「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花③

愛してる、そばにいて0670

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 道明寺家の威光が隅々にまで行き渡り、警視総監にまでその影響力がある日本ではまた事情も異なったことだろう。
 しかし、アメリカではそうもいかない。
 道明寺財閥は数ある権力者一族の一つに過ぎないのだ。
 そして、その『学校』という型枠を打ち破るほどには、戒は優秀ではあっても『天才』と呼ばれる人々とは違ったから。
 「学校へ通いなさい。たとえあなたにとっては必要のない授業であっても、大学側が見るのはそうした学業成績そのものではなく、あなたの環境適応能力や協調性、リーダーシップ、忍耐力と責任感、その他有象無象、さまざまな分野での活躍を見込める人物になり得るかという『人物』そのものなのです」
 「…人物?」
 他者を虐げることで鬱憤を晴らしていたような人間を受け入れる機関が、『人物』とはおかしな話だ。
 まだ10才にしかならない戒にしても、何が‘悪’で‘善’であるのか、‘卑劣’の定義をも理解していた。
 「出席日数はともかくとして、そんな人物像なんて、道明寺家の力と顔があれば、いくらでも作れるものでしょう?だからこそ、あなたの息子が日本で何をしてきたにしても、平然とこちらで著名な大学にも入学を許され、経営者として立ってきた。…そして、今はあなたをも押しのけて、道明寺ホールディングスのCEOにもなれたんじゃないですか。それがどうしてその厚顔無恥な男が許されて、その息子である俺が同じことをしようとしても許されないんです?なぜ?」
 司を楓の息子…とのみ呼び、自らの父親を嘲る言葉を吐く戒の物言いに、楓がわずかに眉根を寄せ、戒の顔をジッと見つめる。
 しかし、その視線を真っ向から受け止め、けっして反らそうとはしない彼の強い眼差しに、先に視線を反らしたのは楓の方だった。
 そして、小さくため息と零す。
 「あなたに関して、聞き捨てならない噂がわたくしにも聞こえてきています」
 「……………」
 「あなたといざこざを起こした生徒が、暴力や辱めを受けて…自主退学に追い込まれているとか?」
 「ああ」
 戒があっさりと頷く。
 「赤札でしょ?もうやっていませんよ」
 にっこりと笑って堂々と自身の行いを肯定する戒の顔は、この上なく美しく悪意に満ちて、だが彼という人間を知らない者だったら容易に信じてしまいそうな無邪気なものだった。
 戒は自分の容姿が武器になることを知っている。
 その父親とは違って、傍若無人なだけでは生きることが許されなかったからこその処世術であり、そうしようと思えばいくらでも他人を欺き、自分自身でさえ偽ることができた。
 もっとも、この目の前の祖母だという女をも謀れると思っていたわけではなかったけれど、それでも訳知り顔で自分に忠告してくるこの女の傲慢さがことの他可笑しく、それを隠すつもりがなかっただけだ。 
 だから、嗤った。
 …さんざん自分の息子の尻拭いはしてきて、孫の俺の尻拭いはできないって話はないはずだろ?
 「やめなさい」
 「なにがです?」
 「我が子の不祥事も揉み消すばかりで、防ぐことができなかったわたくしを嘲笑いたくなるあなたの気持ちもわかります。けれど、その愚かだとわかっている所業を、あなたが繰り返すいいわけにけっしてなりはしません」
 楓はわかっているのだろうか。
 今、彼が投げかけた質問を、遠まわしに自分が肯定したことを。
 ―――お前の父親がやりだしたことなんだぜ?赤札を貼ったヤツをターゲットに、みんなでシカトしたり、物をブツけたりして追い込むゲームなんだよ。高等部の時、道明寺司はお前の母親に赤札を貼って遊んでたんだ。
 何度となくリフレインして蘇った言葉が、戒の脳裏一杯に溢れ出す。
 先ほどやっと収まったはずのいつもの吐き気や頭痛が、蘇ってしまうことがないようにと、戒はぐっと拳を握って気持ちを引き締め、必死で意識を散らすよう努める。
 「ここは、道明寺の威光がすみずみまで行き渡った日本ではなく、アメリカだといことを肝に銘じておきなさい」
 「アメリカじゃなければ、………どうとでも握り潰してしまえる日本だったらなら、何をしてもかまわないとでも?」
 彼の母親やそのほかの人々が、司によって虐げられていたのをかつて見逃したように。
 あるいは、道明寺家の醜聞だけを憚って、すべてを握り潰してしまったように。
 それでもこの目の前の彼の祖母だという女にも、多少なりとも良心らしきものがあったとでも言うのか。
 いや、単なる認識でしかない常識というやつだったのかもしれなかったが、それでも言外に弾劾する戒の言葉に反論することはなかった。
 さすがに、堂々と肯定してのけるほどには厚顔無恥というわけではなかったらしい。
 …わかっていながら、あんたもあいつの暴挙を見逃していた。
 結局は同じ穴の狢。
 自分たち以外の人間はすべて虫けらで、サラブレッドしか認めないその傲慢さが、人間の種類を明確に分け、他者を平気で差別し虐げて、踏みつけることになんの痛痒も感じていないのだ。
 おそらく醜聞にさえならなければ、楓は司や戒が誰を傷つけようと…あるいは誰かを殺めてさえ、気にするもなかったのかもしれない。
 ―――それこそ楓が、道明寺家が握り潰してしまえる範疇内のことであれば、なんであっても見逃したのか。
 物言いたげな楓の視線に、戒は肩を竦めた。
 「醜聞を気にしてらっしゃるなら、もう俺のことは心配なさらないでください。赤札にしても、もうやっていないって言ったでしょ?あなたの息子とは違って、そういうところでは、俺は根気がないんです。面白味も何もないそんなくだらないことを、いつまでも延々と続けていられるほど暇じゃありませんしね。出席日数に関しても、ある程度は考慮していますよ。今はまだエレメンタリースクールだ、大学入学の選考にはまったく影響がない。だから、もちろんジュニアハイになれば、そこのところももっと気にするつもりでいます。これで全部問題は解決だ。……まだ、何かありますか?」
 この不毛な会話の行き先に、すでに戒は飽きていた。
 この女には聞きたいことがあった。
 けれど、我が子の成した非業にすら興味を持たなかったこの女が、蔑み疎んじていた嫁と息子の馴れ初めなど知っていようか。
 たとえ知っていたにしても、憶えているものかも怪しい。 
 それとも‘鉄の女’と呼び称される人物なのだ。
 どんな些細なことでも把握し、記憶していないということはないのかもしれなかったが。
 「あなたが問題がないというのなら、わたくしも信じましょう。おそらく司の少年時代を信じることよりは、あなたを信じる事の方が容易なことでしょうから」
 どこまでも回りくどく微妙な言い回しに呆れて、皮肉な笑みのカタチに口角を歪める。。
 「それはどうも」
 「しかし、評判というものは、時に一人歩きを始めるものです。たとえ今がどうであろうと、あなたが…ここアメリカではあなたが始めたことには違いないでしょう?」
 「……………」
 「始めてしまったからには、最後までやり遂げるか、あるいは辞めてしまうことも正しいことではありますが、その行く末を最後まで見届けて、適切な処置を施すことがもっとも重要なことなのです」




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