「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花②

愛してる、そばにいて0642

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 鼻を鳴らして、戒が顎をしゃくる。
 「人のことより、お前だろ?特待生が、年齢誤魔化してあんなところでバイトに励んで、…学校のヤツらに知られたら、放校処分間違いなしだ」
 痛いところをつかれたのだろう。
 渡されたグラスに注がずに、直接コーラの瓶を煽っていたジュリオが顔を顰め、戒から視線を反らせる。
 「お前の場合、スポンサーもついてて、結果さえ出せば住まいから学費、生活費まで丸抱えだったよな?普通に生活してれば、そんなリスキーなマネしてまで小金を稼ぐ必要なんて全然ないはずじゃないか。何やってんだよ、お前は?」
 ジュリオが遊ぶ金欲しさに、そんな馬鹿なことをしでかすわけもないことをわかっていながら、あえて聞いてやる。
 …何があった?
 ジュリオと、……ジーナの身の上に。
 「お坊ちゃまのお前には関わりない話だ」
 「まあ、そうだろうな」
 ジーナばかりか彼女の弟までもが、同じ返事を返すのか。
 どこまでも冷たく冴えていたはずの戒のこめかみが、わずかにヒクリと引き攣り、唇を皮肉に歪ませる。
 いまや戒の感情を揺らすことの出来る人間などそうはいないのに、その数少ない人間たちの誰も彼もが、彼を侮り拒絶するのだ。
 …俺がガキだから?
 いや、違う。
 彼の存在が重要ではないからだ。
 誰にとっても必要不可欠な存在ではないから軽んじられてしまう。
 いかついジュリオの顔のどこかに、ジーナの面影が重なって、戒の胸に暗澹たるものが広がった。
 「ジーナが、何かに怯えてる」
 「………?」
 怪訝に上がった顔の意外さに、ジュリオがそれを知らなかったことを悟って、むしろ戒の方が驚きに目を瞬かせた。
 「知らないのか?」
 「最近、俺の方も忙しくて…会ってない」
 「姉ちゃんだろ?」
 「ウチが、今、オヤジのことでゴタゴタしてて」
 痛みを堪えるような陰鬱なジュリオの口調に、彼の苦悩と疲労が滲む。
 「父親?酒乱だとかいう?」
 「ああ。お袋が死んでから特にひどくなって、……ジーナはああいう性格だから、暴れるオヤジを罵って、特にひどく殴られることも少なくなかった」
 「……………」
 ―――あたしもジュリオもロクでもない親のところに生まれて、自分で自分をどうにかするしかなかった。
 ジーナの叫びが戒の脳裏に蘇る。
 「それでも酒が入ってない時は、真面目に働くオヤジなんだ。そのオヤジが仕事で怪我をして、今働けなくなっちまってる」
 「怪我?」
 「ああ。俺より年長の兄弟たちはともかくとして、まだ、俺の下に弟が二人、それに妹が一人、うちにはいるからな」
 それでジュリオが、父親の代わりをしているということらしい。 
 ほとんど自分のことを語らないジーナだったが、それでも彼女の上には兄と姉がいて、貧乏子沢山の7人兄弟だと語ったことを戒も憶えていた。
 「オヤジさん、ひどいのか?」
 「まあ、長年の深酒の影響もあるし、ウチはまともな医療保険にも入ってないからな」 
 父親の状態に適した療養施設に入れることもできないということなのだろう。
 かつてアメリカでも皆保険制度を打ち出した大統領が出たが、その存続自体も不透明で破綻の危機に晒されている※。
 種々の問題はともかくとして、現状のアメリカで十分な医療を受けるためには、個人個人が相応しい民間の医療保険に加入している必要があった。
 医療の質自体もその資金力によってより高度で手厚いものを受けることができるのだが、それだけにジュリオの家庭のように、医療保険に入っていない人間は、まともなケアを受けられないことは当然のこと、そもそも収入証明を出せなければ、治療自体を病院から拒絶されることさえあった。
 また、治療は受けられたにせよ、日本ではどこまで医療費がかかろうと保険診療内であれば限定的な費用で済む治療費も、アメリカでは莫大な費用を請求されることも珍しくない。
 アメリカは自己破産大国だ。
 そして、この莫大な医療費もまた、その理由の半数以上に数えられていた。
 戒には思いもよらぬ現実。
 戒にとって具合が悪ければ医師の治療を受けられるのは当たり前、それどころか病院から諸手を挙げ特別待遇で迎え入れられるのが普通の認識だったのだ。
 「ジーナはそんな家がイヤで、14才の頃から家を出てる。もちろん、14才のガキが一人生きていくなんて、並大抵のことじゃない。それでもオヤジに殴られながら、最低限の生活を保証してもらう道じゃなく、自分自身で自分を食わせる道を選んだんだ。…何をしても」
 自分自身で自分を食わせる道。
 「そんなジーナに、いくらウチのことがマズいからといって、いまさら知らせてよけいな心配をかけさせたくないんだ」
 「殴るオヤジがイヤで、ジーナは家を出たんだろ?」
 「オヤジのことは嫌ってても、兄弟のことは別だ。折を見ていつも俺や、下の弟妹たちのことは気にかけてくれてたし、…それにあいつ、気は強いけど、すげぇ優しい女だからさ」
 だから、父親のことも見捨てられないんだ、と言外のジュリオの言葉なき言葉を戒も察する。
 優しい女だから、ただ弟の友達に過ぎない戒を受け入れて、ただ黙ってそこにいることを許してくれたのだ。
 もちろん、そこには彼女がよく言う、彼が‘王子様’を思わせる美貌の少年であることもあったのだろうが、それでも彼の孤独や寂寥へのシンパシーが、そこにはあったのではないだろうか。
 そして何よりも、ジーナは彼に見返りを求めることがなかった。
 「ホントはなんだかんだ言って、オヤジが一番可愛がってたのもジーナだったんだけどな。ジーナは死んだお袋に一番似てるから」
 「…………」
 ポツリと、寂しげに呟くジュリオを、戒が無言で見やる。
 しかし、とうのジュリオの方がいち早く立ち直って、気を取り直す。
 「俺が練習サボって、あそこで働いていたことはジーナには黙っててくれ」
 「ああ」
 戒にはジュリオの一家を助けるだけの金がある。
 それはジュリオも……もちろん、ジーナも知ってるはずなのだ。
 たとえ親の脛齧りだろうが、すべてがすべて自分で稼いだものではないのだとしても、彼に…いや彼だけではなく、彼らが通う学園の生徒たちのほとんどの小遣いに満たいない金が、ジュリオの日当など軽く凌いで、もしかしたら一家の一ヶ月分の収入をも超えてしまう。
 ジャケットの内ポケットの財布が重い。
 ロクに現金など入ってはいないが、父親から渡された家族カードは、彼の家族すべての苦境を救うことができるだけの金を引き出すことができる。
 あるいは父のカードではなくても、彼自身の貯蓄や父から譲られた生前贈与の個人資産から、幾分かの金をジュリオに施すことも可能だ。
 「ジュリオ」
 「で、ジーナが何に怯えてるって?」
 けれど、ジュリオは戒に金をくれと嘆願することをせず、そして、わずかに逡巡しながらも、戒もそう申し出ることはしなかった。
 …金をやろうか?
 無利子・無期限で貸してやる―――そう言ってしまうことは、いかにも簡単なことだったけれど。
 「戒?」
 「………マッシオ」
 「!」
 驚くジュリオの顔は今度こそ、心当たりがあると言っていた。
 実直で朴訥な彼の目に浮かぶ感情は、常に正直で戒にウソをつかない。
 「誰だよ?」
 「なんで、お前がその名前を?」
 「ジーナと一緒に歩いてるのを見かけたとか言って、この前俺を呼び止めた連中の口から出た名前だ。よけいなことに顔を突っ込むなと忠告されたぜ?」




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※オバマケアをイメージしていますが、もう過去と現在が入り乱れてストーリーが展開してますので、とりあえず2017年時点ってことで^^;
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