「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花②

愛してる、そばにいて0651

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 …やっぱり人違いだったのかなぁ。
 街中で思わぬ人物を見かけ、つくしはその後を慌てて追いかけたのだが。
 しかし、あいにくその人物はタクシーを待っていたようで、人ごみの中、なんとか彼女が再びその姿を捕らえた時には、タイミングよく停車したタクシーに乗り込まれてしまい、その真偽を確かめることができなかった。
 見かけた時には本人だと思った。
 しかし、今あらためて思い起こしてみれば、‘彼女’にしてはもう少し年長の女性だったようにも思う。
 …まさか、お母さんだとか?
 よもやこの広い東京で、‘彼女’に出くわすことも希少なことだが、その彼女によく似た家族に出くわすということは更にありえなさそうな話ではある。
 第一、そうした人物は運転手つきの専用の送迎車で送迎されて、そうそうこうした街中で見かけたり、タクシーに乗ったりはしないだろう。
 以前に‘彼女’とすれ違った偶然からも、すでにもう2年以上の歳月が過ぎている。
 最後に言葉を交わしたことなど、10年以上も昔のことだ。
 意気込んでしまっただけに、拍子抜けしたことによる脱力はハンパなく、なんとなく気が抜けたまま、時間潰しをすることも忘れて、気が付けば予約の時間よりもだいぶ早い時間に待ち合わせのレストランに到着してしまっていた。
 にも関わらず、よほど余裕を持って予約されていたのか、まったく待たされることもなく、すぐに案内されたレストランの予約席は、予想に反していつものように個室でも、夜景の見える窓際席でもなかったが、レストラン中央のステージを真正面に見渡せる真ん前の席だった。
 どうやら曜日や時間によっては生演奏を聴かせてくれるらしいが、残念ながらクリスマスイベント時期もすぎて、年越しやニューイヤーも間近なこの中途半端な時期、特にそうした催しはしてくれていないようだ。
 レストラン内に流れているゆったりとしてムーディな音楽は、CDから流れる館内放送によるものだった。
 …ホント、私の誕生日って中途半端なのよね。
 日々の忙しさに紛れ、親さえも憶えていてくれない時もあった。
 そもそもクリスマスと誕生日があまりに間近すぎて、ついでだからと一緒くたにクリスマスに祝われてしまった時もあったくらいだ。
 友人たちにしても多忙な冬休みのこの時期、せいぜい親友の優紀がメールで祝ってくれるくらいで、大抵年を跨いでから初詣で会った時にプレゼントを貰う、そんな感じだった。
 …でも、司と一緒になってからは違ったかなぁ。
 さすがに道明寺家の跡取りである司の誕生日は毎回、各界著名人を招いての盛大なもので、とてもではないが家族水入らずで、などというプライベートな催しにはできなかったが、どちらかといえば道明寺家にとって余計者であった彼女や戒の誕生日は、特に盛大にパーティを催すでもなく、家族水入らずで…あるいは、戒が生まれる前は司と二人っきりで過ごせる、一年の内でもほとんど数えるほどしかない貴重な一日だった。
 司などは、彼女の為に盛大なパーティを催してやりたがっていたが、つくしにとっては三人だけで過ごせることの方がずっと良かったし、嬉しかったから、まったく不満はなかったのだ。
 …今はどうしてるのかな。
 いや、もはや今日が誕生日の彼女がいなくなってしまったのだから、彼らにとっては一年のうちの何でもない日の一日でしかないだろう。
 類はどうやら仕事の予定が押してしまっているらしく、約束の時間になってもいまだ現れていなかった。
 基本時間にルーズの男ではあるが、仕事をサボることに関しては喜々として張り切って抜け出すくらいなので、こうして仕事帰りの彼女とのデートで彼が遅れることは珍しい。
 むしろ時間にキッチリとしていた司の方が、仕事にかまけてどうしても抜けられずに彼女を待たせてしまうことが普通だった。
 …ホント、あの人たちって真逆の性格してるのよね。
 そんな二人が幼馴染みの親友で、どちらもが自分のようなごく平凡な女と人生を交差させていることの人生の奇妙を思う。
 …まだ、遅れるのかなぁ。
 先に料理を食べているわけにもいかず、仕方なく楽しそうな他の席の人たちの様子を見るともなく観察して、つくしは一人寂しくチビリチビリと食前酒を飲んで、つまらない一人っきりの時間を潰す。
 「うは…このペースで飲み続けてたら、類が来る前に酔っ払っちゃうかも」
 そろそろメールででも、今日の予定変更の確認をしてみようかと、つくしは小さなため息を一つついて、テーブルの上に置いたまま手を離せずにいるスマートフォンを、今日何十回目かの確認の為に持ち上げかける。
 「……あれ?」
 煌々と明るい光を投げかけていたシャンデリアのライトの輝度が落とされ、柔らかくムーディな間接灯の明かりへと切り替えられたらしい。
 ほとんど意識することがなかった各テーブルに設定されているおしゃれなオイルランプのオレンジ色の灯が、レストランのしっとりとして洗練された大人な雰囲気をさらに高めている。
 「なに?」
 周囲の客たちにしてもサプライズだったのか、わずかにざわめき始め、やはり彼女のように周囲を見回す人たちの姿が見えた。
 ♪゜~・*:.。.~~ .。.:*・♪、♪~゜・*:.。~. .。.:*・♪~
 突然背後から上がった弦楽器の美しい音色に、つくしはハッと背後のステージを振り返った。
 いつの間に人がいたのか、さっきまでたしかにポツリと一つだけ落とされていたライトの真下に一人だけ弦楽器を構えた男性が椅子に座っていて、どこかで聞いた覚えのある音楽の序奏を奏で始めている。
 周囲の人々もその音色に気がつき出したらしい。
 少しづつざわめきが鎮まり、パラパラとステージを振り返る人々の注目の中、三つ揃えの黒いタキシード姿の男性が、一人、二人と楽器を手にステージ上に現れては、先に席について音楽を奏でている奏者の横に座って演奏に加わり出す。
 そして、夜の闇を写したような漆黒のソワレに身を包んだ女性がピアノ席に座るとスポットライトが、弦楽奏者たちの上から移動してステージの中央を照らし、最後に一際背の高い日本人離れしたスタイルの美貌の男がバイオリンを手に登場した。
 「…え?」
 …ウソ。
 チラリとステージ上から、こちらへと視線をくれたビー玉色の目が、彼女を見て笑い含むのが見えた気がする。
 男性―――類が、バイオリンを構えると同時に、緩やかで落ち着いた語調のクラッシック曲が甘やかなバラードへと曲目を変える。
 「Je te veux(ジュ・トゥ・ヴ※)だ」
 Je te veux…フランスの作曲家エリック・サティが作曲したシャンソンで、音楽にあまり造形の深くない人間にもよく知られるあまりに有名な曲だ。
 曲調自体はとても優美なワルツ曲で、現在はピアノ独奏曲として聞かれることも多いが元々は有名なシャンソン歌手のために書かれたこの曲は、その歌詞の濃厚さでもよく知られている。
 フランス語で―――お前が欲しい。
 そのタイトルのとおり、熱烈な恋心を歌う求愛のラブソングだ。



