「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花③

愛してる、そばにいて0667

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 「人酔いしちゃった?」
 「そういうわけでもないけど」
 首輪のようなネクタイを緩め、襟元を寛げて戒が小さく息を吐き出す。
 「ごめん」
 ソファに座る戒へと、滋がオレンジジュースのグラスを差し出すのを受け取り、頭を下げる。
 戒の謝罪に対し滋も特に慰める感じではなかったが、それでも小さく苦笑して頭を横に振っていた。
 これでもし、さらに滋に気を使われてしまっていたら、さらに彼のプライドが軋んだことだろう。
 これでは男女あべこべだ。
 彼はまだ少年とはいえ、幼い頃から徹底的にレディファーストを叩き込まれて、上流階級の紳士としての嗜みを身に付け、女性のエスコートも卒なくこなしてきたというのに。
 自分の分のシャンパンも、通りかかったウェイターから受け取って、滋が戒の横に並んでソファへと腰を下ろす。 
 人々からは死角の位置だ。
 いつもは衆目の中心にいる彼らも、息を潜めるようにひっそりと柱の影に身を潜めていれば、海千山千の社交雀たちでさえも、もうそれだけで意を自然に汲み取って、あえて彼らの不興を買うのを承知で声をかけてくるような猛者はいなかった。
 おもねりと保身には、常に鋭敏な臭覚が必要なのだ。
 「戒君てさ、意外に真面目だよね」
 「……………」
 「私なんかはそうなんでも全力投球で頑張らなくてもいいと思うんだけど、考えてみれば、あんたのお父さんもめっちゃくちゃハードに仕事してるし、そのお母さんであるあんたのおばあ様も言うに及ばずだものね」
 道明寺家の人間は、戒に限らず誰もが厳格で、他人に対してだけでなくそれ以上に自分たちに過酷な人々だ。
 「元々お祖父様が第一線を退かれて、司が若くして矢面に立つようになったのも、長年の激務が原因でしょ?道明寺家って、100か0かって勢いでどの人もがむしゃらじゃない?」
 いったいこの女は、何が言いたいのか。
 まるで華やかな尾ビレを震わせあちらへこちらへと泳ぎ回る熱帯魚のように、人波を行き過ぎる人々の群れを、どこか楽しげに眺めている滋の横顔を、戒がジッと無言で仰ぎ見る。
 この水槽のような世界を厭って飛び出したはずの女が、不思議に馴染んで水を得た魚然としてそこにある不思議を思う。
 …それも当然か。
 滋は元々が生粋のこの世界の人間なのだ。
 この世界で生まれ育ち、本来はこの世界で死ぬべき定めの人間。
 同じ様に生まれ育ってはいても、紛い物の戒とはまるで異なる存在。
 ―――戒の父である司と、生まれながらにして対になるべくして生まれたような女。
 それなのに…。
 …あの男は自分の生まれながらの宿命に逆らって、この人ではなく、俺の母親を選んだ。
 今や戒も知っていた。
 この目の前にいる女……彼の継母となった女が、かつて司の婚約者として定められていたことを。
 その対なる女を振り捨て、一族と家に反逆し、司はつくしを妻にしたのだ。
 しかし、いずれはあるべきところへと戻ることが定めだったとでもいうように、父は戒の母を捨て去った。
 そして、様々な変遷を得て、結局はこの女へと辿り着くことこそ運命だったのか。
 …じゃあ、俺の存在は?
 母が‘道明寺つくし’―――彼の父の妻として過ごした歳月はいったいなんだったのか、と。
 「毎日毎晩、遅くまで勉強してるんですって?」
 どこから得た情報かなどと聞くのも野暮な話だ。
 特に口止めしているわけでもない。
 そしてまた、たとえ戒がそうしようとしたとしても、司やこの継母がそうと望めば、彼の動向など何一つ知られずにいることはできやしないのだ。
 「偉いって?」
 「まあ、偉いけど。そういう子供扱いの褒め言葉は嫌いでしょ?」
 よくわかっていらっしゃる。
 「じゃあ、なに?」
 「どうしてなのかな、って思って」
 「どうして?」
 まるで子供の掛け合いだ。
 なぜ、なに、どうして?
 一つ答えれば、また「なぜ」と問いかけられる。
 子供のようなのはむしろ滋の方だ。
 …可愛げのない継子の俺なんか、放っておけばいいのに。
 遥香もこの女も―――司を愛して、彼の関心を得たいと願う司の妻たちは、どちらも戒におもねった。
 彼を通じて夫を手に入れようとか、戒をけっして放っておいてはくれない。
 どうして誰もがわかることをこの賢明で、…おそらく社交界によくいる女狐たちよりはずっと上等なはずの女たちは気がつかないのだろう。
 …あいつは、誰も愛さない。
 たとえ戒の関心を得たとしても、司はけっして自分の妻を愛することなどありはしないのだとなぜ認めないのだ。
 そして、自分は?
 「学校には行かないのに、どうしてそんなに頑張って勉強してるわけ?司はそこまで煩い親じゃないでしょ?」
 「煩くないからといって、求められているものをわからないでいられるほどに、俺はバカじゃない」
 「求められているもの?」
 「結果だろ?学校なんて無意味で、単なる形式的なものでしかない。必要なものは全部家庭教師たちから学んでるじゃないか」
 むしろ各界から著名な教授を雇入れ、最高峰の教育を施されている自覚もある。
 「俺が道明寺家の跡継ぎとして必要とされているかどうかはともかくとして、今現在ただ一人、道明寺司の息子であることには違いない。その俺が、ボンクラなアホガキで、人の後ろ指を差されるような能力のないヤツだったとして、恥をかくのは俺じゃない」
 道明寺司であり、引いては道明寺家だ。
 しかし、それ以上に、そうした批判や非難は道明寺家ではなく、道明寺司が娶った庶民の元妻のせいだと、口さがない人間たちは言うことだろう。
 すべてを彼の母親一人の罪にして、同じ世界の人間である司や道明寺家には、たとえ上辺だけあっても同情を寄せて、これだから下層の人間はと彼の母親を蔑んで溜飲を下げるのだ。
 「その通りよ。―――あなたたちが悪い意味で、人々の口の端に上るようなことがあれば、それはあなたたち個人の事のみならず、我が家の―――道明寺財閥の恥であり瑕疵になるのです」
 突然割り入った女の冷たい声音に、戒と滋がハッと背後を振り返った。
 「……っ」
 「あ……」
 「お久しぶりね、滋さん。……どうしたのかしら?人酔いしているようなら、マンハッタンの屋敷に連絡して車を回させなさい。それとももうしばらくこちらで一休みして、わたくしと一緒にロングアイランドの屋敷の方に来ますか?」
 そこにいたのは、道明寺楓―――戒がほとんど数年ぶりにまともに顔を見た、彼自身の祖母だった。




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~ Comment ~

初コメで失礼致します

おはようございます。

コメが下手で悩みながら…させていただきました。
先が気になる読み手としては間を取らずの更新に…
とても感謝しています。

戒君…身体は大きくてもまだ小学生ですよね。
彼の苦悩はいかばかりかと。
表情、心の内…態度…。
それを表現してくださる言葉、文に頷きながら読ませて頂いてます。司の心情…思い…それが戒君と繋がるように祈るしかないと…。
戒君の心がおちつきますように…🙏

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