「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花①

愛してる、そばにいて0599

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 讃美歌429番の『愛の御神よ』が聖歌隊によって詠唱され、牧師が参列者それぞれへと祝福の祈りを捧げて、結婚式の閉会が告げられた。
 参列者の盛大な拍手の中、新しく夫婦となった二人が腕を組んで、バージンロードを退場してゆく。
 「戒、私たちも行きましょうか」
 「行こう!戒」
 椿と彩に促され、戒も礼拝堂を退出し始めた。
 伯母の背中の向こうの祖母の背中をジッと見据える。
 …伯母さんは、俺に何も話してくれるつもりなんかない。
 椿は戒にもっと父と話すようにと諭すばかりで、どんな情報も与えてくれるつもりはないのだと、さすがにもう彼にしても諦めがついている。
 それは椿が怖いとかそういうことではなく、彼女への戒の好意だった。
 真実を教えてくれと何度となく迫る彼に見せる、椿の悲しげで…苦しそうな顔に、それ以上問い詰めることができなかったのだ。
 そして司もまた、戒が何を尋ねたとしても、きっと彼が満足ゆく答えなどくれやしない。
 彼がもっと幼い日、なぜ母を失わねばならないのだと問うた彼に、母を忘れろ、とただそう冷たく命じた時のように。
 …あいつにとって、自分以外の人間は駒に過ぎないんだから。
 その駒に何を説明する必要があろうか。
 思えば、父と前妻の遥香との結婚の経緯もおかしなことばかりだったのだと、戒はあらためて気づく。
 もちろん当時のことなど、彼の記憶にはほとんど残ってはいなかったし、それ以前に、事の真相に迫るようなことなど、子供の彼に教えてくれる人間はいなかったのだ。
 しかし、それでも何一つ気づかずにいられるほど彼は鈍感な子供ではなかったし、愚かでもなかった。
 椿の屋敷のメイドたちは、道明寺家のメイドたちとは違い、いわゆる外様である戒を軽んじているようなところがあって、彼を子供だと見て彼の目の前で平気で口さがないことを噂し合ったり、喋ることもあったのだ。
 さすがに椿の前ではそんなところを見せることはなかったが、そうした使用人たちの態度は、イコール椿の夫の両親の本心であることを戒にも透かし見せていた。
 所詮、道明寺総帥夫妻に認められてはいない、庶民出身の妻から生まれた庶子同然の子。
 他に後継者がいないからこそ、戒はそれなりに重んられているが、かつては佑都の存在で、そして今は司の滋との再婚によって、その地位さえも危ういのだという認識が、使用人たちの念頭にもあったのかもしれない。
 もう一度、先をゆく祖母の背中を戒は睨んだ。 
 もし、彼に真実を話してくれる人間がいるとしたら、―――その真実が、けっして戒にとって優しいものではなく、苦悩と哀しみを与えるものでしかないのだとしたら、彼を愛してくれている人間は、彼に真実を教えてはくれないだろう。
 それならば、
 …あの人なら、答えてくれる。
 戒をけっして孫とは認めず、愛してはくれなかった楓ならば、おそらく彼の知りたいことを教えてくれるのではないだろうか?




*****




 「はあ~、疲れたぁ。これから披露宴もあるんだと思うと、ホント、うんざりよね」
 ウェディングドレス姿の花嫁に似合わぬ豪快な仕草で、ドサッとソファに倒れこんで滋が呻く。
 人前ではいかにも淑女然としていた彼女も、身内や司の前でまで取り繕うつもりはないらしい。
 司の場合は身内意識から…というよりは、逆に彼に対して、よく思われたいという気持ちがこれまでなかったからなのだろうが。
 なんとはなしに伸ばした手の先、滋が自分の薬指にハマった指輪を撫で、パッと起き上がって乱れてしまったドレスや髪を手櫛で整えて、へへへと照れ臭さそうに笑う。
 が、当の片割れの司の方は、まったく彼女に注意を払うこともなく、返事さえ返さずに、さっさと脱いだモーニングコートを無造作に床に放り投げ、続いて首から抜き取ったネクタイも一緒くたにその場に投げ捨てる。
 見るともなくその着替えをジッと見守っていた滋が、司がドレスシャツの第一ボタンを外し、襟元を寛がせている様をニヤニヤ笑いで眺め、エロオヤジさながらに揶揄った。
 「ひゅ~ひゅ~、あんたって、やっぱ無駄に造作いいだけあって、そうやってるとずいぶん色っぽいじゃない」
 ジロっと睨む視線にもたじろがない。
 「あ~あ、これでその鉄面皮そのまんまの冷血漢じゃなかったらなあ。宝の持ち腐れっていうか、ホントもう、あんたって残念すぎ~。ニコニコしろとまでは言わないけどさ、もうちょっと愛想よくできないの?」
 彼女のボヤきも丸無視で、司はポケットから取り出したポケットチーフで、先ほど彼女と手を繋いでいた手指をゴシゴシと拭った。
 それには、さすがの滋も顔を顰めて鼻を鳴らす。
 結婚式の直後にも、教会から披露宴会場であるメイプルホテルへの移動の間までに、途中司はレストルームに寄っていた。
 その時は滋にしても、こんな澄ました顔をした男でも、トイレなんかに行くんだ、とか当たり前なことを思いつつも、忙しない移動途中にわざわざ立ち寄るくらいだから、よほど膀胱の危機だったのかとしか思わなかったのだが。
 …もしかしてこいつ、誓いの儀式で私とキスした
もんだから、口とか濯ぎに行ってたんじゃないでしょうね。
 滋に触れた唇や指輪のハマった手指を、ゴシゴシ洗いしている司の姿が容易に思い浮かんで、そんなことを疑ってしまう。
 …こんなことなら、嫌がらせに舌でも入れてやるんだった。
 滋は内心でつい後悔していた。
 おそらくそんなことを彼女にされた日には、この病的に潔癖で、女嫌いな男のことだ。
 歯磨きやら、うがいまでし出すのではなかろうか。
 「まったく失礼しちゃうわね。いくら女嫌いだって言ったって、どこまで神経質なんだっつーの、あんたは。よくそれで遥香ちゃんや、その前の奥さんと結婚生活送れてたわよね。遥香ちゃんの方はともかくとして、前の前の奥さんって、恋愛結婚だったんでしょ?それともやっぱりゲイで、これまでの結婚は隠れ蓑だったとか?」
 「……俺のことより、お前の方は、披露宴が始まるまでに着替えもあるだろ。いつまでもこんなところでグズグズとくっちゃべってねぇで、さっさと支度しに行ったらどうだ?」
 ズケズケと突っ込んでくる滋の物言いにも、特に司の表情が変わることはなかった。
 しかし、司が滋との会話に応じてきたのは、今日、初めてのこと。
 物言いはどこまでも機械的だったし、相変わらず大して滋に興味はなさそうだったが、それでも滋は嬉しそうにニッカリ笑ってピースサイン。
 「ふふふ、そこが滋ちゃんの凄いところです!このドレスはねぇ、豪華さだけに着眼点を置いてるわけではなくって、機能性も考慮してデザインしてるから、脱ぎ着も楽なの!当然、披露宴で着るお色直しのドレスもそうだし、女の服になんか興味のないあんたにはわからないだろうけど、スル~っと脱いで、ズボッと着れるところがミソなんですねぇ」
 おどける滋をよそに、床に放りっぱなしのモーニングコートの胸ポケットからタバコを取り出し、滋が座る中央の応接セットのソファではなく、壁際に設置されたソファへと腰を下ろして、司がタバコを燻らせ出す。
 そうしていると無駄に造作がいいと、滋に言わせただけあって様になっている。
 まるで一服の絵画のように美しく、司の外見に惑わされているつもりのない滋にしても、さすがにうっとりと見惚れずにはいられなかった。
 「……お前の親父」
 「えっ?」
 「どうして急に、俺とお前の結婚に乗り気になったんだ?最後まで反対してたろ?」




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