「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花③

愛してる、そばにいて0672

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 「ふっ」
 零した笑いは失笑だったはずだったのに、己でも意図せぬままに、引き攣った笑いになってしまったのはどうしてだったのか。
 「……なにを言っているんだか。そんなことを言われて、俺に何を言って欲しいんです?わかりました。あなたたちの気持ちは良く理解できましたから、だから、気にしないでください、とでも?……俺が言うわけがない」
 「そうね」
 無理をした歪な顔は、下手に笑い顔を装っていることで、よけいに惨めで情けないものになってしまっていただろう。
 戒を見る楓の目は、やはりあくまでも冷静だった。
 垣間見せた情じみた眼差しは、やはり彼自身の甘さが見せた妄想だったのか。 
 「意味がわかりませんね。それこそ、そんなことをこの期に及んで言い出したあなたの目的が、俺にはまったくわかりません」
 だから、そんな意味のない笑みを収めて、いつものように感情の抜け落ちてしまった無表情を装う。
 そうしていると、彼の父に―――さらには今この目の前にいる祖母によく似ていることなど、戒本人には自覚できることではなかったが、あらためて血の作り出した相似性をむしろ楓の方が強く感じていたに違いない。
 「なんにしても、無理にとは言わないわ」
 「……ええ」
 「でも、先ほどの申し出を撤回するつもりもなくてよ。たとえ無理強いしたところで、あなたも…司も受けつけないでしょう」
 そのとおりだ。
 そしてその言葉で、楓の自邸に来ないかという誘いが、あくまでも楓の―――もしかしたら祖父も関わっているかも知れないが―――意思で、司のものではないことが戒にも察せられた。
 もしその提案が、司の意思であるというのなら、まだ未成年である戒には否やを言うことはできない。
 しかし、今のところ司は、彼を自分の両親に任せる意向を見せていなかった。
 それくらいなら、たとえ婚家に歓迎されていないにせよ、自分の姉の椿の方に任せるだろうし、実際にそう戒にも打診されたことが何度かある。
 だが、それを戒が拒絶したのだ。
 椿やその家族が嫌いだったわけでも、司や椿が二の足を踏んだように、婚家の戒への疎外を、苦にしたわけでもなかったけれど。
 …さんざん邪魔者にしてきた俺に、この人がいまさら近づく理由はなんだ?
 世間で言う肉親の情愛など、今の戒はかつてのように無邪気に信じてなどいない。
 そして当然、父も、その父の母親である、彼ら道明寺一族の首魁の片割れである楓であればなおさらのこと。
 「俺をあなたのコマにできるとお思いですか?」
 再び窓の外へと顔を向けていた楓が、チラリと戒へと視線を戻す。
 口にしてみて、初めて戒もそのセリフがしっくりきた気がする。
 あからさまではないが、楓と、かつて彼女があれほど切望し迎えた司の三番目の嫁の滋が、しっくりときていないことに戒も気が付いていた。
 滋は野心的な女ではない。
 彼女が苦手な戒ですら、そんなことはすぐに気がついた。
 だが、反面我が強く、かなり自身の欲望にも忠実なタイプで、その破天荒さは、天真爛漫と捉えることもできたが、たいていの人間にとっては扱い難く、好意を抱くよりも苦手さを感じることの方が多いに違いない。
 それがなんの力もない相手だというのなら、楓とてこれまでのように無視を決め込むか、あるいは排除すれば問題はなかっただろう。
 だが―――。
 …滋さんは、大河原家の一人娘だ。
 そして、だからこそ、司や楓が望んで一族に迎えた人間でもある。
 「わからないな。…多少状況が変わったにしても、あなたに…道明寺家にとって、俺がいまだに無用の長物であることにはそう変わりがないはずでしょ?」
 「なぜ、そう思うのです?」
 始まった。
 楓はこちらの問いに対して、ズバリそのままで答えてくれることはめったにない。
 老獪な教師よろしく、質問には質問を、かえってこちらへと問題を投げかけ、煙に巻いてしまう。
 …そりゃそうか。
 簡単に自身の手の内を悟らせるようでは、海千山千の狐狸妖怪を相手に、ここまで生き残ってこれたはずもない。
 「佑都が死んだ。あなたがあの男の次の道明寺家を率いるべき存在だと目していた弟は死にました。でも、あなたの息子はまだまだ十分若い。新しい女と結婚したんですから、まだいくらでも子供なんてできるでしょ?」
 「ふふふ」
 失笑したのは、今度は楓の方だった。
 まだ子供と言える年齢の戒が、そんなことを言いだしたのがおかしかったのか、それとも実の父親のことを、‘あの男’、‘あなたの息子’と呼び、まるで他人事のように批評することに対してのものだったのか。
 「なにがおかしいんですか?」
 「…そっくりだと思ったのよ」
 かつて父とそっくりだと言われることは、戒にとって誇りであり、嬉しいことだった。
 けれど、今では会う人、知る人、ことごとくにそう言われることに苛立たしさを感じる。
 「あなたのお母様も、そうやってわたくしを真っ直ぐに見る人だったわ」
 「……え?」
 しかし、楓がそっくりだと言ったのは、誰もが口を揃えて並び称する父ではなく、母のことだった。
 それも当然のことか、と戒は皮肉にも思う。
 所詮、戒は道明寺のはみ出し者なのだから。
 「本当は自分に辛く当たるわたくしのことを、彼女も疎ましく思っていたでしょうし、恐れてもいたでしょう。あるいは、できることならもう、二度と会いたくもないと思っていたかもしれないわね。それでも、わたくしたちと和解しようと努力していた。司の為に…そして、あなたのために」
 ―――戒のために。
 「けっして諦めようとはしない人だったわ」
 楓のつくしに対する意外な評価に、戒が目を瞬かせる。
 だが、たしかに先ほど楓は、けっしてつくしを嫌っていたわけではないと言っていたか。
 それでも――疎んじていたと認めたのだ。
 どんな理由からであっても。
 それなのに、今、戒は不思議に祖母がこれまでになく、自分に近いところにいる気がした。
 彼女の言葉通り、自分に対する彼の誤解を解きたいと思って、この場に戒を呼んだのだと感じていた。
 「それなら、どうしてっ」
 「…………」
 どうして、母をこの家は、―――司は疎んじたのだ。
 愛していたはずの母を家から追い出し、違う女をその隣に据えたのか。
 そして、そんな母を捨てたくせに、彼女以外の女たちには、欠片とも優しさを分け与えようとはせず、冷たい横顔を晒し、まるで人間としての温もりなど知っていたことさえないかのような孤独を、司が纏うのはなぜだ?
 …愛していた?
 本当に?
 父が母のことを愛していたなどと、父の口から直接聞いたわけでもない。
 そして、記憶にある両親の仲睦まじい姿は、本当にあったことなのかどうか、戒自身にもすでに判別付き難いほどに遠い過去のこととなってしまっている。
 …でも、椿伯母さんが言っていた。
 けれどそれさえも、道明寺一族のはみ出し者である彼への、あの優しい伯母の思い遣りからくる気遣いだとしたら?
 いや、そもそも父は女を嫌っている。
 いまさらながらに思い浮かんだその事実に、戒は瞠目した。
 そうだ。
 妻子がある。
 だからこそ、世間や巷でおおっぴらに噂されてはいないが、司が女嫌いなこと…もしかしたら、妻子は隠れ蓑や単なる政略の駒で、本当はゲイなのではないかと真しやかに囁かれている噂さえあるのだ。
 何が真実で偽りなのか。
 「あなたは俺の両親の何を知っていて、なにをどう関わっていたんですか?…俺は知りたい」
 自身の生まれた理由を。
 父と母の真実を―――!




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