「愛してる、そばにいて」
第7章 光と影④

愛してる、そばにいて572

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 見覚えのない顔だ。
 しかし、同時にどこかで見たことがある気がした。
 「違ったかな?」
 男性に問われて、慌てて頷く。
 「いえ、そうですが……あの、どちらさまですか?」
 ともすれば冷たく見えるだろう整った美貌が、彼女の不審感もあらわな問いかけに苦笑した。
 「まいったな。あなたとは何度かお会いしたことがあるのだが、おわかりになりませんか?」
 男の自信ありげな物言いに記憶を探る。
 彼女の名前を言い当ててきているくらいだ。
 まったく見知らぬ人物ということもないはずだ。
 …え?
 「そうだな、もう10年以上も前のことになるが、ポーランドでの――」
 「し、失礼いたしました。お久しぶりです。花沢さん」
 思い浮かんだ名前と、重なった面影に慌ててそのまま最敬礼でお辞儀をする。
 妙に年齢に見合わぬ無邪気な笑みで、ニッコリと笑ったその美貌は類によく似ていた。
 …類の。
 「良かった、思い出していただけたようだ」
 「ほんとうに、失礼いたしました。その節は………」
 なんと挨拶をして良いのか悩んで、結局尻切れトンボのまま再度会釈をするに留める。
 かつて、親友の父上だと、司に紹介された東欧でのパーティ。
 あの頃は、‘道明寺つくし’としての彼女だったから、あくまでも社交上の儀礼として挨拶を交わしたのみで、つくしだけではなく、類の父・花沢にしても彼女を道明寺家の若夫人としての認識しかなかっただろう。
 けれど、今、彼女を名指しでこんなところで待ち伏せした理由は。
 …一つしかない。
 今現在の彼女は、‘道明寺’姓を名乗っていない。
 当然その経緯も、司と同じ世界に生きる花沢が承知していないはずもなかった。
 そうである以上、目的は彼の息子である類に関わる女としての彼女自身。
 「もし良かったら、少しお時間をいただけないかな?夕食でもどうかね?」
 「……あの」
 「もちろん、食事が終わったら、息子のマンションまでお送りしよう」
 「…っ」
 そこまで知られている…知られていないはずはなかったが、ズバリと口に出されてしまった以上
彼女にシラを切り通せるはずもない。
 「わかりました。お供させていただきます」
 そうとしか言える言葉はなかった。




