「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花③

愛してる、そばにいて0664

 ←愛してる、そばにいて0663 →愛してる、そばにいて0665
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 「な…に言って」
 さすがの滋も打てば響くようにとは返答し難かったらしく、虚を突かれたように目を見開き絶句していた。
 しかし、そんな波紋を投げかけた当の戒の方は、滋の驚愕や葛藤にはそれ以上踏み込もうとはせずに、淡々と何事もなかったかのような顔で食事へと戻っている。
 「別にいいけど。俺には関係ないことだし」
 「……戒君」
 「あんたの思惑がどうであれ、元々俺の方から頼んだことだ。…結果的に俺にとっては無意味なことだったけど、あんたには他にも借りがあるから、しばらくはあんたの気が済むまで付き合うよ」
 「借り?」
 意外そうな滋の声音に、チラッとだけ視線を走らせ戒が小さくため息をつく。
 そんな仕草はやはり司によく似ていて、先ほど戒が口にした指摘が、滋の脳裏をグルグルと渦巻いていた。
 それでもわずかに逡巡したように戒の言葉に間が空いたのは、この子供らしからぬ少年にも戸惑いや、躊躇するものがあるからだと思いたい。
 …そうじゃなきゃ、あまりに可愛げがなさ過ぎるってもんでしょ。
 「バイト」
 「え?あ…ああ」
 滋も戒の言っている意味にやっと察しがついて、頷きを返した。
 「ジーナだっけ?あの子。凄く真面目に良くやってくれてるみたいよ?イイ子を紹介してくれたって、評判がいいから私も鼻高々よ」
 つい先日のこと。
 ちょうどニューヨーク道明寺邸の総執事長に、メイドの口を戒が斡旋させようとしていたところに滋が出くわした。
 メイドと一口に言っても、道明寺家のメイドともなれば、そんじょそこらの身元も知れないような人間を入れたりはしない。
 場合によっては、一家の安全を脅かし、どのような損害を与える存在となるやもしれぬのだ。
 道明寺邸には、世界経済を担うVIPも出入りし、道明寺一家自体がそうした重要人物だ。
 また、屋敷内には国宝級クラスの貴金属類や、貴重品がわんさと犇めいている。
 いくら強固な警備体制を敷こうと、内部からの犯行を防ぐのは外からの犯行に比べて格段に難しい。
 道明寺家の使用人といえば、身元も保証をされた人間から選抜され、専門の高度な教育を受け、それ専用の信頼の置けるエージョントを介して紹介されたエリートたちばかりだった。
 そしてその中には、五つ星ホテルのマネージャーを努めたような人間もいて、ほとんどの人間がそれなりの資格を有している。
 どこの屋敷やホテルに引き抜かれても、おかしくない逸材たちなのだ。
 それなのにいくらお屋敷の御曹司の申し出とはいえ、当主である司やその司に準ずる責任者の許可もなく、おいそれと身元も確かではない人間を雇うことなど、できない相談であるのは当然のこと。
 のらりくらりの言い逃れる総執事長と、戒のやりとりを聞いていた滋が、戒にジーナのアルバイト先を斡旋したのだ。
 そこはやはり大人である滋に一日の長がある。
 また一時期家を出ていたり、花嫁修業と称してロクに家業に関わってこなかったとは言え、大財閥の令嬢である滋には、彼女個人でもそれなりの人脈があった。
 「正直、助かった。俺じゃ、たぶんどうしてあげることもできなかったから」
 戒の口調に、わずかに悔しさが滲む。
 金を施せばいい、ただそれだけのことではないのだ。
 「だから、……ありがとう」
 意外な人物からの意外なほどの素直な感謝の言葉に、今度こそ滋が間抜けヅラを晒してポカンと戒に見入ってしまう。
 それこそ滋は思ってもみなかったのだ。
 けっしてその父親ほどには傍若無人といった感じでもないが、いかにも高慢そうな戒が礼を言ったりすることができる人間であるなどとは。
 …へぇ。
 「本気で、しばらく私のサロンまわりに付き合ってくれるつもりなんだ?」
 「……必要なら」
 「ふふふふふ」
 満面の笑みを浮かべ、含み笑う滋の嬉しそうな顔から視線を反らし、おそらく照れ隠しにだろう戒がさらにため息をついて席を立つ。
 「もう、食事終わり?」
 「…………明日、何時?」
 「ん~、17時からのハイティーを兼ねた集まりなんだけど、私も仕事の都合があるからさ。ちょっと顔を出す程度で、最後まで付き合わないですむ感じかな?」
 「ふぅん?どっかの屋敷?」
 「メイプル」
 「了解」
 聞くべきことだけを聞くと戒はあっさりと話を切り上げ、席を立ってしまうのはその父親である司と同様だ。
 しかし、たしかに何かに付け司を引き合いに出して彼と比べているのでは、戒の言うとおり、滋が彼ら親子を重ね合わせていると思われても仕方がないことなのかもしれない。
 …やっぱりわかっちゃうかぁ。
 もちろん、滋もすでにイイ年の女だったから、戒に指摘されずとも自分の気持ちくらい自覚があった。
 だがそれはそれで、そのことを司本人にしても…だが、戒がどう思っているのかかなり気になりもする。
 「ね、戒君」
 ここも以前とは変わったところだろう。
 以前は呼び止めたところで、そうそう振り向いて立ち止まってくれることさえなかった戒が、滋の呼びかけにも一応は丸無視することなく振り向いてくれる。
 それが嬉しい。
 戒の軟化がまるで司の軟化のようで。
 今は完全に滋を女として見るどころか、下手をすると、単に利用価値があるというだけで、同じ人間とさえ思っていなさそうなあの司さえも、いつか態度や気持ちを変えてくれる日が来るかも知れないという希望のように思えた。
 だから、今はむやみに自分の欲しい答えを迫って疎まれるのではなく、戒の望みに添うことに努める。
 …いつかは。
 そんな願いを込めて。
 「お祖母様にお会いしたいのなら、頑張ってサロンやパーティ巡りをしなくても、今月半ばの司の誕生日パーティに、お祖父様とお祖母様のお二人もこちらへいらっしゃるはずだから、その時の方がゆっくりとお話できるんじゃないの?」 




web拍手 by FC2

関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ  3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【愛してる、そばにいて0663】へ
  • 【愛してる、そばにいて0665】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【愛してる、そばにいて0663】へ
  • 【愛してる、そばにいて0665】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク