「愛してる、そばにいて」
第7章 光と影④

愛してる、そばにいて565

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 ―――俺のことを見てよ。
 「もうデザートにする?」
 道明寺邸でシェフに振舞われる食事と同様、料理はコースで構成されていたが、気の置けない時間をゆったりと楽しみたかったから、料理を部屋に運ばせるだけではなく全品一度に配膳させていた。
 「う…ん…どうしようかな。今日はもうお腹一杯だから、冷蔵庫に入れておいて、明日マンションに持ち帰らせてもらったらダメ?」
 「いいんじゃない?まあ、当日より多少味は落ちるけどね」
 「はは、全然平気だよ。パティシエさんには申し訳ない話だけど」
 意図的にか、あるいは無意識にだろうか、類がその場の空気を変えようと、話題を変えたのは彼女にもわかっていた。
 けれど、類が彼のことを見ろというのなら、また彼にも自分のことを見てもらう必要がある。
 「類」
 「ん?」
 唇を舌で舐め、湿らせる。
 ゴクリと唾を飲み込み、覚悟を……決めた。
 「類にはこれまで、私のこと、たくさん話してきたわよね?」
 「そうだね」
 彼が話してくれたように、彼女もまた、長く目を背けてきたことや自分自身のことを語り、多くのことを共有してきた。
 …でも、まだ話していないこともある。
 けっして隠していたつもりではなかった。
 それでも、容易なことではなかったのだ。
 どれだけ自分の醜さや汚さを曝け出しても、怖れる心を克服することは難しい。
 ーーー軽蔑されたくない、と。
 見下げ果てた女だと、彼に嫌われたくない自分の怯懦をつくしは自覚していた。
 「司との離婚の顛末はある程度、椿お義姉さんから聞いてるのよね?」
 「まあ、たぶん、あきらや総二郎が聞いてるのと、同じ程度のことだけどね」
 高校時代、司にレイプされ、囚われて…無理強いに彼の所有物のような立場に陥っていたことは、すでに類にも話してしまっている。
 そして、記憶を失い、司に欺かれ、彼の妻になったことも。
 その後の10年間は彼の妻として、経済的には何不自由なく、円満な夫婦生活を送った。
 たとえ司の両親から認められず、さまざまな抑圧を受けていたにしても、…幸せな10年間だったと言えた、今の彼女には。
 戒の誕生。
 日本への帰国。
 誘拐未遂。
 10年の時を得て、蘇った過去の記憶とその代わりに失われた、司の妻だった間の10年間の記憶。
 司との離婚を巡る争い。
 「司は一貫して、私との離婚に応じてくれなかったの」
 「それは…そうだろうね」
 類も片鱗だっただろうが、司の彼女への執着を知っていた。
 「それなのに、離婚することになったのはどうしてだか、類は知ってる?」
 表向きの理由と、そして、真実。
 「司の不倫とその不倫相手…後の後妻さんの妊娠で、とは聞いてるかな。ただし、これは世間一般に知れ渡ってる周知の事実ってヤツで、ねえちゃん…司の姉貴にしても、本当のところは知らないらしかったかな」
 当然だろう。
 当時、椿は妊娠中で、何度となくあった切迫流産の恐れの為、司とつくしの離婚当時、長期の管理入院をしていて、ほとんど彼ら一家と接触していなかったのだ。
 もしかしたら、タマの口からそれなりに事情を聞いているかもしれなかったが、真相は司とつくし、神崎遥香の当事者三人と、つくしと遥香の後ろで糸を引いていた黒幕の楓…そして、つくしと楓との間のパイプ役だった桜子だけが知っていた。
 「私が司をハメたの。酷いことをしたのよ」
 「………酷いこと?」
 「ええ。神崎さん…司の、私の後に、司の奥さんになった遥香さんと私が組んで、司をハメて逆レイプさせた。遥香さんの妊娠を目論んだの」
 わずかに類の眉根が寄った気がした。
 これまでつくしのどんな打ち明け話にも、自身の自分語りにもほとんど表情を変えることのなかった類の表情が、陰った気がした。
 …もしかしたら、もう愛想を尽かされてしまったかもしれない。
 自分を愛している男をハメて、強姦させたのだ。
