「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花③

愛してる、そばにいて0675

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 「はぁ~、ホント、素敵な人ねぇ」
 まるで10才も若返ったような、母親というよりは夢見る乙女といったように両手を頬にあて、続きの隣室で晴男とババ抜きに興じている類を盗み見ては、うっとりとしている千恵子を、つくしは苦笑して見やる。
 …二人でババ抜きとか、本当に面白いわけ?
 「あんたの前の旦那のことはよく知らないけど、道明寺さんといい、世の中にあんな人が本当にいるものなのね」
 隼斗のことはともかくとして、司との経緯を知っていながら、平気で彼の名前を口に出す母の、デリカシーのない物言いには思うところがないわけではないが、それでも類のおかげでか、気まずかった再会も違う緊張で紛れて、不思議に打ち解けてしまっていた。
 …類に感謝かな。
 いや、彼にはいつも感謝しっぱなしだ。
 それこそ高校時代に、初めて彼に救われたその日から。
 「進とも知り合いなのよね?」
 「知り合い…っていうか、進のところには、何度か類も一緒に遊びに行ってるから」
 「ああ、そうなの。花沢さんって、見た目あんなにキラキラしくて気後れしてしまうけど、案外とっつきやすい人なのねぇ」
 「う~ん」
 まあ、たしかに、進一家ともわりあい和気藹々と付き合ってはいる。
 しかし、類は間違っても、とっつきやすい人間でもなければ、気安くもないだろう。
 けっして愛想がいいとは言えないが、それでも他の人間への拒絶的な態度とは裏腹に、類は彼女の家族には優しかった。
 それがどうしてか、わからないほどに彼女も愚かではない。
 一見冷たいその内側には、誰よりも深い愛情と優しさ、思いやりが息づいている。
 自分に優しくしてくれることより、自分の大切にしている人たちを、大切にしてくれる彼の気持ちが嬉しかったし、愛しいと思う。
 思えば、司にもそんなところがあった。
 ふいに心に浮かんだ面影に、ドキリと心臓が鳴った。
 「…の?」
 「えっ!?」
 「なに、ボウッとしてるのよ。あんた、まだ仕事してるそうだけど、疲れてるんじゃないの?」
 「ああ、いや」
 ふと千恵子の言葉に引っ掛かりを覚え、それが何なのかわらず、つくしは内心で首を傾げ首を横に振った。
 「ちょっと考え事してただけ。…それより、そっちはどうなの?」
 「そっち?」
 「お父さん。足だけじゃなく、糖尿病も大変なんでしょ?」
 「ああ」
 つくしの真剣な問いかけをよそに、千恵子はあんがい気楽な様子で肩を竦めた。
 「まあ、それなりに食事にも気をつけなければいけないから、大変っていえば大変だけど、今はちゃんと治療さえしていれば、そうそう滅多なことにはならない病気だもの」
 千恵子の気軽な認識に、一応は医療の現場の端くれには在籍しているつくしが眉を顰める。
 「治療さえって、ちゃんと節制してコントロールしてないと、怖いことになる病気なのよ?」 
 「わかってるわよ。でも、どんなに努力したって治るわけじゃないし、一生の付き合いになるんだから、そうクヨクヨして戦々恐々ともしていられないでしょ?」
 「はぁ」
 まあ、千恵子の言うことにも一理ある。
 話はお互いの近況から雑談に流れ、そうかと思えば、思い出したように親族の話などへと変遷しつつも、数年間のブランクも、母と娘であるがゆえにか、それともそのブランクを埋めるための互いの努力からだったのか、互いに話は尽きない。
 「うわああ、また負けたぁ!」
 どうやらひと勝負ついたようで、晴男がテーブルに突っ伏している。
 特に類の方は得意げでもなかったが、晴男の物言いからして、ひと勝負どころか、何回か勝負を繰り返したあげくの父の連敗のようだ。
 「類、なにか飲む?」
 「ん~」
