「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花③

愛してる、そばにいて0661

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 ザア―――――ッ、キュッ。
 シャワーのコックをひねり、髪をかきあげ落ちてくる水滴を払って、司は頭上の棚からバスタオルのセットを取り上げ浴室を出た。
 バスローブを羽織って、ミニバーからビールを取り出す。
 そのビールの缶を片手にソファへと腰を下ろして、プルトップを開け、チビリチビリとビールを口に含みながら、コーヒーテーブルに投げ出したままだったスマートフォンを手に取った。
 そして、浴室にいたわずかな間に入っていたメールをチェックしては、必要事項を頭に叩き込み、あるいは各所へと連絡を入れる。
 いつもの行動、いつものルーチンだ。
 彼の生活はほぼ毎日365日、ほとんど変化がなかった。
 それでも以前は寝酒に飲んでいたウィスキーを控え、ビールにしたのがほとんど唯一と言える程度の変化だったか。
 その分睡眠薬を常用しているのだから、けっして健康的になっているとは言い難い話だったけれど。
 サアアァッというかすかな物音に、ふと顔を上げれば、折からの雪がいつの間にか雨に変わっていたらしい。
 防音完備の屋敷内の部屋にまで聞こえてくるほどの雨足だ。
 ほとんど大雨といってもおかしくなかった。
 …珍しいな。
 この季節、寒さの厳しいニューヨークでは、雪や小雨は多いが、滅多に大雨に降られることはなかった。
 なんとはなしに気持ちを惹かれて、ソファを立ち窓へと歩み寄る。
 外は凍えるほどの寒さだろうが、常に屋敷内の室温は一定に保たれ、風呂上がりの濡れた体や髪にも寒さを感じることはない。
 厚いカーテンの下のレースのカーテンをわずかに引いて、司は外の景色を見るともなく眺めた。
 すでにクリスマス仕様のイルミネーションの電飾は、世間とは異なり、クリスマスを限りに即刻取り外されていて、いつもの佇まいに戻されてしまっている。
 とはいえ、そうした煌びやかな電飾の灯りを眺める者も、今ではこの屋敷にはほとんどいなかった。
 かつてはごく稀に滞在することがあった幼い椿や司の為に。
 彼らが長じて後は、パーティ等の招待客の為だけに設置されていたものだ。
 そしてそうした時期を得て、つくしの為だけに飾り立てることもあったが、現在は唯一楽しむべき主役である戒が、ほとんど屋敷内にいることがなかったので、無意味なものへと成り下がっていた。
 それに、たとえ戒が屋敷内に留まっていたからとて、いまさらそんなものを無邪気に喜ぶこともなかっただろう。
 「……あと10分で、今日も終わり、か」
 いつもと同じ日、いつものと同じ夜。
 いつもと何一つ変わることのない一日であるはずなのに、今日が‘彼女’の誕生日だったというだけで、どうしてこうも心がざわめくのだろう。
 その当の本人は、もはや彼の傍にはいやしないというのに。
 そして、今その彼女はどこにいるのか。
 誰の腕の中にいるのかと思考が流れて、司は我知らず顔を歪めた。
 夜の闇と電気の明かりの作用で、鏡面状になっている窓ガラスに映った己の姿をぼんやりと見やる。
 バスローブの襟元、首に下がったネックレスのペンダントヘッドの指輪に触れるともなく触れるのはいつもの習慣だというのに、それがなんともホロ苦く耐え難く……辛く感じるののはなぜなのかと、司は自嘲の笑みを浮かべた。
 …いまさらだろうに。
 指先がなぞった指輪の刻印など目にしなくても、容易に彼の脳裏に思い浮かんだ。
 Egal was kommt, ich werde dich nie verlassen.
 ―――何があってもお前を放さない。
 「……っ、クソッ!」
 ガッ!!
 窓ガラスへと拳を叩きつける。
 「クソッ、クソッ、クソぉ―――ッ!!」
 複数の板ガラスを接着された合わせガラスの窓は、一見しては普通のガラスだが、バッドでのフルスィングにも耐える強度を誇っていて、司の猛打にもわずかなヒビを入れる程度で完全には破砕されない。
 だが、叩きつけた彼の拳の方は、拳を奮うたびに、皮膚が破れ、真っ赤な鮮血が流れ出し、窓ガラスに赤い血飛沫を飛ばし、鏡のように映った彼の姿を真っ赤に染めていた。
 まるで彼の心のように、血塗れになった自身の鏡像へと、嘲笑を浴びせる。
 「ふははははは」
 若い頃の無法ぶりがウソのように、傷一つすら負うことのない生活を送る男が、狂ったように笑っては自分自身を傷つけ、心の痛みを誤魔化していた。
 「2回目じゃねぇかっ!それを何をいまさら苦痛に思うことがあるっ。類だからって、何が変わるわけでもねぇだろうよおぉっ!?」
 そうだ。
 何一つ変わるわけではない。
 ―――つくしが、彼がこの世で唯一愛する女が、他の男に抱かれ、あの微笑みとあの柔らかな心を、他の男に注ぐのだという事実は何一つ変わりはしない。
 牧野隼斗との再婚を知った時のあの衝撃。
 あの男を心底殺してやりたいと、何度思ったことか。
 そうした衝動を押し留めることができた自分が自分で驚きで、司はなんとも嗤えたものだ。
 …一度できて、二度できないはずもない。
 そして、おそらく自分が生きている間中、一生この苦悩と苦痛、悲嘆は永遠に続くに違いないのだ。
 彼女を愛する限り。
 しかし、そうした想いとはまた別のところで、それが…つくしを奪ってゆく男が、類であるということが、異なる絶望を生み、彼の心を更に血しぶかせ心臓をズタズタに引き裂いた。
 類は他の男とは違う。
 今後つくしが誰を愛し、誰と結婚しようとも、司にとって、類以上に彼の心を蝕み苛む存在などいはしなかっただろう。
 かつて彼は、類に惚れていたつくしを無理やり奪い、壊し、あげくの果てに騙して手に入れたのだ。
 その事実と過去が、司を身悶えさせた。
 つくしは結局、自分を愛したことなどなかったのではないか。
 彼の唯一の支え…つくしが捨て去った10年には、確かにあったはずの彼への愛。
 それは、まさにすべて夢幻、司の中の妄想でしかなかったのではないかという思い。
 そんな疑いがさらなる絶望を呼び、彼の心に一つの希求が心に忍び入る。
 魔が差す―――と人はいう。
 多量の出血にか、あるいは心の動揺にか、無残に血に塗れて震える手を胸元へと司は運んだ。
 その手で、胸に下がった二つの指輪を握り込み、グッと力を込めて、力任せに一気に鎖を引きちぎった。
 「…っ」
 首筋に食い込んだ金の鎖が、シャリンという小さな甲高い音を立ててちぎれ、彼の皮一枚を切り裂いた。
 わずかにチリリッとした痛みを残し、二連の指輪が彼の手の中へと落ちてくる。
 二人の愛の証。
 戒の存在と共に、彼に手元に残されたわずかな彼女とのえにし。
 司は二つの指輪を握り締めたまま、その手を大きく振り被る。
 そして、部屋角のダストボックスへと向かって、一気に振り下ろした。
 シュ―――ッ。




