれ、目的のないものと成り果ててしまってはいたが。
 それでも、道明寺家の次期後継者であること。
 それだけが唯一、司との親子関係が半ば断絶してしまっている戒にとっての、無意識の父との繋がりであり、自身の存在意義の肯定材料であったのかもしれなかった。
 並んで歩く司と滋の半歩後ろを戒が追従する。
 戒は何くれとなく話しかけてくる滋を無視することもせず、いつもはロクに返事を返すことすらない父との間でも穏当に会話を繋げていた。
 おそらく周囲の者たちにしてみれば、巷の噂とは異なる仲睦まじい『理想的な一家の肖像』というものが脳裏に焼き付けられたことだろう。
 だが、両親のすぐそばを歩く戒にはまた違う感慨がある。
 司の態度は、家族の誰に対しても一貫してほとんどこれまでと変わらない。
 まとわりつくようにして司の腕にしがみつき、微笑みを絶やさない滋の横顔を、戒は皮肉に窺った。
 滋にも滋の役割があって、そうした夫婦仲の良さをアピールすることはたしかに彼女の重要な役目であり、公務の一つには違いない。
 けれど、話しかけてくる滋の問いかけに、視線だけでチラリと振り返る司の視線に視線を合わせて、楽しそうに笑う彼女の頬の赤味までもが果たして本当に演技だろうか。
 …別に俺には関係ないけど。
 本人が望むと望まざると限らず、道明寺司の周囲には、羽を震わせ異性を誘う蝶のような女たちが常に取り巻き、その関心を得ようと寵を競い合う。
 けれど、そうした女たちの秋波とはよそに、司という男は奇妙なくらい身辺が綺麗な男だった。
 だからこそ、愛憎渦巻く事態には陥いらずに済んだのだとも言えたが。
 司を見る滋の眼差しが、戒の目に、かつてそうして司を見ていた遥香の…司の前の妻の媚を含んだ眼差しと重なっていた。




*****




 広報を兼ねた視察を終え、戒を一足先に屋敷へと送り出し、司と滋は会社へと戻っていた。
 二人が常にセットで同じ仕事をしているという状態なわけではない。
 現在、滋は司の妻でもあるが、大河原財閥・道明寺財閥双方の役員にも名を連ね、その経営にも関わり出していた。
 滋の夫であり、道明寺財閥の次期後継者として如何なく辣腕を奮い、大河原財閥の経営にも関与している司と同様に。
 基本それぞれの会社経営に重点を置き、それぞれの社屋に詰めていることが大半だったが、いくら司がつけた教育係兼秘書が滋を薫陶し司の意志を中継しようとも、彼女が一人で大河原を背負って立つにはまだまだ実力も経験も足りなかった。
 そのため、滋が道明寺ビルの方にいることも少なくなかったのだ。
 とりあえずは双方の役員室に引き上げ、必要業務をこなして、後で西田と数人の側近を交えて打ち合わせを行うことになっていた。
 司と戒の関係は―――今のところ小康状態を保っている。
 必要最低限…逆に言えば必要がなければ、ほとんど接触することすらない親子と成り果てていたが、それでも互いの性質を思えば、下手に関わりあって傷つけあう事態を忌避しているといえるかもしれなかった。
 …このままでいいはずがない。
 それは司にもわかっていたけれど。
 だが、彼もまた親としてはまだまだ未熟で、戒のために、何をどうしたらいいのか常に手探りだったのだ。
 自分がやっていること、やろうとしていることが、果たして本当に正しいことなのか。
 戒の為であるのか。
 しかし、かつて、記憶を失い戒の母としての自分に迷うつくしに諭したように、自分が完璧ではないとわかっているからこそ、最愛の我が子のために最善だと思えることを成すしかないのだ。
 ひとまずは激務の影響で、疲労と消耗の激しい司を慮った西田が、気をきかせ席を外していた。
 司的には一分一秒も惜しい。
 世界中の情勢を一人で把握し、適切な指示を与え、道明寺という巨大な大企業を回してゆくには、どれだけ時間があっても足りるものではなかった。
 が、じんわりと締め付けるような鈍い頭痛に、司も自身の限界を自覚する。
 ここ3日、ロクに寝ていなかった。
 おそらく3日の睡眠時間を合わせても、8時間に満たないだろう。
 寄る年波と言うにはまだ若いつもりだが、それでも三連徹、四連徹もこなした十代、二十代はすでに遠い。
 さらに極めつけは、かなり歩かされた外出だ。
 …仕方ねぇ。
 西田に先に見透かされたのは業腹だが、やはりすぐに業務に戻るのは無茶だと自分でも判断して、仕事を始める前に30分なり仮眠を取ることにする。
 と、執務机に投げ出した携帯電話が、そんな司のタイミングを図っていたかのように震え出す
 一瞬、出るかどうか躊躇する。
 もちろん、それが業務用の携帯電話であれば、一も二もなく応答するのは当然のことだったが、彼が応答に迷ったのは、ごく限られた人間にしか番号を周知していないプライベートの携帯電話の方だったからだ。
 …姉貴からか?
 あるいは、あきらか総二郎あたりからのいつもの定期的な御機嫌伺いか。
 もっともお互いに立場のある身の上。
 定期的に…とはいっても、せいぜい仕事上の必要がなければ、完全にプライベートの要件など、それこそ一年に一度もあればいい方だ。
 やはり一番可能性があるのは、姉からだろう。
 姉からとなれば、こちらの事情を鑑みてくれることなど滅多にない。
 指先一つで、多くの企業の命運や人の未来さえも変えてしまうことのできる自分が、いまだに姉には頭があがらないということが、なんともおかしく情けなくも愉快でもある。
 仕方なく携帯電話を取り上げ、画面に触れ…かける。
 「……類」




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