「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花③

愛してる、そばにいて0669

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 薄っすらと唇の端に佩かれた笑みに、相変わらず温かみはなかったけれど、不思議に祖母が今浮かべている笑みは、社交辞令の冷たい笑みなどではなく、彼の言動に愉快さを感じてのもののように思えた。
 「生意気ね」
 「…ええ」
 あっさりと肯定した戒の返答を、楓は意外にもお気に召したらしい。
 膝の上に置いてあった本をパタンと閉じて、じっくりと会話をするつもりになったようで、楓は姿勢を正して戒へと向き直った。
 「あなたのお父様、…わたくしの息子もたいがい無礼で無作法だけれど、あなたはその年齢で慇懃無礼さをも身につけているようね?」
 「いけませんか?」
 「嬉しくはないわ。でも、仕方のないことだと言うことは、あなた以上に厚顔な自覚のあるわたくしにもわかっています」
 どれだけ気詰まりを感じることかと思っていた。
 長年彼を拒み、疎んじてきた道明寺家の象徴のごとく思ってきた彼女と相対するプレッシャーを、過大評価していたとでもいうのか。 
 むやみやたらに恐れていたつもりはないが、それでも戒にとっての楓は敷居が高く、祖母であっても身内ではない、他人よりもずっと遠い存在だったのだ。
 もちろん目の前の祖母は、けっして今も彼を受け入れたわけではないだろうし、認めてはいないに違いない。
 けれど、不可思議な慕わしさ…親しみとでも言うべきか、他人には感じることない何かをそこに感じて戒は戸惑っていた。
 …どうして、俺は?
 この目の前の…年を取り始めた、だがまだまだ覇気に満ちた女傑を憎み嫌いきれないのだろう。
 戒よりも遥かに長い時を生き、様々なことを経験してきた楓であればその問いに答えることができたことだろう。
 それが血というものであり、互いの中にある自身の欠片ともいうべき相似性に感じる慕わしさと親しみ、どんなに互いに忌避しようとしても無視しえぬ理由であるのだと。
 そして、時にだからこそそこに嫌悪や憎悪が生まれる。
 そうした感情は近しすぎるがゆえのもので、人は自分とはあまりにかけ離れた存在には嫌悪や憎悪、嫉妬といった悪意を感じにくいものなのだ。
 最初から手の届かないもの、あるいは取るに足らないものには、生々しい感情を抱くことがない。
 崇拝か、あるいは冷たい無関心か。
 「あなたの成績のことは聞いているわ」
 もちろん、それもまったく意外なことではない。
 戒につけられた家庭教師たちは司によって付けられた人間たちで、彼らの報告義務がある雇い主は司だけだが、司にしてみても特にそうしたことを隠しはしないだろう。
 「さすがですね。一時期、学習のペースが落ちていたこともあったようですが、同年代の学生たちの学業成績はもちろんのこと、かなり年上の者たちすら凌ぐ成果を見せているとか」
 学習のペースが落ちていた…というのは、戒がジーナのアパートに入り浸っていて、しばらく勉強に力が入っていなかった時期のこと言っているに違いない。
 楓は率直な人物だ。
 そして現実的で実力主義を重んじる人間でもある。
 たとえ疎んじている人間であっても、その能力を過小評価することはないし、彼女の目に留まるだけの成果を出す人間を無碍にはしない。
 ほとんど接触することがなかった戒ですら、それを知っていたのは、祖母と孫としての交流からではなく、他者からの評価であり世間の風聞からであるという皮肉はあったが、それでも彼の胸にじんわりと湧き上がる感情がある。
 それを祖母によく似たその冷ややかな笑みで隠しながら、戒はそんな自分に戸惑ってもいた。
 おそらく言葉に表せば…その感情の名前は‘喜び’だっただろう。
 自分をこれまで卑下して疎んじてきた相手の鼻を明かしてやれたという喜び。
 しかし、そうしたものとはまた別に、ただこの目の前の…本来身内である女性に、少しでも自分を認めてもらうことができたという想い。
 それを自覚するには戒は屈折しすぎていたし、自身を大人になぞらえるほどに大人びていただけに、自分にまだそんな子供らしい感情が残っているなどとは、とても認められなかったけれど。
 相変わらず楓の声音には抑揚がなく、戒への親しみや情愛は少しも感じられなかったが、戒は気にしなかった。
 と、いうか、楓の場合は戒にだけではなく誰に対してもそう変わらなかったし、実の息子の司に対してさえそうなのだ。
 また、そうでなくても戒は元々この祖母に何を期待しているわけでもない。
 むしろ自分への嫌悪ではなく、客観的なものだが、評価らしきものをしているのことこそ意外なだけだった。
 「このままいけば、あなたの希望しているとおり、ジュニアハイスクール(※中学校)を卒業と同時に、大学の入学資格を取得することも可能かもしれません」
 「……かもしれません?」
 戒が必要としているのは、「かもしれない」などという不確かなものではなく、確証だったが、楓の物言いの中にあるそれは、今の段階では…というよりは、何か別の懸念を指し示す含みがあるように思われた。
 「そうです。アメリカにおいての入学審査の基準には、6つの要素があることはあなたも知っているわね?」
 「ええ」
 当然、高校をスキップして大学受験に臨もうというのだから、それなりの準備もしているつもりだし、先々のことも念頭に調べてもいる。
 「テスト、推薦状、エッセイ、面接、課外活動、学校の成績6つのうち、テストに関してはこれからのあなたの頑張り次第ではありますが、それにしても、先日のNAEP(※全国統一テスト)の模擬結果から言っても、それほどの不安はないでしょう」
 当然のことだ。 
 そのための努力はしてきたつもりだったし、他の同じように英才教育を受けてきた子供たちよりもさらなる苦痛を耐え、自らに苦難を課して、幼い頃から勉強に励んできた。
 ―――サラブレッドではないことを、他人に蔑まれないために。
 「推薦状はいくらでもどのような人間からでも、あなたの父親や総帥の名前で得ることができるものですから、これも問題がない。エッセイや、面接に関しても、うちにはいくらでもそうした方面での教授連を揃えることができるのだから、言うに及ばずでしょう。しかし、課外活動に関しては……」
 「ジュニアハイに上がってから、道明寺が支援を行っている関連団体のボランティア活動にでも励むつもりです」
 早くから道明寺財閥の事業に関わることは、将来的に戒が道明寺財閥を掌握するための足がかりの第一歩にもなる。
 戒の間髪入れない返答に、楓が頷く。
 戒が道明寺財閥の事業に積極的に関わろうとする姿勢に対する彼女の私見は表には表してはいないが、現在彼が司のただ一人の息子であることは事実であり、また、どれだけしっかりしていようと、エレメンタリースクール生でしかない彼の能力や意思などまだまだ未知数なのだ、今から目くじらを立てる必要もないと侮っているのかもしれなかった。
 「それでいいわ。でも、ただ一つ、あなたに足りないものがあります」
 「……………」 
 「いくら能力値を高く保とうと、著名な人物の推薦を受けようと……学校での成績、こればかりは、あなたが学校への不登校を続けるかぎり、わたくしにも道明寺家にもどうしてあげることもできないわ」




