「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花③

愛してる、そばにいて0668

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 「どうするの?」
 冷たい温度のない声は、どうやら滋ではなく戒へと問いかけているようで、珍しく自分を見ている…父親によく似た初老の女の顔を戒はジッと仰ぎ見る。
 けれど、その鉄面皮な顔にわずかに浮かんだ表情に、分刻みのスケジュールを普通として生きてきた人間の苛立ちを感じて肩を竦めた。
 「俺を招待してくださるんですか?」
 「ええ、そうだと言っているつもりよ。この後、あなたに特に予定がなくて、わたくしについてくることをあなたがイヤだと思わないならね」
 珍しく下手に出ているらしいこの女性らしくないセリフに、いったいどういった風の吹き回しだと思いつつ、ある意味、彼の目論見どおりではある。
 それでも一応は、今日の同伴者であり彼の保護者である滋へと視線を向け許可を取る。
 「……いい?」
 「え…あ~、えっとぉ、もちろん私は戒君がそれでいいならいいですけど。…でも、学校もありますし、その…あんまり何日も…というのは」
 ずいぶんな気の回しようだ。
 「もちろん?そんなに何日も引き止めるつもりではありませんよ。人酔いしただけなら、今夜ひと晩も休めば回復するでしょう?学校へは、いつもより早めに車を出せば問題ないのではなくて?」
 戒がめったに学校へと通学などしないことを知らないのか、あるいは単にトボけているのか、確認をとるように楓が視線を戒へと流す。
 「じゃ、それでお願いします」
 ソファの肘掛に手を置き、力を込め、気合い一つで体を起き上がらせる。
 とたんに吐き気がこみ上げた。
 わずかに顔を顰め、しかし、戒はすぐに何食わなさを装って姿勢を正す。
 それでも先ほど緩めたシャツの襟やネクタイを直した頃には、すでに体調不良の名残も完全に隠し去って、わずかな微笑さえも浮かべることに成功していた。
 「滋さんはどうする?」
 「そうねぇ、私はもう少しできたら挨拶しておきたい方がいるんだけど…戒君、本当に平気?」
 最後の言葉は楓の目を憚って、トーンを落として戒の耳元へと囁かれる。
 が、
 「なにを心配することがあるというのです?」
楓の耳にも届いてしまったらしい。
 「私と戒は祖母と孫、身内ですよ?」
 ―――身内。
 これまで身内などとはけっして認めてこなかった人間が何を言うかと、戒は思わず笑ってしまいそうになった。
 …どういう風の吹き回しだよ?
 そんな彼の嘲る気持ちを見透かしたのか、楓が皮肉に口角を上げて、言葉を付け足す。
 「たとえ互いにどんな感情を抱き、どんな関係であろうと、特になんのメリットもないのに、私の言葉に言外に含みなどなくてよ?とって喰いなどしないわ」
 「はあ」
 滋も仕方なく、楓の言葉に頷いた。
 どの道、楓がどんなつもりであろうと、戒に選択肢などないのだ。
 彼女から聞きたいことがあるのは彼で、祖母の申し出は渡りに船であることは間違い。
 「表に車を回させています。……わたくしはこれから、主賓の一人であるレインズ補佐官の奥様にご挨拶をしてから、今日は帰宅するつもりです。あなたはどうしますか?わたくしと一緒にご挨拶に伺えるようなら同行なさい。体調が優れず、とてもではないけれどご挨拶に上がれないようなら、私の秘書と一緒に先に車へ行ってちょうだい」
 おそらく寝不足と過労…それにストレスによる吐き気と頭痛、自家中毒症状の一種だろう。
 蛙の子は蛙と言われるが、戒もまた滋の言うとおり、そういうところもまた司の気質を強く受け継いでいて、元々が道明寺家の血筋ゆえなのか、完璧主義で、自身の打ち立てた目標の為なら過激な努力や無茶も厭わない。
 だが、それだけにストレスが強く、精神的にやや過敏な面があった。
 …いくらなんでも、頑張りすぎたか。
 たかが模擬テストだったが、それでも、この目の前の祖母だという女や、父が彼の能力を測っていると思えばこそ、手を抜くことなどできはしなかった。
 「もちろん、俺も同行します。道明寺家の嫡男として、…あなたの孫息子として、相応しい挨拶をしなくてはならないですから」