 あなたの苦しみがわかる。
 愛する人。
 私も同じ。
 だから私を恋人にして。
 私たちの間にあるしがらみも、
 障害もすべてを忘れて、
 二人で生きてゆきたい。
 あなたが欲しい。


 後悔したりしない。
 だって、私の望みは一つだけ。
 あなたが私のすべて。
 それが私の人生。
 私の心はあなたのもの。
 この唇も、体も、すべて。
 そして、あなたのすべては私のもの。


 あなたの心が見える。
 あなたの想い。
 愛と真実。
 私を信じていてくれるあなたの心が。
 愛し合いましょう。
 情熱のままに、永遠に。
 覚めない夢を見続けたい。
 二人の愛の夢を。



 気が付けば演奏に合わせて、つくしも小さくハミングしてしまっていた。
 男性の類が演奏しているというのに、なぜか彼女の心に浮かんだのは女性の歌う歌詞の方で、もしかしたらそれは類の想いではなく、彼女自身の想いだったからかもしれない。
 視線は真っ直ぐに、ただ類だけを見つめて。
 そして、演奏する類も真っ直ぐに彼女を見据え、ハミングする彼女へと微笑んでいるように見えた。




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※歌詞には女性版と男性版があり。『あなたが欲しい』あるいは『あなたが大好き』と訳される。この曲は現在パブリックドメイン(著作権切れ)のため、全文載せましたが翻訳サイトで翻訳したものに、他の方が翻訳したものを参考にして創作加えちゃってますので、多少ニュアンスが違ってもそこのところはご了承ください。(多少じゃなかったりして^^;)
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