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>プーチビ様

こんにちは。
いつも応援ありがとうございますm_ _m


ご質問について。

~※すでに既出ではありますが、かなりなネタバレを含みますのでご注意を~


つくしはいつ、司とのなくした10年間を思い出したのでしょう?>ということですが、さすがにこれこれこの瞬間だというのは、私自身もハッキリとは描いていませんし、人によっては解釈が異なると思います。
また、本人にしてもこの時点だ!という明確な区分けはないのではないかというのが、執筆者である私の見解です。


4章 凍える牙の時点ですでにチラホラと『10年間』のことはランダムに思い出したりもしていました。
けれど、その時点での記憶の回復は、つくしにとって実感として感じるというよりは、『認めたくない過去』常に、否定する気持ちとの葛藤だったんじゃないでしょうか。
そして、彼女が徐々に受け入れたのは、類との再会があった6章~。
類との再会と生活を描いた6章は、彼女の心の回復と記憶の再生の章でもありました。
実際に、そう描けているかわかりませんが、6章に入り、ドンドン欠けていた部分の記憶を取り戻してゆく彼女ですが、前半はまだまだ拒絶感が強く、しかし、類との触れ合いで心を癒されていったことと、『シャッツ』の名前の由来に気がついたこと、そして愛して愛されていた記憶を取り戻していったことで、新しい彼女へと生まれ変わります。
17才以前の記憶がない『道明寺つくし』ではなく、司と生きた10年間を忘れてしまった『牧野つくし』でもなく、それらすべてを内包した彼女に。

