「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花②

愛してる、そばにいて0646

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 ゴンッと車の窓ガラスに額を打ち付け、戒はジーナの悲惨な姿の残像から目を瞑る。
 明るいところであらためて見た彼女の姿は、ひどいものだった。
 男の力で殴られた顔は腫れあがり、乱れた着衣から覗く白い肌のところどころには、やはり殴られたのだろう鬱血の痕が広がっていて、首には絞められた跡。
 気遣いもなく押さえつけられ、その際に暴れた手足は本人は意識していないようだったが、捻ったのかあきらかにおかしな歩き方をしていた。
 彼女を支えるために彼女の腕を掴んだだけで、痛みに顔をしかめていたくらいだ。
 衣服に隠れて見えないところ、―――そして、ジーナの心の傷は、察するに余り有るほどの大きさだろう。
 正直、戒もショックを受けていた。
 暴行を受けていた少女が、彼自身が好いていて、淡い恋心を抱いている相手だという以上に、力の強い男があきらかに体力や腕力において劣る女性へと、一方的に暴力を奮っているところを見たのは初めてだったから。
 レイプは人間の尊厳を穢す行為だという。
 殺人は肉体を殺すことだが、レイプは精神を殺すことだと、戒は英才教育の一つ、倫理の学習で通り一遍のことは学んでいた。
 しかし、理屈や世間一般の通俗的概念として学ぶことと、ごく身近な大切に思っている人が被害に合うことではまるで違う。
 彼自身もまた、抱えきれない苛立ちや対立の果てに、暴力に頼ることも少なくはなかった。
 それでも―――。
 「許さない」
 何度も、何度も、脳裏に蘇ってくるジーナの虚ろな目や痛ましい姿に、戒は握り締めた拳に歯を当てギリリと噛み締める。
 けっして、赦せはしないと。




******




 戒がジーナから連絡を貰ったのは、事件から一ヶ月後、すでに季節は晩秋に入ってからで、11月も半ばのほとんど冬に近い季節だった。
 戒が呼び出されたのは意外にも、以前からジーナが住んでいたアパートだ。
 てっきり親元に帰ったまま、もう戻らないのではないかと思っていた彼の予想を大きく裏切ったカタチでの再会だった。
 …本当は会いに行きたかったけど。
 だが、彼女がそれを喜ばないことがわかっていたし、自分が彼女の実家まで押しかけ姿を現すことで、彼女によけいな負荷や迷惑をかけてしまうのではないかと自重した。
 誰も彼もが、富豪の御曹司を歓迎するわけではない。
 同時に、ジーナやジュリオのように彼を特別視せずに、平常心を保てるわけではないことを、今の彼は理解していたから。
 「久しぶりね、入って」
 壊れていたインターフォンもさすがに修理されていたが、相変わらず携帯電話は不通のまま。
 さすがに解約の危機に、最近では都度補充式のプリペイド携帯に変えたらしい。
 「着信入ってただろ?」
 「来てたけど、今どき中々公衆電話も見当たらないし、ほら、うちって固定電話も引いてないじゃない?Wi-Fi使えるところへ行くのも中々暇なくてね」
 「………ハァ」
 相変わらず、ジーナの中での戒の優先順位の位置づけは低いのを実感させられる。
 ため息をつく戒にジーナは困ったように微笑んで、いつものようにキッチンを兼ねたダイニングへと通して椅子を勧めてくれる。 
 「何飲む?」
 「…あるものでいいよ」
 「そ?じゃ、お水でいい?」
 冷蔵庫から出されたミネラルウォーターのペットボトルは、戒が…というよりは、道明寺家のリムジンに常備されている銘柄と同じものだ。
 戒は何とも言えない顔で、思わずジーナの顔を見返した。
 「これ…」
 「あんたんちの御用達なんでしょ?ジュリオが言ってたわ。お坊ちゃまは、普段からコーラとかインスタント・コーヒーみたいなジャンクなものはお飲みにならないらしいじゃない?イイお水をお飲みになってるから、そんなにお肌が綺麗なのね」
 皮肉な口調だったが、それでも悪戯っぽい彼女の顔を見れば、冗談だとわかる。
 「俺の肌が綺麗だとか……それ、ジュリオが?」
 ゾッとしない。
 「あ、それは言ってなかったけど。ほら、あんたって吹き出物一つ見当たらないんだもの。あたしがそう言ったら、水一つとってもバカ高いの飲んでるからじゃないか、とかあの子が言ってたのよね。でも、値段はともかく、その銘柄ってそこら辺で売ってなくって困ったわ」
 「そうなんだ。別に良かったのに」
 というか、これまでそんな風にジーナが気遣ってくれたことがあっただろうか?
 第一戒にしても、一々飲み物や食品の銘柄にまで拘っているわけではないので、それらをいったいどこで誰が仕入れているのか、どういう経路を辿って自分の手に渡るのかなどまったく知らなかった。
 「でも、まさか、またここに戻ってきてるとは思わなかった」
 「え?」
 「だって、怖くないわけ?」
 「……ああ」
 ジーナが苦笑する。
 「まあ、怖いか怖くないかと言われれば、たしかに夜道は怖いかな」
 あれからジーナはしばらく店を休んでいたが、しかし、辞めたという話は戒は聞いてはいなかった。
 「でも、ここがあたしのウチだし」
 それは、彼女がマッシオが帰ってくるのを待ってるからなのか?
 …ヤク中の男なんかをなぜ。
 なんとも遣る瀬無い想いが戒の内側から急激に膨れ上がり、口をついて出かける。
 けれど、実際に彼が口にしたのは、全然別のことだった。
 「違うだろ?兄弟がいる。……親もいる実家があるじゃないか」
 「……そうね」
 戒はジーナが反発すると思っていた。
 だが、彼女はそうせずに、ただホロ苦く笑って首を横に振るに留める。
 それがまた彼女の彼への拒絶のように感じさせた。
 「オヤジさん、家にいないんだろ?」
 チラッと戒を見たジーナの顔は、それでも意外そうではなかった。
 元々戒はジーナの弟のジュリオの友人なのだ。
 そう言って良いかわからないが、彼を通じてジーナとも知り合ったのだから、おそらく彼からある程度の事情を戒が聞いていてもおかしくないと思っているに違いない
 「あいつがいなくたって、家には出戻りの姉一家がいるし、あたしは一度あの人たちを見捨てて出て行ったの。それを今更、自分が困ったからといって転がり込むわけにはいかないわ」
 「待ってるんじゃない?」
 「あたしを?」
 「ジーナを」
 「誰がよ?」
 「だから兄弟とか、親とか」
 「クスッ……まさか」
 ジーナが鼻で笑う。
 そして、自分の分のホットミルクを入れ、戒の対面側の椅子に腰を下ろして、ホットミルクのカップを両手で包み込むようにして覗き込んで、小さく一つ息をついた。
 彼女の横顔は、どこまでも静かな諦観のようなものを浮かべていて、そうした自分の身の上を嘆いているようには見えない。
 けれど、それを堪らないと思ってしまうのは、戒の身勝手なのか。
 勝手に自分と彼女を重ね合わせて、孤独と寂寥をそこに見い出してしまうのは。
 それとも…。
 …マッシオがいれば、それでいいのかよ?
 けっして彼女の空虚さを埋めてくれるような男には思えない男が、それでも彼女の心を占めているというのか。
 「ジ……」
 「あのさ」
 「………」
 言葉が被って、戒が引く。
 自分が何を言うつもりなのか、まだカタチにはなっていなかったから。
 「いいよ、なに?」
 逡巡していたようだったが、ジーナは唇を舐め、意を決したように顔を上げ、そして、真っ直ぐに戒の目を見て……頭を下げた。
 「なんだよ?」
 「ありがとう」
 唐突になされた彼女の礼に、面食らって戒が言葉を詰まらせる。
 「あたし、あんたに助けてもらったのに、あの時は、ちゃんとお礼も言ってなかったから」
 「ジーナ」
 「戒、あたしを助けてくれてありがとう。あんたはあたしの命の恩人よ」




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