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>JJ様

こんにちは、いつも応援ありがとうございますm_ _m


日本で言う大検(大学入学資格検定)的な資格をGEDというんですねぇ。
ほおお。
初めて知りました。
ありがとうございますm_ _m



ご指摘かはちょっとわからなかったのですが、NAEPについては、もう一つ似たような?試験(後にお話の中で出てくるかもしれませんが)と共に戒の学力を知る指標として、道明寺家の家庭教師たちが過去問題から模擬問題を作成して模擬テストを繰り返していると設定にしております。


日本でも、塾や家庭教師などが大学・高校受験問題や、県下一斉テスト(県によって異なる)の過去問題を使用して、生徒の学力確認と向上を目的に繰り返しているのを参考にいたしました。


毎年行われるテストではないこと、テスト結果は公表されないこと、過去問題を利用していることは→480話 http://toloveyou.blog.fc2.com/blog-entry-2301.html のお話にて説明してあったため、「ま、いっかぁ」と怠っておりました。
すみませんm_ _m


しかし、とても簡単なテストなんですねぇ~。
調べた範囲では、平均が半分くらいの点数で、高得点を出すには大変だという感じだったのですが、やはり現地の方のお話を聞くのとでは違いますねぇ~。
(しかも、満点とかだとどれくらいのレベルの学生かわからなかったという^^;)
とりあえず、過去問題を公表されるかどうかは、たぶん調べたと思うのですが、すでに執筆済の資料はほとんどが削除してしまっているためわからないのですが、過去の生徒たちのゾーンは公表されるということでしたので、道明寺家なら過去問題を入手して、それを御曹司にテストさせてレベルを知る指標にするかな、とかいう安易な設定でした。
また、娯楽小説である為、細かい概要などを省略いたしましたこと、ご了承くださいm_ _m


JJさんのくださった情報、とても参考になりました。
ありがとうございます^^
また何か思いつかれたことがありましたら、よろしくお願いいたします。

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