「愛してる、そばにいて」
第7章 光と影④

愛してる、そばにいて577

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 類がつくしにSPをつけていたことは、ある意味、彼らの世界では普通のことで当然だった。
 かつてつくしも経験したことだが、彼らと関わるということは、常に人の注目を浴びることであり、また嫉妬や羨望、時には見も知らぬ相手から怨嗟などの負の感情を受けることさえあるものなのだ。
 またそうでなくても単純に、営利誘拐など。
 つくしはいまだ、類とは名前のある関係でなかった。
 しかし、同じマンションに住み、いかにも親しげな様子で近辺を二人でウロついていれば、邪な意図がある人間にしてみれば、つくしが類にとって影響力がある人間だと見なすこともあるだろう。
 利用出来る人間だと判断され、盾にとられてしまうこともありえる。
 「それでも一応は、牧野の妨げにはならないようにはしてたつもり」
 「うん」
 実際、類の父親に指摘されるまで、自分にそんな人間がついていることなど、つくしはこれまでまったく気がついていなかったのだから。
 「もしかして、これまでもいろいろ報告行ってた?」
 「ん~、まあ、駅前のケーキ屋のショーウィンドーを、よくヨダレ垂らしそうな顔で見入ってた、とかはないけど」
 「ちょっ!」
 「だから、報告されてないって。これは、俺がたまたま車で通りかかった時に見かけただけ」
 「もうっ!」
 気色ばみかけ、いつものように単にからかわれただけだとわかって、ムッと唇を尖らせる。
 そんなところを、見られていたのかというバツの悪さも手伝って。
 「まあまあ、機嫌直して。この間も、買って帰ってあげたでしょ?ケーキ」
 「1ダースは多すぎでしょ、1ダースは」
 ましてや類自身は食べないのだ。
 「だって、全種類食べたいのかと思って」
 「そりゃまあ、そうだけど、…どこの世間に12個もケーキを、一度に食べられる女がいるのよ」
 結局、その日のケーキは、仕方なく次の日につくしが職場に持って行って、看護師や同僚の親しい女の子たちに配って、無駄にすることにはならなかったのだが。
 …まあ、次の日でも普通に美味しかったからいいけどさ。
 「いやいや、そんなことはどうでもいいのよ、今は。そうじゃなくてね」
 「うん?」
 少しだけ迷って、それでも聞いてしまうことにする。
 「他に、誰かいたりした?」
 「ん?」
 首を傾げられ、なんと説明したものかと首を捻る。
 しかし、結局無難な言葉が見つからず、そのままズバリ尋ねることにした。
 「その…司も、誰かつけてた?えっとぉ、…見張り、とか?」
 「ああ」
 それで類も察してくれたらしい。
 彼にしても司の長年の親友なのだ。
 司の性格や行動パターンなど熟知している。
 怪訝な顔をすることなく、あっさりとつくしの懸念を理解してくれた。
 「いや、俺と再会した時には、もう誰もついていなかったよ」
 「そ…う」
 安堵していいのか、それとも自分は落胆しているのだろうか。
 …落胆、なんでよ。
 たとえどんな理由からであっても、自分の行動に見張りが付けられていて嬉しいはずもない。
 それなのに。
 「そう言えば、司との離婚の後、あんたにつけられてたのが前旦那だっけ?」
 「うん。司からはなんか聞いてなかった?」
 「だから、ここ数年、俺は司とはほとんど没交渉だったんだって」
 「あ、そっか」
 先進国を転々としていた司と、発展途上国を中心にドサ回りしていた、類とでは商業圏からしてまるで重なることのない十数年間だったのだ。
 ただでさえ、マメではない彼らが、友情からでも小まめに連絡など取り合ったりはしないだろう。
 「あきらや総二郎からわざわざ聞き出したりするほど俺も暇じゃないし、椿姉ちゃんは、まあ、相変わらず司と仲良いみたいだけど。それにしたって、イイ年をした大の男が、なんでもかんでも一々姉貴に報告するってものでもないだろ?」
 「まあ、それはそうよね」
 つくしと進も、椿と司に負けず劣らず仲の良い姉弟だが、たまに互いの近況を報告する程度のことで、全部が全部報告し合ってるなんてことはない。