 「喉渇いたんじゃない?」
 「そうでもないかな」
 しかし、
 「あら、まあ、もうこんな時間。お寿司取るから、お夕飯もうちで食べてらっしゃいよ」
 千恵子の言葉に、壁にかかっている時計へと視線を向ければ、たしかに17時を回ってしまっていた。
 …あちゃ。
 特に類が何を言ったわけでもないし、あらかじめ何かを言い置かれていたわけでもなかったが、ここのところの彼の忙しさからいえば、丸一日オフを取ることなど本来なら夢のまた夢だったはずたった。
 あらかじめ今日という日に、彼女がアポを入れていなければ、彼もおそらく朝から出勤していたに違いない。
 実際、彼の忙しさを見越して、つくしも日時を変更しようと提案したのだが。
 …いつだって一緒だって言われちゃあね。
 確かにその通りではある。
 彼がそうと努力しなければ、彼には暇などというものはないのだ。
 「えっとさ、私たちそろそろ帰るね」
 「えっ?!」
 「ええっ!?」
 千恵子ばかりか、机に突っ伏していた晴男までもがつくしの言葉に飛び上がって驚く。
 どうやらこの短い再交流の間に、彼らの中でのわだかまりはあっという間に氷解してしまったようだ―――これまたつくしの認識とは異なって。
 とはいえ、つくしにしてみても、両親に会ってしまえば、彼らが懐かしく、もはや赦せないというほどには、頑固に意固地を貫ききれはしなかったのだけれど。
 …しょうがない。
 この人たちはこういう人たちなのだと、思い切れることさえできれば、いまさらだと諦めることもできた。
 そして、諦めることさえできれば、たしかにずいぶん久方ぶりの再会を、もう終えてしまうのは彼女にしてみても惜しい気がする。
 両親の今日の様子やこれまでのアプローチからして、これを機に頻回の交流を望むかもしれなかったが、つくし的にはいくらわだかまる気持ちを宥めることに成功したといっても、今日を過ぎてしまえば、おそらくまた再び彼らとは距離を置きたい気持ちの方が強くなってしまうことが分かりきっていたし、再訪するのは心理的抵抗があった。
 …自分の親なのに。
 「ねぇ、せっかくだから、泊まって行きなさいよ」
 「いや、類は明日も仕事だし」
 もしかしたら、このあと会社に戻るということもあるのかもしれなかった。
 それ以前に、
 …泊まりたくない。
 もう少し両親といたいという気持ちとは、真逆の思い。
 「今日はこれで帰るよ」
 「ええ?でも、明日は日曜日でしょ?」
 「類は経営者だもの。土曜日も日曜日もないわよ」
 「…あぁ、そうなの。大変なのねぇ」
 そう言われてしまえば、さすがに千恵子も引き下がらないわけにはいかないようで、不満げな顔だったが一応は引き下がった。
 しかし、
 「…いいよ、もう少しつくしは残ってなよ」
 「え?」 
 類も腕時計を覗き込んで、
 「俺は…ちょっとだけ、できれば会社に戻りたいからこれでお暇させてもらうけど、親子水入らずで話したいこともあるだろ?…お互いに」
 自分たちを気遣った言葉であることは、つくしにも十分理解できた。
 けれど―、
 「会社の帰りに迎えに来るから」
 「類」
 つくしの心の声が聞こえたような提案。
 いや、もちろん、彼のことだ、理解してくれているのだろう。
 つくし自身よりも、彼女の気持ちを。
 たとえ彼が口に出さなくても、彼の気持ちを、彼女がいつの間にか感じとることができるようになったように。
 「なら」
 ――泊まって、と言いかけたのだろう千恵子の気勢を制して、類が美しくニッコリと微笑む。
 「すみません、お義母さん」
 「はい?」
 「明日は出勤時間が早いので、残念ですが、こちらに泊まらせていただくのはまたの機会にさせてください。…できれば、彼女だけでもこちらに泊まらせてあげたいんですけど、つくしさんが隣にいないと俺が眠れないので」




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