「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花③

愛してる、そばにいて0660

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 ビクッと体が揺れて、とっさに足の間に力を入れてしまったのは、けっして類の手を拒んだつもりではなかった。
 …たぶん。
 自信なげな自分の心の声から耳を塞ぐ。
 けれど、顔を覗き込んでくる類の視線の気配に、そんな自身の一瞬の戸惑いを悟られないようにギュッと目を瞑って、つくしは小さく呼気を逃し、懸命に体の力を抜く努力をする。
 幸いそう堅固な努力をするまでもなく、単なる条件反射だったのか、体の強張りは意外なほど簡単に解けたが、彼女の下腹部を彷徨っていた手は、更なる深みを探るでもなく、腹に回っただけでギュウッと抱き込まれた。
 しかし、次の類の動きを予測して、固唾を飲んで待ち受ける彼女をよそに、首筋に埋まっている類の顔がグッと重みを増し、そこから少しもセクシャルな動きへと移行しようとしない。
 「…………」
 「…………」
 「………?」
 少しづつ重くなる類の頭の重みに、まさか、と思い当たる。
 …も、もしかして、この人ってば寝ようとしてる?
 やっとつくしも彼の思惑に気がついた。
 だが、彼女の尻のあたりに触れる彼の欲望の証は、いまだ力を失ってはおらず、彼女の下肢に手が滑り落ちた時には、たしかに類がその気になっていたことはたしかなのだ。
 いくらカマトトぶって、いくつになってもそうしたことへの察しが悪いつくしにしても、それくらいのことはわかる。
 そのまま類の吐息が寝息へと変わってしまう前に…。
 「る、類?」
 「………ん?」
 眠そうな声音だったが、かろうじて返事は返った。
 「……………」
 しかし、つくしの言外の問いかけに応えることもなく、かとって先ほどの衝動の続きに従うでもなく、類はただ条件反射的に彼女の問いかけに声を返しただけで、それ以上彼からは某かのアクションを返すつもりはまるでないようだった。
 それならば寝てしまえばいい。
 彼もきっとそれを赦してくれるつもりなのだろう。
 けれど、
 「その…し、ないの?」
 聞かずにはいられないのは、それが今回初めてのことではないからだ。
 たしかに類が言うように、彼はわりに欲望には淡白なタチなのかもしれない。
 皆が皆、精力旺盛ではないのは当たり前のことだが、しかし、それでも彼があきらかに自分に気を使っていることが、なんとも申し訳なく、自分で自分が情けなく感じてしまう。
 「わ、私ならいいよ?」
 声音は震えていなかったはずだし、屠殺される寸前のニワトリよろしく引き攣ってもいなかったはずなのだが。
 「いいよ、別に。だって、お前はしたくないんだろ?」
 「したくないって言うか」
 あえてしたいほどではない、というべきなのだろう。
 「だって、類はもう一度…したいんだよね?」
 「ん~、少しはね」
 「…だったら」
 類のしたいようにしてくれていいと思う。
 自分のこうした情動はどうしてもいまだに克服できていなかったが、これまでも我慢して我慢できないものではなかったのだ。
 ましてや類の優しい柔らかなアプローチは、そうした障害を和らげてくれこそすれ、恐怖感や忌避感を助長するものではなかった。
 …ただちょっと、予想してなかったっていうか、覚悟してなかったってだけで。
 醒めるのが早いというか、沸点を高めるのにまだ時間がかかってしまう。
 一度火がつけば、流れに任せ、彼の作り出してくれる優しい快楽に身を任せることもできるのに、一度落ち着いてしまうと、どうしても心の準備に時間が必要だった。
 それに付き合ってくれとはとても言えない。 
 「大丈夫。……しよ?」
 「ハァ~」
 「…類?」
 思いっきりため息をつかれて、戸惑っているだけのはずが、なぜか自分でも妙に不安そうな声が溢れて、驚く。
 「なにをそんなに申し訳なさそうにする必要があるのか、俺にはわからないんだけど?こういうのってさ、お前もしたい、してもいいかな、って思った時だけでいいんじゃないの?普段、やりたくないことはやりたくない、できないことはできないって、誰にでも平気で突っぱねる女のくせに、どうしてセックスのことだけ妙に従順になろうとするの?」
 眠そうだった類の声音は変わらなかったけれど、しかし、そんな今まで誰も聞かなかったことを聞かれて、逆につくしの方が言葉に詰まってしまう。
 …どうしてって。
 「だって…」
 だって、
 「それが当たり前のことだから」
 男と女である以上、性欲や肉欲の存在は無視することができず、それに応じるのが当たり前なのだとつくしの常識が彼女を苛む。
 …法律でさえ、夫婦間のセックスレスを離婚事由にしている。
 まだつくしと類は夫婦ではなかったけれど、こうして夫婦同然に一緒に暮らしていて、そして近く籍も入れようと婚約をしたのだ。
 もはや夫婦か否かはそれほど重要ないいわけにはならない。
 「お前のガチガチの偏った常識って、俺にはわかんないし」
 「……類」
 「したくもないことに付き合せてまでするようなことじゃないって、前にも言ったじゃん?」
 「………」
 「ケーキの話したでしょ?俺にも当然、譲れないものはあるし、どうしてもってものはある。でもそうじゃないことにまでこだわるほど欲深なタチでもないし、お前を従わせたいわけでもない」
 何と言ったらいいのかわからない。
 この罪悪感、それとも自分は怖いのだろうか。
 …なにを?
 クスッとそれまでの空気に見合わぬ含み笑いを耳元でされて、怪訝に類を振り返る。
 類が声音のとおり本当にもう半分眠いようで、さらりとした長い栗色の髪に隠れた目は完全に閉じて、瞼に隠れてしまっていた。
 「俺の手を、拒絶しないでくれるだけで十分だよ」
 「…でも」
 「でもじゃないよ。さっきので十分気持ちよかったし、俺は満足してる」
 「………」
 薄目を開けた類のそんなストレートな感想に、思わず羞恥で類の目を真っ直ぐに見れずに視線を外してしまう。
 「つくしも気持ち良かったって、言ってただろ?」
 「う~」
 「やっぱり良くなかった?」
 「よ、良かった…です」
 盛り上がっている時にはなんとか答えられても、シラフの状態ではかなり辛い。
 しかし、恥ずかしさから誤解を受けてはと、茹で蛸状態に顔を真っ赤に赤らめながらも、つくしもそこは素直に認めた。
 …うっひ~。めっちゃ、恥ずかしい。
 「じゃあ、いいじゃん。もう寝よ?」
 「……うん」
 それでもこの何とも言えない申し訳ないような気持ちは、きっとこの先も完全には拭い去り切れないだろう。
 そんな自分の優柔不断さや思い切りの悪さを、つくしも内心でため息をつかずにはいられなかった。
 克服できないならできないなりに、彼が言ってくれるように開き直ってしまえばいいのに、と。
 …どうして私って、いつもこうウジウジしてるんだろう。
 気が強いのは表面的なことばかりだ。
 「…だし」
 「え?」
 「男って、いつでもできると思うと性欲落ちるらしいから、こういうふうな方がレア度があって萌えるものかも?」
 …なんじゃ、そりゃ。
 おそらく慰めなのだろうが、類の言い草につくしの目が点になってしまう。
 「それにさ?こうやってお前のここ、揉み揉みサワサワしてるだけで凄い気持ち良くて、眠くなるから、それだけでもいいとかってダメ?」
 …ダメじゃないけど。
 言葉のとおり、自分の小さな胸を揉み揉みサワサワしている類の大きな手を、何とも言えない顔でつくしは見下ろした。




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