「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花②

愛してる、そばにいて0647

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 ジーナの礼が大げさだとは言えなかった。
 襲ってきた男に抵抗すれば、殺されることもありえるのだ。
 そして、大半の女性がそうした恐怖に心を蝕まれ、最後まで抵抗しきれないのだという。
 殺されるかもしれない。
 殺さないで欲しい。
 殺されるくらいなら、と。
 「そして、ごめん。……あいつ、あたしを襲ったストーカーのこと、あんたかなりひどく殴ったから、あの後、大変だったでしょ?」
 「…ああ」
 しかし、元々がジーナを襲っていた男を、彼女から引き剥がす為にやったことだ。
 多少やりすぎたにしても、叙情酌量の余地は大いにこちら側にあるし、裁判に持ち込むまでもなかった。
 よしんば、道明寺家から某かの金銭を犯人がせびりとろうと言いがかりをつけて来たにしても、最強の弁護士軍団を擁する道明寺家にとって風が吹くほどの影響もない。
 「お父さんに怒られたんじゃない?」
 「……怒られないよ」
 もちろん褒められもしないが。
 それどころか戒はここ二ヶ月、司の顔を見てもいなかった。
 …会いたくもないし。
 それでも、携帯電話に定期的に入ってくる父からの着信履歴やメールを削除できないでいる。
 電話に出ることも、メールの中身を見たり返信をしたりすることもしないくせに、我ながらどういった心情によるものなのか。
 「俺のことは心配しなくていい。俺は最強のお坊ちゃまだからさ」
 「ぷっ、なによ、それ」
 「ジュリオから聞いてるんだろ?」
 「………まあ」
 ジーナも否定しない。
 第一、常に護衛を連れ歩き、リムジンに乗っている人間などそうそういるものでもないだろう。
 彼女は望みはしなかったが、何度か連れて行った高級店でも戒の顔は知られていて、下にも置かれぬ扱いだったのだ。
 常日頃から、ジーナが彼をして‘お坊ちゃま’呼ばわりするのも、ゆえないことではなかった。
 そして、戒にしても、あえてそう言われることを否定したりはしない。
 何をどう言い張ったところで、彼が彼―――道明寺戒であることに変わりはないのだから。
 「でも、あんたがあたしにしてくれたことは、本当に一生感謝しても感謝しきれないことだって思ってる」
 「ジーナ」
 ジーナの顔が泣き笑いにわずかに俯いて、
 「ずっと連絡したかったけど、でも、あんなところを見られて、どんな顔をしてあんたに会えばいいのか、何をどう話せばいいのかわからなかったし…」
 「…うん」
 彼女に自分の存在は取るに足らないちっぽけなもので、だから彼女の脳裏の片隅にもいることができなかったのだと思っていた。
 けれど―――。
 …もしかしたら、違った?
 少しでも彼女にとって、自分が価値のある人間になれていたのなら。
 「あの事件のことであんたに少しでも迷惑がかかったなら、本当に申し訳ないって、ずっとずっと言いたかった。だから、あらためてもう一度言うね。戒、あたしを助けてくれてありがとう。そして、迷惑をかけてしまってごめんなさい」
 両手を重ね、丁寧に頭を下げ礼をするジーナのつむじを、戒はなんとなく眺めた。
 日本人と違い、アメリカ人は滅多に礼を取らない。
 ミーハーなところのあるジーナだったから、モデル仲間から日本人の習慣を聞き及んでいたのかもしれない。
 だからそうするべきだと思ってとった礼だったのかもしれないが、彼女の真摯な気持ちは戒にも十分伝わっていた。
 「……魔法の言葉、か」
 ポツリと口をついて出た言葉は、戒にしても意識して出た言葉ではなかった。
 しかし、小さなその囁きが耳に届いたらしいジーナが、怪訝に聞き返してくる。
 「魔法の言葉?」
 「ん」
 別に隠すようなことでもない。
 しかし、
 「誰かに聞いたんだよ。ありがとうとごめんなさいは、魔法の言葉だって。たとえ誰かと喧嘩しても、仲直りをするにはこれを言えば、相手もきっと赦してくれる」
 「へぇ?………じゃあ自分が赦せない時は?ごめんって言われたって、相手を赦せない時だってあるわよね?」
 ジーナの顔は真剣だった。
 だから、戒も自分の奥深くを探って、その誰かが言ってくれたはずの言葉を掘り起こす。
 「その人をよく知ること。そうすれば、きっと嫌いだった人のこともそうじゃなくなる。……どんな人かを知って、誰かをずっと嫌いなままでいることなんて難しいものだからってさ」
 「……そうなの、かな」
 反駁したいわけではないようだったが、それでもどこか納得いかなげにジーナがポツリと呟く。
 戒にしても、賛同しきれるものだったわけではなかったから、彼女の呟きに答えられる言葉はなかった。
 「でも、素敵ね」
 俯けていた顔を上げた時には、もうジーナからは陰鬱さが拭われ、柔らかな笑みが浮かんでいた。
 「そ?」
 「凄い素敵な考え方だと思うし、素敵な言葉だよ。ありがとうとごめんなさいは魔法の言葉、かぁ。たしかにそうかも」
 「……ジーナが今、俺に言ってくれた意味合いとは多少違うとは思うけどね」
 ジーナが頷く。
 「そうね。でも、それをあんたに言ってくれた人は、きっといい生き方をしてる人なんだね」
 「そうなのかな」
 戒にはわからない。
 「その言葉を教えてくれた人って、戒のお父さん?」
 意外な言葉。
 戒があまりの意外さに、目を瞬かせ、ジッとジーナの顔を見返した。
 その彼の反応で、ジーナも答えを察したのだろう。
 「違うの?」
 「違う。……あいつは、自分が悪くても絶対に謝ったりしない。自分の人生に後悔したり、人に感謝するタイプじゃないから、人に謝ったり礼を言ったりもしないさ。そもそもその必要性さえも感じてないと思う」
 「お父さんのこと、アイツとか言うのやめなさいよ。……あんたのことを心配してくれてる人のことを、そんな風に悪く言うのも良くないよ」
 「別に悪く言ってなんかいないよ。ただ本当のことってだけ」
 「戒!」
 窘めるジーナに、戒は肩を竦めた。
 実際、戒にしても父親に対して腹に一物ある自覚はあるが、特に悪口を言ったつもりはない。
 …あいつが傲慢なのは、誰もが知ってることだし。
 ジーナにしても戒がそれ以上反論しないというだけで、けっして彼女の言葉を受け入れたわけではないのはわかっているだろう。
 ジーナにはかなり猫を被っている戒だったが、それでも基本的にはゴーイング・マイ・ウェイで、自分を曲げることはほとんどないことを、彼女もある程度は察しているに違いなかった。
 「もう…ホント、しょうがない子。じゃあ、誰?…例の従姉とかいう子の言葉なの?」
 「従姉…咲?どうだろ、違うんじゃないかな」
 かといって、椿が言っていたという憶えもないが、まさか遥香ということもあるまい。
 もしかして…と思う人はいる、だが―――。
 「誰が言ったかとか、憶えてない」
 「……そう」




