「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花③

愛してる、そばにいて0662

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 しかし、振り下ろした手をけっして開くことができずに、司はブルブルと震える手を眼前に掲げ、そっと手のひらを開いた。
 その手のひらの中の…かつて彼とつくしの愛の証として存在したその指輪を眺め、司はくくっと顔を泣き笑いに歪めて嗤う。
 「まったく……女々しいったらありゃしねぇぜっ」
 誰が信じるだろう。
 天下の道明寺司が、たった一人の女に、連綿と未練を募らせ、その女を奪うことも壊すことすらできずに、ただ指を咥えて眺めるだけで、こんなちっぽけな指輪一つに縋りつく不甲斐ない男であることなど。
 たかが在りし日を忍ぶだけのモノになど執着して、捨て去ることさえできない自身の脆弱さが憤ろしく、可笑しいと自身を嘲笑う。
 再び指輪を握りこんだ拳を口元へと運び、司はいつものように指輪に直接口づけを贈ることができずに、手の甲越しにそっと唇を押し付けた。
 軋る胸の痛みを無視して、しゃがれた声音でそっと囁く。
 まるでその指輪こそが、‘彼女’自身であるかのように、もはやけっして届けることのできない想いを込めて。
 「お前は幸せになれ」 
 …俺の居ない世界で。
 この狂った男から守られたところで。
 彼女がかつて願ったような、平穏で優しい日々を彼女が過ごすことができるように。
 彼自身が彼女の幸せに関与することができないのなら、せめてと、まるで焼けた鉄杭でも飲み込むような苦痛を堪え、司は誰にともなくつくしの幸福を一心に祈り続けた。
 トントン、トントン――ッ!
 『若旦那様っ、御無事ですかっ!?』
 「………ああ、なんでもない。ちょっとした癇癪を起こしただけだ。警備の連中にも連絡してくれ」




*****




 カチャ、カチャ。
 給仕係がカトラリー類を用意した中央の席へと回り込み、司が席に腰を下ろした。
 すでに先に着席して食事をしていた滋も、すぐに彼の登場に気がついて、顔をあげ挨拶をしてくる。
 「あら、おはよう」
 「……ああ」
 「ずいぶん今日はゆっくりなのね。オフ?」
 「いや、夜分遅くに予定変更があって、一時間遅れにスケジュールが変更になっただけだ」
 「変更ってことは、先送りになったってだけで、そのぶん業務の終わりがのびのびになるってとかぁ。…ただでさえ押せ押せのスケジュールで動いてるのに、また大変になるじゃない。あんたも難儀な立場よね」
 他人事な物言いだが、もちろん滋にもその影響がないわけではないことは本人も承知しているはずだ。
 「そういえば、昨夜、あんたの部屋でなんか騒ぎがあったらしいけど?」
 無言で流した視線の先、滋の探るような視線に出くわす。
 腹芸もできないわけではあるまいに、遠まわしに探りを入れるでもなく、そのまんまストレートに聞いてくるのが滋という女だった。
 とはいえ、だからといってその滋に合わせて、なんでもかんでも問われるままに、司が応える筋合いもない。
 配膳された料理を口にするだけで、特に答えようとはしない司のその態度だけで、返事を返したようなものだ。
 ―――俺に関わるな。よけいな詮索はするな。
 滋もすぐに司の言いたいことに気がついたらしい。
 それでもムッと口を尖らせただけで、それ以上は重ねて問いかけることなく、ため息一つで意識を切り替えている。
 「まあ、いいけどね。そうそう、私の方もね、またちょっと忙しくなりそうなのよね。やっと各所への挨拶回りもだいたい終わって、お義母さんから継承する道明寺関連事業の引き継ぎから何やらまで、一段落ついた感じでさ。とりあえずは一息付けそうだと思ってたんだけど、今度はニューヨーク社交界の大立者が主催するサロンのお誘いだ、政府高官夫人方の交流会だ、ってかなり引っ張りだこなのよ。いくつ体があっても足らないわよ。ホント、まいるわ」
 ブーブー文句を言う滋をちらりとも見ずに、淡々と食事を続けながら、司が彼女の愚痴を適当にいなす。
 「別に無理して、全部が全部に行く必要もねぇだろ?新参者だって言うならともかくとして、お前の顔を知らねえヤツもいねぇだろうしな」
 「まあ、そりゃそうだろうけどね。中々そうもいかないのよ」
 滋が小さく息をついて、つつき回していたメインの肉を諦め、使用人に下げさせる。
 「未来の財閥総帥夫人としては、まあ当たり前の付き合いでもあるし、お義母さんの顔もあるしね。それに会社の方の一線を退かれたからだと思うけど、あんたのお義母さん、かなり精力的にそうした集まりに参加されるようになってるし、……それを黙って見てるだけっていうのも、まだまずいんでしょ?」
 「…ああ」
 おそらく結果的に自分の思うままの覇道を進むようになった司に対して、楓がもはや彼の妨げになることはあるまいと思いつつ、それでもまだまだ旧勢力に影響力のあるこの母親を野放しにするのも危険だった。
 ましてや表だってはいなくても、政財界の奥方たちが、夫の影で侮りがたい影響力を有しているのは周知の事実だ。
 「前の結婚の時はもうこっちに戻るつもりがなかったからさ。けっこう派手に顔潰すようなマネしちゃったりもしてね。一部からは、かなり睨まれたりもしてるだろうし」
 あえて司の方から話しかけることもないが、それでもこの時間帯、滋が食堂で食事をしていることを知っていて訪れたのは、そうした互いの業務報告やスケジュールの確認の為で、司も話しかけられれば応じていたし、また必要最低限のことは滋に言い渡すカタチで会話にもなっている。
 「そうそうサロンといえば、来週ってあんた空けられる?」
 「来週?」
 「そう。M&Dカンパニーの奥様が、各界著名人の奥方を招いて、やっぱりかなり大掛かりなサロンを開くらしいのよね」
 「M&D?」
 「そう。ほら、あの方って、お義母さんとも懇意にされていて、ウチの母とも交流があるじゃない?それでどうも、私たちを話の肴にして楽しみたいらしいのよね」
 もちろん‘懇意’とは言っても、そこはあくまでもさまざまな思惑や打算が含まれたものだ。
 「は、くだらねぇ」
 「そうは言うけどさ」
 滋のウンザリした顔も司の意見に同意してはいるが、彼女には彼女の立場と、それに付随した役割がある。
 そして、同盟者である以上、司も彼女に協力する必要があった。
 それが結果的に、互いの利潤になるからだ。
 とはいえ、ここのところ彼が抱えている案件と、重要度の天秤にかければ…、
 「……時間がない」
 「だよね。そうだと思ったけどさ…ハァ、どうしようか。マイクを連れて行ってもいいんだけど、あの奥様ってけっこう偏狭っていうか、マイノリティを毛嫌いしてあからさまなところがあるし、ああいう席でバレるとも思わないけど、下手にバレても面倒なのよね。かといって、女の秘書を連れて行くのも、それはそれでシラケちゃうだろうからさ」
 「それ、…俺が同伴じゃマズい?」





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>ご指摘ありがとうございましたm_ _m

こんにちは、いつも応援ありがとうございますm_ _m

※誤 カラトリー ⇨ 正 カトラリー(cutlery)

を修正いたしました。
ありがとございました。
また、何かありましたら、どうぞよろしくお願いいたします。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

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