「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花③

愛してる、そばにいて0671

 ←愛してる、そばにいて0670 →愛してる、そばにいて0672
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 それはどういう意味なのか。
 楓は何を言っているのか。
 尋ねることは簡単なことだったけれど、すでにヒントは出されていて、ただでさえ回りくどい人間である楓にストレートに尋ねたところで、そのまま答えをくれることはありそうもない。
 この目の前にいる初老の女は、戒に付けられている年配の家庭教師の一人によく似ている。
 偏屈で権高い彼は戒の能力に対して疑いを持っていたから、常に戒を試し、戒の能力を測っていた。
 戒がその問いや働きかけに上手に応えることができなければ、彼に暗愚のレッテルを貼り、まるで取るに足らない人間であるかのように卑下して、名誉挽回するその時まで、まともに相対しようとはしなくなってしまう。
 「…………なら」
 「え?」 
 楓の思惑を測って物思いに耽りかけ、戒は彼女の言葉を聞き逃してしまった。
 「なんですか?」
 彼からすでに意識を反らし、窓の外の景色を眺めているように見えていた楓だが、それでも彼の問い返しに一瞬だけ彼をチラ見した。
 しかし、その横顔に一瞬浮かんだ表情は、どうやら自分の言葉を聞き逃した彼に対する不快感ではないようだ。
 …まさか緊張してるとか?
 鉄の女らしからぬことに、気後れしたように言葉を飲んで、わずかに息を吐き出したその頬の赤味は、今しがた通り過ぎたばかりの対向車のヘッドライトを反射したものではなかっただろう。
 「わたくしたちの屋敷に来ないかと誘ったのです」
 「……ロングアイランドの、ですか?」
 今から向かう先、楓とその夫―――司の父親である、戒の祖父母が住む屋敷。
 最初からそのつもりで、楓に同乗しているのに何をいまさらと、不審に戒はマジマジと楓の顔を見返した。
 「そうです。以前ならともかく、今わたくしは司にCEOの地位を譲って第一線を退いています。たしかにお祖父様は、いまだに病院と屋敷を往復していて留守がちではありますし、わたくしも第一線を退いた分、サロンやパーティなどの顔繋ぎに重きを置いて活動はしていますから、ずっと屋敷にこもっていわけではありませんが、それでも、海外出張でほとんどマンハッタンの屋敷にはいない司よりは、よほど留守にするようなこともないでしょう。……少なくてもわたくしは、毎日屋敷にいます」
 「…………」
 「…………」
 沈黙が続いた。
 「それってもしかして、俺にロングアイランドの屋敷で暮らさないか…と、そう、おっしゃってるんですか?」
 自分で口にしてみて、驚く…そんな感じだった。
 「ええ」
 そして、もっと驚くことに、楓に肯定されるに至って、戒の思考は半ばパンク状態になってしまっていた。
 …なんだって?
 これまで、ほとんど彼を無視するようにしてきた祖母の申し出が信じられない。
 何度も口を開こうとして、だが、何を言うべきか、…答えなどとっくに考えるまでもなく出ているというのに、戒が即座に楓の申し出を拒絶できなかったのはなぜだったのか。
 …意外だったからだ。
 思いもしないことを突然に言われたからだ。
 けっして嬉しかったからなどではないと、プライドが拒んで、もっともらしい言い訳を自分に言い聞かせる不毛を繰り返してしまう。
 「それこそ、いったいどういう風の吹き回しですか?」
 具合が悪そうだからといって、屋敷に誘ってきたことすら晴天の霹靂だったというのに。
 おそらく声は震えてはいなかっただろう。
 少なくても喜び勇んで足元にまとわりつく、飼い犬のようではなかったはずだ。
 鼻で嗤ってしまう。
 もちろん楓にも、そうして嗤う彼の気持ちは伝っていたに違いない。
 それでも彼女は前言を撤回することはなかった。
 「そうね。…あなたにそう言われてしまうのもあたりまえのことでしょう。わたくしでもきっとそう思うわ」
 「あなたは、あなた方は、俺を邪魔にしていたはずだ。庶民の出身で、道明寺家に何の利益ももたらさない嫁である俺の母親を疎んじて、俺のことも嫌っていたでしょ?」
 「嫌っていたわけではないわ」
 「……………」
 「あなたの母親を疎んじていたのは本当のことだけれど」
 それでもその疎んじていた嫁の息子である戒に、あっさりとそう認める楓を、潔いと言うべきだろうか。
 あるいは、冷酷だとなじるべきかとわずかに悩んで、戒は冷笑するに留めた。
 どのみちどんなお為ごかしを聞かされたところで、祖母たちが彼の母親を疎んじていた事実は、いまや誰にとっても周知のことだ。
 戒もまた、よく熟知していたことだったのだから。
 「でも、わたくしたちが彼女を疎んじて…厭っていたのは、今あなたや世間が言っているようなことが理由ではないわ」
 「………はは、何をいまさら」
 じゃあ、他に何があるというのだ。
 家の体面や繁栄の前では、個々人の好悪や善し悪し、感情など無意味なものだと、誰よりも切り捨ててきた女が何をいうのだ。
 「もちろん、両手を上げて喜んだとは言わないけれど、それでもおそらく、他のどの家庭の親であったとしても、二人が一緒になることを歓迎する人間はいなかったでしょうね」
 「………」
 母を誹謗するような発言をする楓を睨む戒とは真逆に、楓の横顔はどこかホロ苦く、意外にも彼の母親を蔑むものではなかった。
 「そして、わたくしたちの危惧するとおりになった。……それでもわたくしは、最悪の事態を防げたことで、今でも自分が成した役割を正しいことだと信じているのよ。本来ならば、十数年前に正すべきことだったのだけれど」
 「…なにを」
 楓が戒の知らない何か、…おそらく彼がこれまで知りたがってきた、父と母の事情の一端を口にしているのだと戒にもわかった。
 「あなたは何を言いたいんですか?」
 何を知っていて、何をこれまで隠し、さらには…今何を口にしようとしているのか。
 「それこそいまさらだけれど、あなたの誤解を解いて置きたくなったのかしらね」
 「…………」
 チラリと見せた笑みは、けっして楽しげなものではなく自嘲に満ちてはいたが、いつものように感情の伺えない冷たいものではなかったように戒にも見える。
 「わたくしたちは、けっしてあなたを嫌ってはいないし、疎んじているわけでもない。もちろん、憎んで排除しようと思ったわけでもない。少なくても、わたくしたちがあなたではなく、佑都にこの家を継がせようとしたのは、極めて理性的な理由からだったと言っておくわ」




web拍手 by FC2

関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【愛してる、そばにいて0670】へ
  • 【愛してる、そばにいて0672】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【愛してる、そばにいて0670】へ
  • 【愛してる、そばにいて0672】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク

┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘
女性に大人気!ビジネスから恋愛相談まで全部500円~!  
価格満足度97%、日本最大級のココナラに今すぐ登録!!

┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