*****




 「なるほど、車の事故でね。それは難儀な偶然もあったものだ」
 何を言われるのかと、内心では戦々恐々としていたつくしをよそに、類の父親との会談は、ぞんがいに和やかなものだった。
 日本に滞在中は行きつけの店だとかいうレストランに連れ込まれ、個室ではなかったが、店内の他の客からは姿が見えないだろう奥まった席についた途端、料理の注文もそこそこに質問攻めだ。
 おそらくある程度、類との経緯や彼女自身の最新の身辺も調べられ、知られているに違いない。
 しかし、それを花沢はけっしておくびにも出すことはせず、まずは順を追って、彼女と息子との再会の経緯から現在に至るまでを質問してきた。
 つくしも、嘘や誤魔化しで繕うつもりはなかった。
 本当にこの先類と結婚するとなれば、この父親がまず一番の障害になることはわかりきったことではあるが、つくし自身、類にいくらプロポーズされているにしても、彼との結婚をあまり現実的なものとは捉えていなかったのだ。
 …普通の家の人だって、バツ2の子持ち女なんてお呼びじゃないものね。
 「ふ、親友の元奥方をメイドとは、あいつも…まったく」
 彼女からしてみても、とんでもない経緯だったのだ。
 フォローしようにも何とも言いようがなく、仕方なく曖昧に頷く。
 てっきり類との関係を問い詰められるものと思っていたというのに、一通りのことを聞くと今度はつくし自身の身辺調査だとばかりに、花沢の質問は彼女個人のことへと移った。
 「たしか、あなたは、類や司くんの英徳時代の後輩だったね」
 「…はい」
 実態からすれば、後輩…というのも同意し兼ねる呼称ではある。
 だが、たしかに間違ってはいない。
 「それで司くんに見初められて結婚を…だったか」
 「……………」
 「戒君とは離婚後?」
 「道明寺と、戒とは会わない約束をしておりますので」
 「そうか。以前にお会いした時には、ずいぶん仲睦まじい御夫婦だと感嘆したものだったが、……辛かったね」 
 通り一遍の同情の言葉だ。
 実際には花沢が真実そう思っているとは限らない。
 しかしそれでも、他者にあらためて、戒とのことを慰撫されればこみあげるものがある。
 油断すれば涙ぐんでしまいそうな情動に目を瞬かせ、つくしは震える唇をわずかに舐め、なんとかぎこちなくはあっても笑みを浮かべることに成功した。
 「……いえ」
 「それからずっと一人で?」
 思わず俯きがちだった顔を上げ、つくしは類によく似た顔をジッと見返した。
 ん?と柔和さを崩さない男の顔には一見何の含みもないように見える。
 しかし、そんなはずがないことは、つくしにだとてわかっていた。
 …調べていないはずがない。
 それが彼らのやり方だ。
 だが、問われた以上は答えるしかなかった。
 「いえ、二度目の再婚を」
 「おお、そうだったのかね。ご主人は?類の…同年代の年頃の異性の家で、同棲まがいに妻が住み込みで働くことに異を唱えられなかったのかね?」
 「……っ」
 同棲まがい。
 「いえ…あ、その、る…副社長と住み込みでの雇用契約を交わした時には、離婚することで双方同意していましたので」
 「同意?」
 ねっとりとした口調に含むものを感じずにいられるほど、鈍感なつもりはない。
 事情を知らない人間なら、誰もがそういう目で見るのも致し方ないことだ。
 特に侮辱的な行為というわけではない。
 だが、しかしーーー。
 「息子の…夫の実子との兼ね合いで、離婚の時期を見ていました。時期を見計らって、離婚届を出すつもりでしたが、その時には、…副社長のメイドとして働き始めた頃には、たしかにまだ戸籍上は既婚者でした。でもこのことは、副社長との雇用関係にはまったく関係ないことです」
 キッパリと言い切る。
 傍から見れば怪しいこと、この上ないことなのだろう。
 類の父が疑っているように、既婚者の身の上で、未婚の男と不倫同棲していたと取られても仕方がないのかもしれない。
 けれど、
 …あの時にはもう、隼斗さんと離婚することで合意していたし、類ともそんな関係じゃなかった。
 「社長が何を疑ってらっしゃるのか、お聞きになりたいのかわかりませんが、このことに関して私には人に恥じるべきことは何一つありません」
 「ふ、……ふふ。このことに関して、ね。じゃあ、他にはあるのかね?」
 思わぬ切り返しだったが、一度口にした以上は撤回するつもりはなかった。
 「ええ、それは私もごく普通の…弱い一人の人間にすぎませんから、これまでの人生で何一つ間違ったことがない、疚しいことがなかったとは言えません」
 睨むように自分を凝視する、つくしの視線からわずかに目を反らして、花沢が小さく笑い出す。
 愉快…という感じではなかったが、それでも嫌な感じの笑いではなかった。
 …呆れられちゃった?
 どれだけ図々しい、いけしゃあしゃあとした女だと思われただろうか。
 「いや、失礼」
 「……………」
 ゴホンと咳払いして、あらためて居住まいを正した花沢の様子は、どこまでも紳士的で、けっしてつくしを嘲弄してはいなかった。
 好意的ですらあったかもしれない。
 …まさか?
 「あなたはどうやら率直な人のようだ。自分を取り繕おうとは思わないのかね?」



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