*****




 時間はたっぷりとある。
 目の前の冷然とした美貌をぴくりとも動かすことなく、分厚い装丁の本に見入っている女の顔を、戒はジッと観察していた。
 すでにかなり白いものが混じり始めているのだろう黒髪は、しかし綺麗に染め上げられ、そんな気配は欠片ともない。 
 鼻筋が通った彫りの深い顔立ちには、シワ一つなく、その往年の美貌を忍ばせる。
 彼の父親の母親。
 父親はこの祖母によく似ていると言われているが、その祖母である女の一人息子に、戒はよく似ていると他人から言われるから、目の前の女と自分もまたよく似ているということなのだろう。
 内面はともかくとして、実際に容姿には各所に共通項があった。
 それは他人ならずとも、鏡の中で見る自分の顔に認めることができる。
 「………わたくしの顔がそんなに物珍しくて?」
 当然のことだが、ジロジロと観察されている当の相手にも知られていたようだが、楓の方もだからといって、特に気まずさを感じていたり、居た堪れなさを感じているわけではないらしい。
 …当たり前か。
 長く世界経済の中枢に座して、‘鉄の女’と異名をいただくほどの烈女なのだ。
 たかが戒のごとき、洟垂れ小僧に何を臆することがあるはずもない。
 しかし、戒の方でも、楓に対してなんの遠慮や、気後れも感じる必要性を感じていなかった。
 「物珍しいですね」
 「人の顔をジロジロと見るのは、ずいぶん無作法なことよ?」
 あまりに当たり前のことを意外な人物が口にしているが、相手の目を見ることもなく、顔すら上げずに本に見入ったまま、他人と話す無作法を犯している女が言う、いけしゃあしゃあとした物言いがいかにも可笑しかった。
 「無礼な人間に、無礼を咎められる筋合いはありませんから」
 「……………」
 楓の顔が本から上がり、ジロッと戒を見据えた。
 祖母と孫というよりは、互いの力量を測る敵同士でもあるかのような、鋭利なもの含んだ交感。
 鉄の女の眼差しは、彼の心の奥底さえも見透かし暴きたてるがごとく鋭く、第一線を退いて今尚怖気させるほどの威圧感を持っていた。
 けれど、戒もまた道明寺家の一族。
 この目の前の、彼への情愛のカケラさえも見せない女の孫であり、道明寺司の息子なのだ。
 あの父の視線を受け止められて、楓の視線を受け止められないはずもない。
 一瞬が永遠にも感じるほどの緊迫した時間が過ぎる。
 もしかしたら、それは本当に数秒のことだったのかもしれなかったし、そう感じたのは戒のみのことだったかもしれなかったけれど。
 その緊張感と威圧に、戒の手のひらにじっとりと汗が滲む。
 ドクドクと心臓の音が相手に聞こえてしまうのではないかと、彼が危惧し始めた頃…。
 「体調の方はだいぶ回復したようね?」
 「……おかげさまで」
 実際やせ我慢ではなかった。
 それどころではないのが本音のところではあったが。
 「顔色も戻ったようだし、ひとまずは安心というところかしら?勤勉であるということは美徳ではあるけれど、過ぎたるは及ばざるが如しとよく言うわ」
 「それはあなたの夫や息子に言ってください。その結果が、体を壊して、還暦を前にして第一線を退くことになったあなたの夫だし、あげく息子にも、同じ道を辿るのが目に見えるような働かせ方をしているのはあなたの方でしょ?」




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