それが、6章後半、17才時点でも司を赦して愛しかけていた自分自身を思い出した‘夢’に現れ、そして、戒を間に挟み幸せだった過去の一幕を思い出した空港で白昼夢?で表現したつもりでした。
ただ、この時点でも全部が全部思い出したわけではなく、彼女の人生を追っていない間…司や戒を描いている時間も少しづつ思い出していたり、もう思い出すこともなかったりします。
もう思い出さない―――というのは、記憶喪失ではなくても、普通の人でも記憶の欠落は普通にあることで、大半の人は印象深いことしか憶えておらず、そうかと思えばポンと突然思い出したりすることもあるかと思います。
そうしたことを、7章、8章で優紀や桜子との会話でつくしが語ります。
 このお話では、ほぼつくし、司、戒の心情に限定して(一部例外もありますが)物語が進み、彼らの心情がメインですが、そこに登場する『その他の人々』は物語を進める人たちでもありますが、つくしたちの『現在』を確認するために配置された人物たちでもあります。
 おそらく各章初めに登場する桜子や優紀などの親友たちとの語らいは長く退屈だとは思いますが、この会話が、長い物語の中で『いま』がどういう位置づけであり、これまでどういうことがあったのかを読者に解説する役割を担わせているつもりです。
 もしよかったら、各章、桜子や優紀の登場場面を再読していただけると嬉しいです。
 また、つくしが自分自身を統合?した場面ですが、あえて言えば6章後半…最後の最後のあたりがそうかな、と思いますので、そこから何かを感じていただければと思います。

 しかし、実際には、読者それぞれの感性によってまた違う解釈があると思いますので、もしかしたら納得できないところもあるかと思いますがそこのところはご了承くださいm_ _m、


 どうぞ、これからもよろしくお願いいたします。

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司・・・

(注)ネタバレ&妄想あり('ε' )


司のEDって、本当に直るのかな?(汗)
愛し合ってる夫婦や恋人なら簡単に直るって訳でもないから。
まさか番外編だったりして。違うか(笑)
でも、こうも「つかつく」で類とつくしのSEXがあると
この物語で牧野つくしを応援する気が完全に失せた。
このまま司とゴールインしなくてもいいやって気分になる。
司が惨めだし、ていうかずっと想い続ける司がもったいない。
司と滋を応援しながら、戒を見守ろう。

だってさ、犯罪を犯すほど本気で愛した女だよね?
もう司だけが知ってる道明寺つくしは、存在しない。
嫉妬深い司がひたすら想い続けるつくしの魅力って何だろ?
このまま苦しむだけで、ただ一途につくしだけを愛し続けては、
最後にはすべて受け入れる?EDも直らずに?
それだと女性にとって都合の良い男。ただの「キープくん」だよ。
惚れた弱み?傷ついても何でも許せるという司の設定なのだろうか。
優しいだけでなく、男らしいとこも見せて欲しい。
ヒーローらしくカッコイイとこを!

それと、戒がつくしを本気で怒るとこも見たいな。

「愛し合って生んだだと?よくいうぜ。
 記憶が失って夫婦が別れたのは分かるよ。
 嫌な記憶しかないアンタが道明寺家から離れたのも分かる。
 その結果、俺を捨てるようなことになったのも分かる。
 だがな、3人一緒にいた記憶が、その大事な記憶が戻ってからも、
 親父のダチとイチャコラしてたり、
 道明寺と似たようなセレブの環境の花沢のとこにいたり。
 そのアンタが、どの口で語ってるんだ!どう信じられる?
 俺が親父の立場なら、どんなに凄く傷ついたか考えたことあんのかよ!
 結局は、親父を愛してなかったから、
 平気で花沢のおっさんとイチャコラしてたんだろ。
 記憶が戻ったアンタにとって、所詮、俺や親父はその程度だったってことだ」

顔を覚えてないくらいの年齢に捨てられ、いきなり母親づらされるのもねえ。
子供としては複雑じゃないかなと。これはありえそうな妄想ですが。

でも、どうなるんだろうか。
桜子が司が好きだから、つくしに離婚の協力したとかも妄想してしまう。
それはそれで面白くなるな。滋vs桜子(笑)なーんてね。
来年のこ茶子さんの強力なカウンターパンチ待ちかな。

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