 なんと恐ろしい女だ、残酷な女だと思われたのではないか。
 それでも自身の闇を隠して、取り繕った自分だけを見せたまま、類を欺きたくなかった。
 たとえ偽善者だと言われても。
 だが、類に変化があったと思えたのは、本当にその一瞬だけで、あとはいつものように彼女が話したいまま、時に言葉に詰まると相槌や質問を交えて、彼女が話しやすいようにと、それだけを導いてくれた。
 「PTSD、そう。…ないわけがないか。あんたの場合、男性恐怖症や男限定の接触嫌悪症、その他諸々の障害を併発していそうだよね?」
 「そうなのかな」
 もちろんつくしにも、自覚がないはずもない。
 「あんたの前旦那が、司の手先だったから、だからダメだったってわけじゃないよね?」
 「たぶん」
 つくしにしてみても、しかとしたことはわからなかった。
 司以外には隼斗としか、男性経験がないのだ。
 「それにそもそも、隼斗さんが司と繋がってたって知ったのは、彼と結婚してから随分経ってからのことだし」
 「…それが離婚の原因?」
 「直接にはそうだけど、たぶんそれだけじゃなかった」
 「そうだね」
 類も賛同してくれる。
 おそらくたとえ騙されていたにしても、つくしが隼斗を真実愛していたのなら、結局は赦したはずだ。
 家族としての愛や尊敬だけでは、彼を許し得なかった…その程度の気持ちだったのだと言われれば、つくしには反論する言葉がなかった。
 男としての彼を愛していなかった。
 恋してはいなかったから、だから最終的に赦すことができなかったのだ。
 「私のこと、軽蔑した?」
 …嫌いになった?
 いつだったか、類がつくしへと尋ねた問い。
 あれは確か、彼が静との不倫を告白した時だ。
 軽蔑したかと聞いた彼に、つくしはなんと答えたのだったか。
 「俺にはとても、あんたを軽蔑することなんてできない。それができるのは、何一つ間違ったことをしたことがない人間だけだ」
 「…っ」
 「だろ?」
 驚くつくしに、類がもう一度頷きかけてくれる。
 「あんたが俺に言ってくれた言葉だ。俺にはあんたを咎める資格なんかない。それを言うのなら、俺も軽蔑されてしかるべき罪を犯した。……静とのことだけじゃなく」
 「…え?」
 「あんたが司と好きで一緒にいるんじゃない。なんらかの威圧を受けて従わされてるんだって、本当は薄々気がついていながら、俺は結局何もしなかった。……赤札のことも」
 つくしが目を見開く。
 「だよね?あんたを見殺しにした罪。英徳で司が扇動していた赤札を…あいつが誰かを虐げるのを、見過ごしていた罪」
 よもや類が自身の罪を自覚してくれていようとは、まったく想像もしていなかった。
 見過ごした罪、見殺しにした罪。
 類…や、総二郎、あきら、そして、積極的消極的いかんに関わらず、赤札を知っていながら、それを悪だと糾弾しなかった英徳の人間すべてに罪はあったのだ。
 もちろん、つくし自身にも。
 …私も目を瞑っていた。自分がその立場になるまで、見ないふり、聞かないふりで、息を潜めてただ自分が平穏無事に卒業できる日を待っていただけ。
 そんな彼らの中でも特に頂点に立っていた類が、たとえ彼女がどう説明したとしても、とても理解などできるはずがないーーーそんな風に思っていた気がする。
 それは彼ら自身がどういう人間かは別として、人は明確な罪でなければ自覚しがたいものだから。
 「自覚のあるなしは別として、何一つ間違ったことをしたことがない人間なんているはずがない」
 「類」
 「あんたを軽蔑するなら、俺は俺自身を軽蔑しなければならないし、司のことも同様だ。間違いなく司は軽蔑され、非難されてしかるべきことをしたんだし、本当は俺もアイツを軽蔑するべきなのかもしれない。でも俺は、司のことを軽蔑することができない。あんたには悪いけど、ヤツのしたことの善悪や俺自身の持つ罪は別にして。あいつは俺の大切な親友で、……あんたは俺の大切な人だから」



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