「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花③

愛してる、そばにいて0656

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 覚悟しているつもりでも、真っ直ぐに類の顔を見ることができなかった。
 …もし、これで本当にもう終わりだと言われてしまったら。
 即座に別れを告げられるとはつくしも思っていなかったけれど、彼の立場を考えれば、いずれはそうした決断も必要になる日が来るかもしれない。
 類の父親も言っていたではないか。
 彼女の出自や過去はともかくとして、‘孫’の誕生を待ち望んでいると。
 それを聞いた時には、なにをまたずいぶん先走りなことをとも正直思ったが、こうして結婚の話が具体的になってみれば、当然そうした話が念頭に置かれることは当たり前なのだ。
 もはや20才そこそこの若者ではない。
 特に女性には、出産に関してタイムリミットがあって、…つくしも不妊症であるかもしれないことを除いても、もう34才になった。
 一概に年齢だけで言えることではないとはいえ、たとえすぐに妊娠できたとしても、医学的にも高齢出産と言われる年齢なのだ。
 チュッと唇に吸いつかれて、ハッと我に返る。
 「ちょっ、何考えてるのよっ!」
 真面目な話をしている時に、その話を無視した能天気?な行動に逆上して、つくしは類を睨んだ。
 「はぁ~、何を言い出すつもりかと思ったら」
 いかにも呆れたような口調をされて、ムッとした。
 「あのさ?何をどう勘違いしてるのかわかんないんだけど、俺、別に子供が欲しくてつくしと結婚したいわけじゃないから」
 それはそうかもしれない。
 けれど、
 「あんたはそうかもしれないけど、いい年の大人が、腫れた惚れただけで結婚できるものじゃないのはあんただってわかってるでしょ?」 
 「うーん」
 …おい。
 「…なんかこのままなし崩しに続けても、つくしの性格からして流されてくれそうもなさそうだよね?」
 「まあ」
 さすがに読まれている。
 すでにしっとりとした大人の空気は霧散して、だからと言って、いつものジャレ合いの延長のような漫才を言い合う気分でもなかった。
 聡い類のことだ。
 トボけた物言いをしていても、そうしたこと…つくしが言いたいことや屈託を理解していないわけではないのは彼女もわかっている。
 それでも―――。
 「セックスレスでもいいって、言ったじゃん」
 引き起こしてくれる腕に縋って起き上がった途端のとんでも発言。
 「あれ?言わなかったっけ?」
 「…………」
 「言わなかった?」
 再度確認をされて、しかたなく返事を返す。
 「まあ、そのまんまのセリフじゃないけど」
 たかがセックス…と、彼女の抵抗感をいなした言葉の中にはそうした意味合いも含まれていたに違いない。
 本当にそうした関係を、いい年をした健康な男女が続けていけるのかは今となってはわからなかったが、それでもそう言ってくれた時の彼が本気だったことはつくしにも疑いようはない。
 実際、彼女が自ら誘わなければ、類は待つ…というわけでもなく、ただ添い寝だけをして、今もきっと二人でそうして過ごしていたのだろうと思う。
 あの初体験の日から、すでに半年あまりの月日が過ぎていたけれど、類と彼女がそうした交渉を持ったのはホンの片手の指で事足りるほどだった。
 それも彼女が応じなければ、無理には強いられることはなかっただろうし、彼女自身も類を欲しいと思えたからこそ出来たことだ。
 類に欲望がないとは思わない。
 だが、彼の言葉のとおり、類にとっての‘セックス’は、ただの愛を伝える手段の一つであって、必要不可欠のものではないのかもしれなかった。 
 「世の中にはセックスレスの夫婦も、DINKS※だっていくらでもいる。もちろん、子供が欲しいと思っても授からない夫婦もね。でも、だからって、それが不幸だと誰に言えるわけ?誰もが同じでなければならない。結婚したのなら、セックスをしなければならない。そして、セックスをするのなら、子供を作らなきゃダメ。いったいそれを決めたのは誰なんだよ?」
 「誰って、今はそんな屁理…」
 「屁理屈じゃないよ。子供ができない人間は、一生誰とも結婚できないとでも?あるいは、不妊の男や女は、そのパートナーから捨てられなきゃならないの?」
 とんでもない極論を言い出す類の言葉に、顔を顰めてつくしが首を振る。
 「そんなこと言ってるんじゃないわよ。あんただって、私の言いたいことくらいわかっているんでしょ?」
 「前にも言ったよね?…自分がどうしたいか、何をしたいのか。誰が何を言ってもかまわない、他人のことなんか気にするな、お前のやりたいようにやればいいって。…それは、俺についても同じことなんだよ?俺は俺のやりたいようにする。俺にはちゃんと自分にとって必要なものや、やりたいことがわかってる」
 言い切る類の目はどこまでも強く、常識や他人の思惑を翳して自分の怯懦を是認している彼女を非難しているようでもあった。
 あれは春先のNYでのことだったか。
 陽太に会うために渡米したのに、隼斗や隼斗の両親の手前、彼に会うことを逡巡するつくしの背中を押してくれた彼の言葉。
 いや、それ以前にも、自身の両親に連絡をとることさえ迷っていたつくしへと、類は何度も言ってくれていた。
 ―――他人のために自分を押し殺すのではなく、自分を生きろ、と。
 「他人に振り回されるんじゃなくって、お前を生きろよ?他人のことなんか知るか、自分だって幸せになりたいんだからって、たまには言ってみろよ?」
 「……類」
 「つくしはさ、気を遣いすぎるぐらいに他人に気を使うんだから、それくらいでちょうどいいんじゃない?」
 「…類」
 「俺の親が何を言ったにしろ、俺の立場がどうであろうと、そんなことつくしと俺との間に関係ない話だ。それこそガキじゃないんだ。俺は自分の女くらい自分で選ぶし、それを誰にどうこう言われるつもりもなければ、口出しもさせない。それだけの努力はしてきたつもりだよ?これでもね」
 類はただ寝ているばかりの男ではなかった。
 一見、のほほんと流されるままに日々をこなしているだけに見えても、それだけの実力と立場を培い、確実に地盤を固めてきていた。
 自身の生き方に口を出されないために。
 自由でいるためには、力が必要で、力はただ漠然と毎日を重ねるだけでは得ることは出来ないものなのだから。
 時には痛みを伴っても、常に希求し前進し続けなければならない。
 大切な何かを守るためにも。
 …そうだよね。あんたはもう、ただ膝を抱えて蹲っているだけの高校生じゃないんだもの。
 誰よりも強靭で、タフで、意地悪なのに、この上なく優しい人。
 ―――お前の望みのままに、とつくしに言ってくれたただ一人の男。
 「俺がつくしを好きで、一緒にずっといたい。つくしが俺を好きで俺と一緒にいたいと思ってくれるなら、他に何が必要?」
 言ってみな?というような類のドヤ顔に、つくしも思わずぷっと噴き出してしまう。
 「…なに?」
 「ごめん、なんでもないよ」
 「だから、何って?」
 執拗に聞かれて仕方なく話してしまう。
 …別に隠すようなことじゃないし。
 「あんたっていつも澄ました顔して、いかにも怜悧な専務様づらして外歩いてるくせに、私の前のあんたは眠そうか、そんな悪戯小僧みたいな顔ばかりしてるなって思っただけ」
 一瞬虚をつかれたように、キョトンとした類の顔が柔和に笑み崩れた。
 「それはそうでしょ?…惚れてる女と一緒にいて、そんな取り繕った顔していられるわけないじゃん」




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※DINKS:共働きで子供を意識的に作らない、持たない夫婦。
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