******




 ひとしきり互いが会っていなかった間の近況を話し合って、気が付けば夕食も近い時間帯になっていた。
 しかし、ジーナの方は眠そうで、ふわぁと小さくあくびをしているのを戒が見咎める。
 「眠いの?」
 「うん」
 「まだ、18時だよ?」
 「……実はここのところ、夜あんまり眠れなくて、結構不規則なの」
 「へぇ?」
 以前のジーナも、バイトの関係から、そう規則的な生活を送っているというわけではなかったが、それでも若さに任せてか、常にパワフルでかなり過労していていても、いつでも元気で眠そうなところなど見たことがなかったように思う。
 「もしかして、体調悪いとか?」
 「そうじゃないけど」
 そうと気をつけてみれば、彼女は以前より少し痩せて、顔色があまり良くない気もした。
 「…そう。あんまり無理するなよ」
 たとえ問い詰めたとしても、意地っ張りで勝気な彼女のことだ。
 弟以下の位置づけでしかない彼の忠告を聞くはずもなかった。
 それでも、以前…例の事件のおりに戒が彼女を助けたことで、多少は地位が上がっているようではあるのだが。
 戒がダイニングの椅子から立ち上がった。
 「えっと、もしかして、…もう帰る?」
 「うん」
 「そ、そっか」
 父に釘を刺される前には、彼女の入り浸ることも頻繁で、逆に鬱陶しがられることも珍しくなかった。
 それも当然だっただろうか。
 よくタダ飯喰らいの居候と罵られたものだが、かといってその費用を払うと言っても、『うちはモーテルじゃないんだから!』と、ジーナはいっさい彼からの金銭のやり取りを受け付けなかったから。
 …貧乏なくせして。
 「じゃあ、また来るよ」
 「ま、待って、戒ッ!」




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