「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花③

愛してる、そばにいて0673

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 「司は、あなたのお母様を愛していたわ。…そして、あなたのお母様も」
 「……っ」
 戒がハッと楓を仰ぎ見る。
 「そう、答えて欲しいのかしら、あなたは?」
 「…なにを」
 「どうして、知りたいことがあるのならわたくしではなく、司に聞かないのです?あなたの父親に。わたくしに聞くよりも、ずっと多くのことをあなたに答えることができるだろう人間に聞かずして、わたくしに聞いてどうするのです?」
 その通りだ。
 自分でもその矛盾に気がついていながら、ずっと見て見ぬフリをし続けてきた。
 戒の知りたいことすべてを、知っていて答えることができる人間がいるとしたら、この世に司とつくし、この二人でしかありえない。
 そしてつくしはともかくとして、司はごく身近にあるのだし、おそらく戒が真実知りたいと思って尋ねたのなら、父は答えてくれたことだろう。
 知りたいことも―――知りたくなかったこともすべて、あるがままに真実を、あの父親ならば。
 「答えて欲しい答えを期待して尋ねるのでは、いくら大人ぶろうとあなたもまだまだね。聞きたいことがあるのなら、司に聞きなさい。…そして、あなたの母親、牧野つくしさんにね」
 牧野つくし―――、長くその名を口にすることさえ禁じられ、憚ってきた彼の生みの母親の名前だった。




*****




 楓が何も答えてくれるつもりがないのなら、もう彼女には何も用がない。
 同様、祖父に会うつもりもなければ、その必要性も戒は感じてはいなかった。
 …誤解を解きたい?
 なにをどう誤解していると言いたいのか知らないが、求めていた時には差し伸べられなかった手を、いまさら受け入れられるほどには戒は大人ではなかったし、無邪気に彼らの好意や愛情を、信じるほどには子供でもなかった。
 楓を屋敷に降ろしたその足で、運転手には悪いがそのまま父の屋敷へと送迎を頼んだ。
 夜の闇に流れてゆくヘッドライトの行方を見るともなく眺めながら、戒は一人物思いに耽っていた。
 一番簡単なのは、父に知りたいことのすべてを尋ねること。
 しかし、楓にまだまだの一言であしらわれてしまったように、彼が知りたい答えだけを求めるようでは、父もまた応えてはくれないだろう。
 …俺はガキだ。
 たしかに知りたいことだけを聞きたがるようでは、何一つ真実など手には入らないに違いない。
 けれど、だからといって、何一つ知らないまま、欺瞞だけを受け入れて生き続けるには、あまりにも苦しく辛すぎた。
 ―――お前の父親は、お前の母親を蔑んで、虐げ遊んでいたんだよ。
 ―――お前の母親も、父親を愛してなんかいなかったんだ。他の男を愛していたのに、金が目当てで、お前の父親と結婚しただけだ。
 そして、
 …だからこそ、あいつが母さんを捨てただけじゃなく、母さんだって俺のことを捨てて出て行ったんだ。
 「……ああ」
 いつの間にか、かつて彼に毒を吹き込んだ同級生の声は自分の声へと成り代わって、戒は両手で顔を覆って呻いた。
 母親の顔さえロクに思い出すことができないのに、どうしてそんな、覚えておきたくもないことをいつまでも忘れることができないのだろう。
 司は女嫌いだ。
 人前ではそれなりに隠しているようだが、何度結婚離婚を繰り返そうと、愛人だった女を妻として屋敷内に引き込もうと、息子として同じ屋敷内に暮らしていれば、戒にだとて察せられることがある。 
 妻子があることであまり公然と噂されていないが、巷では司の結婚はあくまでもダミーで、本当はゲイであることを隠しての偽装結婚なのではないかと、今では噂されることもあるが、それもまた真実ではないことはわかっていた。
 女の気配もないが、男の気配はなおさらのことあるはずもない。
 「…でも、それなら母さんのことは?」
 女嫌いの男が、周囲の反対を押し切ってまで正式な妻として迎え入れたのは、自身になんの利益にもならない庶民の女。
 それなのに、そんな苦労を買って出てまで迎えた妻を追い出すほどに、愛着した愛人を後妻に迎え入れたにしては、戒の記憶の中の司と遥香は、とても仲睦まじいとは言えなかったように思う。
 かつては佑都に父を奪われると嫉妬して、恐れたこともある。
 しかし、今思えば、周囲が両手を上げ大切にしていた弟にも、司はまったく関心を示していなかった。
 いや、むしろ、戒に対する父親としての細やかな情愛に比べ、この幼い異母弟に対する司の態度は、あきらかに薄情で無関心ではなかったか?
 ならば、遥香との結婚の経緯は?
 結局またも、思考はそこに戻ってしまう。
 当時のことは、道明寺家の人間が戒の耳に入れることはけっしてなかったが、それでも椿の屋敷の人間は別だ。
 椿も当然、戒への気遣いからそうした噂話を使用人たちに禁じてはいたが、立場的に嫁である椿は、婚家のすべてをいまだ牛耳ることまではできてはいなかった。
 彼女の性格もあっただろう。
 椿は押しが強くきわめてアグレッシブな女性だったが、冷徹な道明寺一族にあって、優しく血の通った人だったから。
 「母さんとの離婚が成立する前に、あの人が佑都を妊娠していたのはたしかだ」
 それは佑都の出生年月日からしても間違いはない。
 しかし、元々が女好きな総二郎やあきらのような男とは、次元の違う話だ。
 本来女嫌いの男が、愛した女を平然と裏切り、他の女と浮気するだろうか。
 …材料が足りない。
 本当に父が母を愛していたのかさえ、戒には知りようもないのに。
 ―――司はあなたのお母様を愛していたわ。…そして、あなたのお母様も。そう答えて欲しいのかしら、あなたは?
 楓の先ほどの言葉が蘇る。
 そして、その答えを戒は自分でも自覚していた。
 顔を覆っていた手をぐっと握り締め、拳の形へと変える。
 …母さんはどんな女だった?
 曖昧な過去。
 仲睦まじい両親の姿と、父を疎んじる母の姿。
 優しく夫と我が子を愛する母と、父に隔意を見せ、時々戒に戸惑っていた母。
 いくつもの矛盾した記憶。
 ボケて人が変わってしまったような咲の祖母。
 大怪我が元で、過去の記憶の一部を失ってしまったという男の話。
 繋がりそうで繋がることのない、いくつものピース。
 「クソッ!」
 ガンッと目の前のテーブルを蹴りつける。
 楓が答えてくれないと言うのなら、司とつくしにしかもはや尋ねることはできないのだろうか。
 …あいつに。
 あるいは、日本にいるという母に、もはや会うしか方法がない。
 「いや」
 まだいる。
 カッと、戒は目を見開き、拳に埋めていた顔を上げた。
 「牧野晴男」
 そして、牧野千恵子と牧野進。
 戒のもう一組の祖父母と叔父、母の家族たちが。
 …日本。




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