「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花②

愛してる、そばにいて0650

 ←愛してる、そばにいて0649 →愛してる、そばにいて0651
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 「な、に…言ってる、の?戒」
 「あんまり兄ちゃん、兄ちゃんって…無邪気に煩く纏わりついてきて目障りだったからさ。…俺の母親を追い出した女の息子のくせに、ってムカついて、ウチにあったビニールプールに顔を押し付けて溺れさせたんだ」
 「か、かい、戒っ」
 彼の頭を撫でていた手を震わせて、口元を抑えて悲鳴を堪えるジーナの青い顔に、とたんにつまらなくなる。
 別に少しも楽しい気分ではなかったけれど、暗く妙に深刻になってしまった空気を一新させるために、あえて楽しさを装って、戒はぷっと小さく噴き出した。
 「はは、…そんな大マジにショックを受けたような顔しないでよ」
 「戒?」
 「ジョークだよ。そんなの冗談に決まってるじゃん」
 わざと悪擦れた笑みでニヤリと笑って、からかうように驚愕しているジーナの顔を覗き込む。
 とたん…、ドンッ。
 「わっ!」
 「この性悪っ!」
 思いっきり膝枕から突き落とされ、ソファの下の固いコンクリート床へと投げ出された。
 ゴツン、ガツン。
 「痛ってぇ〜」
 咄嗟に受身を取ったものの、それでもソファから床上への距離が近すぎ、返って間に合わずに、鈍い音を立ててあちらこちらを打ち付け、呻く。
 「ふざけんな!!」
 両手を腰に仁王立ちするジーナの姿は、先ほどまで彼の頭を撫でていた慈母にも似た女とも、無性に庇護欲を掻き立てさせた小動物のように愛らしい少女ともまるで違っている。
 「そういう言っていいことと悪いことの区別がつかないとか、どんだけ非常識なお坊ちゃまなのよ、このクソガキはっ!?」
 「……非常識なのはともかくとして、お坊ちゃまは関係ないと思うけど」
 自分でも悪趣味だった自覚がある。
 年齢に見合わぬ苦笑を浮かべ、痛む肘を撫でながら体を起こした戒を睨んだジーナは、どうやらまだ腹立ちが収まらないようで、もうソファへは戻ってくれないらしい。
 それがいかにも残念で、自分でその原因を作ったくせに、戒はキッチンへと向かう彼女の背をつい未練がましく見送ってしまう。
 「もうそろそろ帰らないとダメなんでしょ?さっさと警護の人呼んで、帰りなさいよ」
 そろそろもなにも、もうすでに父からの忠告を大いに破ってしまっている。
 どうやらおかんむりとなってしまった彼女の機嫌は、今日はもう取り結ぶのは無理らしいと諦めて、戒も渋々立ち上がった。
 「帰るよ」
 「……あ、…うん。そ、そう」
 それでもまだ彼女が引き止めてくれないかと、未練たらしく彼女の言葉を待っている自分がいかにも女々しい。
 …もう帰らないと、迷惑がかかるのはわかってるのに。
 「また、来ていい?」
 「……ダメだって言っても、また来ちゃうんでしょ?」
 「そうだね」
 それでもきっと、彼女にもう会いたくない、来て欲しくないと言われてしまえば、もうここに来ることはできなくなってしまうだろう。
 …だって、俺はジーナに嫌われたくないから。
 だから、彼女がホンの少し、まだ彼女の優しさのおコボレを彼にくれる間だけ。
 逡巡したように視線を彷徨わせて、それでも戒の望む言葉―――引き止めてはくれなかったけれど、それでも立ち尽くす彼の傍らへとジーナは歩み寄り、ほとんど背丈に変わりのない…おそらくもう少しで彼女の身長を追い抜かすだろう戒の頬へと、その白い華奢な手を伸ばして、そっとキスを落としてくれる。
 チュッ。
 ふわりと触れたごく淡い唇の感触を反芻して、戒は、自身の頬にそっと指先で触れる。 ………。
 それを照れくさそうにみやって、ジーナが戒に別れの挨拶をする。
 「気をつけて帰って」
 「……うん、ありがと。…じゃ」
 未練がましさを断ち切って、戒が今度こそ踵を返す。
 「あ、戒」
 彼がドアノブに手を伸ばして、ドアを開けようとしたその直前、再びジーナに呼び止められた。、
 「えっと、その、さっきの?」
 「うん?」
 「ああ言うこと、悪い冗談にしても言っちゃダメだよ?」
 「ああいうこと?」
 「…ほら、弟さんを、とか」
 「ああ」
 どうやら、先ほど戒が言った‘悪いジョーク’への忠告だか、お説教だかをしてくれるつもりらしい。
 「あんたは有名人なんでしょ?どこで誰がどんな風に悪意で捉えて、妙な噂や評判を立てるともしれないじゃない?…あんたは気にしないって言うかもしれないけど、でも人って、気にしていないつもりでも悪く言われたり、誤解されて悲しく思わないなんてことありえないもの」
 ジーナの彼を心配してくれる言葉。
 それがいかにもくすぐったくて温かくて…嬉しくて。
 もちろん彼にしても、元々、誰にでも言い回っている話ではなかったけれど。
 「あたしはあんたに、むやみやたらに他人に傷つけれるようなマネをして欲しくない」
 「ジーナ」
 「…ね?」
 「そうだね、気をつける」
 「うん、そうして」
 「でも……、佑都のママは、俺が本当に佑都を殺したって思ってるんだけどね」
 「え?」
 「…またね」
 ガチャリ。
 今度こそ戒は、ジーナの作ってくれる揺籃の世界から、現実の世界へと戻った。




*****




 クリスマスも終わり、そろそろ年も暮れようというこの時期。
 夜の東京の町はすでに寒さも相当に厳しく、吐く息は真っ白だ。
 チラリチラリと夜空に舞って見える白いものは、もしかしたら初雪だろうか。
 それでもその白い結晶が伸ばした手の先に触れる頃には、露と消えて、跡形もなくなくなってしまっている。
 人々も足早に通り過ぎ、ゆったりとした時間を過ごしているのは、時も場合もそっちのけで互いしか見えていないカップルばかり。
 そんな中でつくしは何度も腕時計を確認して、クリスマスイルミネーションの名残を眺めながらの街角散歩をしていた。
 …けっこう好きなのよねぇ。
 本当に一人っきりの時には孤独を感じ、世界中からたった一人切り離されてしまったような寂しさが身に堪えたものだが、もう少しすれば自分にも待ち合わせの人がいて、一緒にご馳走に舌鼓を打ったり、会話を交わしあったりすることができるのだと思えば、こうしたつかの間の孤独も、なかなかに気楽なものだと呑気に楽しめる。
 …どうしよ、さすがにまだちょっと早いよね。
 類との待ち合わせは19:30に、予約したレストランで…ということだったが、その三ツ星レストランのあるホテルまでもう目の鼻の先、おそらく徒歩で5分も満たない距離だというのに、まだ1時間近くも余裕がある。
 さすがにこれからがっつりフレンチのフルコースを食べようというのに、どこかのカフェでお茶でも飲んで…という気分ではない。
 「やっぱり時間潰しも兼ねて、キッチンの……えっ!?」
 なんとはなしに眺めていたショーウィンドー越し、背後を通り過ぎた女の人影に、つくしはハッと背後を振り返った。
 …まさか、今の人っ!?




web拍手 by FC2
関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ  3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【愛してる、そばにいて0649】へ
  • 【愛してる、そばにいて0651】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【愛してる、そばにいて0649】へ
  • 【愛してる、そばにいて0651】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク