「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花②

愛してる、そばにいて0648

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 「ゆ、夕食、一緒に食べていかない?」
 「……………」
 「あ~、いつもながら、質素なものしかないから…その、あんたんちみたいな豪勢な食事とか出せないんだけど」
 語尾がだんだん小さくなってゆく。
 これまでもジーナから誘われることはあった。
 すっかり腰を落ち着けてしまって、帰る気配のない彼の態度に致し方なく…というのがありありな様子でだが。
 ただ黙っているだけなのに、ジーナが一人で勝手に早合点して、ドンドン語尾が弱々しく小さくなって行く。
 「お父さんから、あたしのうちに長居しちゃダメだって言われてるんだっけね。…ごめん、引き止めて」
 あきらかに意気消沈したジーナの様子に、不審さと心配と…そして、自分でも自覚のあるフツフツとした喜びとが湧き上がった。
 戒が一方的にジーナを慕っているから、望んでいるから…ではなく、彼女が望んで戒を引き止めようとしているのだ。
 「いいよ、一緒に夕飯食べよ?だいぶ前だけど、俺がロスに行くちょっと前に、一緒に食事に行った三番街のイタリアンの店が気に入ったって言ってたじゃない?あそこ行こうよ」
 滅多に外食をしないジーナが美味しい、美味しいと言って、ホクホク顔で料理を頬張っていたのを思い起こす。
 「…あ、外食?」
 「うん、ジーナ、眠そうだし、今から食事の支度もかったるいだろ?」
 食事の支度など気にしたことがない身の上だが、一時期は入り浸っていたのだ。
 目の前で料理を作るジーナの手順を眺めていたこともあって、それがけっして魔法のように一瞬で作られて、目の前に出されるものではないことを戒もわかるようになっていた。
 屋敷にいれば、常時専属のシェフが彼の都合に合わせて、いつでも超一流のレストランにも負けぬ料理を出してくれる。
 しかし、目の前で料理されないそれらは、一瞬の魔法にも似て、作り手の手間暇をまるで感じさせなかったから、彼にとってそうした当たり前のことすら以前は思いつきもしなかった。
 だが、不思議に、戒と同じ境遇に生まれ育ち、母親の手料理を振舞われるという経験をしたことがないはずの父親の認識はそうではなかった。
 …母さんがいたからか?
 戒の母、司の最初の妻…牧野つくし。
 だからといって、戒が好き嫌いをしたり、機嫌一つでそれらの料理を無駄にしたとしても、何かを言うような父親でもなかったが。
 「あのさ、…家で食べるのじゃダメかな?」
 「は?」
 「…あ、その、戒があんまりあたしのウチに長居しちゃダメだっていうのはわかってるんだけどね」
 歯切れの悪いジーナの言葉に怪訝に首を傾げる。
 もともとの彼女は彼にさえ、スバスバと言いたいことを言い、何かを言いあぐねて遠慮するなどということは、以前にはなかったことなのに。
 「ダ…メ?」
 「…いいけど」
 「あ!でも、やっぱ、外に食べに行こうか?ここのところ買い出しあんまり行ってないから、ただでさえ質素な我が家の食卓がさらに質素だし…」
 それだけではない気がした。
 あんな事件の後だからと見逃したが、彼女の部屋を戒が訪れた時、以前と同じように彼女の警戒心は薄れていなかったのだ。
 ストーカー及び強姦未遂犯は現在、簡易裁判の後に刑務所に送還されている。
 未遂という罪状のわりに刑罰が重いのは、男が初犯ではなく常習犯だったからだ。
 今のところ致死や重篤な致傷などの被害は被害者に与えていないようだが、それでもジーナの首を絞めていたことからして、今後さらに悪辣な罪を犯すことは十分に予測できる。
 また、男には未成年買春の罪状もあった。
 「ジーナが面倒じゃなければ、いいよ。…別に食べれないってほどマズいわけじゃないし」
 「ちょっとぉ!なによ、その失礼な言い草!?」
 さっきまでの意気消沈ぶりはどうしたんだというような変わり身の速さで、ムッと唇を尖らせたと思ったら、バシッと戒のクルクルの巻き毛の頭を一叩きだ。
 「……痛ぁっ、殴るなよ」
 「殴るわよ、もちろん!」
 「もちろんって…ぷっ」
 まさかそんな答えが帰ってくるなんて思っていなくて、一瞬キョトンとしてしまったものの、すぐに戒は顔を綻ばせクツクツと笑う。
 「なによ、殴られて笑うなんて変な子!」
 「ははは、俺のことを殴るヤツもそういないけど、他人を殴っておいて、それこそその言い草も大概だと思ったからさ」
 「……まあ、たしかに」
 ジーナもおかしくなってしまったらしく、一緒にクスクスと笑い出した。
 「あんたって、不思議な子よね」
 「不思議?」
 「たぶん、あんたって本当は、あんまり気安い子じゃないのよね。でも、あたしといる時のあんたは、よく笑うし、そんな風にはとても見えない」
 「…そうかな」
 「うん」




*****




 ジーナの言うとおり、彼女の出す食事は本当に質素で、食事というよりはスナックのようなものだったが、元々あまり大食いではない戒にしてみればそれで十分だった。
 もちろん成長期だ。
 食べる時にはかなりの量を一度に摂取することもあるが、基本、彼の父親である司と同様、戒には食べること自体にはほとんど興味がなく、体格を作ることと見場を保つこと、食事ですら彼にとっては、道明寺家の後継者として侮られずに相応しいという体面を保つ為の手段でしかなかった。
 別に道明寺家の総帥になりたいわけではなかった。
 けれど、いらないと周囲に言われれば言われるほど、黙って排斥され放逐されるのだけの自分のままでいるのは、プライドが許さず我慢ならなかったのだ。
 嘆いて踏みつけられるだけの自分にはなりたくなかったから。
 単に負けず嫌いなだけなのかもしれない。
 「あんたって成長期なのに、よくそんな少食でお腹が空かないわね?」
 「食べる時には食べてるよ」
 ジーナの膝枕に頭を乗せて、主人の膝で微睡む怠惰な猫よろしく、戒はゴロンとソファに横になる。
 時々、本当に時々だが、ジーナは彼を高級なペットのように愛でることを好んだ。
 子供の頃、犬猫が飼いたかったからだなんて、噴飯ものの物言いだったが、そんな風に彼女に愛玩されることを戒は嫌いではなかった。
 彼の癖っ毛を優しく梳く、ジーナの手指の感触ひどく気持ちがいい。
 …いい匂いだし。
 彼女の膝に懐いて、そんなことを思う。
 「そんなに好き嫌いがあるってわけでもないのね」
 「……なんでも好きなわけじゃないけど」
 「なんでもワガママを許されるお坊ちゃまのくせに、あたしが出す料理も文句を言わずに必ず完食してくれるじゃない?」
 ジーナの作る料理は彼には馴染みのないものばかりだったし、庶民で料理を作ることもあったという日本人の実母が作ったものともまたおそらく違うものだっただろうが、なぜか不思議に懐かしく温かった。
 それはおそらく家庭の温もり。
 かつての彼が知っていたはずの母の味というものに、近いものだったのではないだろうか。
 実際の味ではなく、心の味に。
 今の戒はもうそんなものすら、憶えてはいなかったけれど。
 「そう言えば、あんたとは知り合ってずいぶん経つのに、あんまりお互いのこと知らなかったわよね?」
 「…そうかな」
 そうかもしれない。
 彼女がジュリオの姉で、15才という年齢で(知り合った当時)一人暮らしをしていること、アルバイトをしていること、それくらいのことしか戒は彼女のことを長く知らなかった。
 もちろんジーナ自身も、それなりに多少のことは雑談のついでのように話すことはあったし、かつてジュリオが戒に「あまりジーナに近づくな」と、忠告混じりに彼女や自分自身のことを語ったことはある。
 けれど、その頃の戒には、ジーナという一人の少女の個人のことにほとんど興味がなかったのだと、今更ながらに思う。
 彼女の背景だけではなく、彼女が自分をどう思っているのかさえ、ほとんど興味がなかった。
 ただ行きどころのない孤独な時間の逃げ場にしていただけ。
 …でも、今は違う。
 彼女についてのたくさんのことが知りたい。
 ジュリオの語る彼女ではなく、彼女自身が語るジーナという一人の女の子のことを。
 彼女がどんな家に生まれて、どんな環境で育って、なにを思って生きてきたのか。
 愛してる人は?
 彼のことをどう思っているのか。
 すべてを知りたかった。
 そして、彼女にも自分に興味を持って欲しい。
 たぶん彼女も、少しはそんな彼と同じ気持ちを持ってくれたのではないだろうか。
 「あたしは8人兄弟の真ん中の3番目。ロクデナシで酒乱の父親が一人、6才上の姉に子供が一人いる。ママは、5年前、あたしが12才の時に交通事故で亡くなったわ。典型的なイタリア移民の娘で、家は凄く貧しい。…あんたは?」
 「…俺?」




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