 「でも、俺が言うのもなんだけと、司があんたにSPをつけてた事情はわかってやって欲しい。誘拐とかもあるからさ」
 「うん、わかってる」
 悪意に取れば、見張りあるいは監視ともとれるが、一方で護衛としての側面もある。
 そして、できることなら後者だと思いたい自分がいる。
 …私がひどいことをしておいて。
 それでも、司が自分を憎んでいる、とは思いたくなかった。
 もしかしたら、単に『戒』のために、足でまといの彼女を保護する必要性からの、護衛であっただけなのかもしれなかったけれど。
 「悪いけど、そういう事情だから、今後も護衛はつけさせてもらうよ」
 「……類」
 「もちろん、これまでどおり、極力牧野に窮屈は感じさせないように、存在感は抑えさせるけど、誰もつけないでいるっていうのは不安なんだ」
 それも、おそらく類との結婚が現実的なものになればなるほど、むしろ司の妻時代のように、身近に護衛の存在感を出させることも必要になってくるのだろう。
 かつて、そうしたことを厭って、道明寺家から逃れようとした自分。
 ただ司から逃げたかっただけではなかった。
 おそらく道明寺家そのものからこそ、逃げたかったのに違いなかったというのに、また自分はそこへ飛び込もうというのか。
 しかも、今度は自らの意思で。
 でも…。
 …私、類との結婚を真剣に考えてる。
 一言の下に否定するのではなく、悩んでいる自体がその証拠なのだ。
 「類のお父様、私を受け入れてくださるって」
 「うん」
 「どうして?」
 まさにそうとしか言いようがなかった。
 いまだに半信半疑で、いつ先ほどの言を翻して、息子と別れてくれ、縁を切れと迫られるのではないかと―――司の両親が彼女へと迫ったように。
 「どうやら、あんたのことが気に入ったらしいね」
 「え?」
 ツンと額の真ん中を突っつかれ、つい寄り目になってしまったのを笑われてしまう。
 「ぷっ、何その顔」
 「ほっとけ」
 「ふふ、そんな意外そうな顔しなくてもいいんじゃない?あんたって、どうしてそう自己評価が低いの?」
 「低いつもりはなかったんだけど」
 それでもたしかに、卑屈な自分も自覚していないわけではなかった。
 さんざん道明寺家の若夫人時代に植えつけられた意識は、そうそう改められない。
 どんなに頑張っても、認められることがなかった。
 どれだけ努力しても、子供の頃から高度な教育を受けてきた人間に追いつくことは、並大抵のことではなかった。
 …しょせん、泥は泥。
 白鳥の中に混じった醜いアヒルの子。
 司の愛だけを縁に生きた時代は、今思えば幸福だったけれど、同時に自己を抑えて周囲へと同調することばかりを努めている人生だった。
 道明寺司の妻であること、道明寺家に相応しい一員であること。
 それらだけを求められ、彼女らしく生きることが許されなかったのだ。
 …あたしらしく。
 そう願った少女時代とは裏腹に。
 「父があんたを見た上で、気に入ってああ言ったことは本心だと思う。元から道明寺家の若夫人はヨーロッパでは評判が高かったんだ。社交界ってやつも、誰も彼もが、英徳で俺らにおもねっていた連中みたいな、権高いだけの愚か者ばかりってわけでもないからね」
 類が辛辣に嗤う。
 「あんたは道明寺家の若夫人時代、ボランティアやチャリティー活動に力を入れていて、道明寺財閥の国際NGO※1やNPO※2法人への支援部門や、それぞれの役員に名前を連ねて、実際に関わっていたりもしていたよね?…見識、評判、人格、知性、教養どれをとっても誰に対しても恥じることはない」
 「類」
 思わぬ類の評価。
 そして、それは同時に、類の父の評価でもあるというのだ。
 驚く彼女へと、優しい眼差しで頷きかけてくれる。
 だが、その類の顔が、わずかに苦いものを含み、つくしから反らされた。
 「でも、それだけじゃないけどね」
 「え?」 
 「牧野のことを気に入った…それとは別に、父の意図は、俺を静から永遠に遠ざけたいんだ」



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