「愛してる、そばにいて」
第7章 光と影③

愛してる、そばにいて561

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 いつかのように、「違う」とは言えなかった。
 だが、「そうだ」とも、彼ら二人の歴史を何一つ知らないつくしには言えるはずもない。
 けれど、束縛の重さを彼女も知っていた。
 求められれば求められるほどに、縋り付かれれば縋りつかれるほどに、その愛という名の鎖の重さがいかに耐え難いものであるのかを。
 「静さんを恨んでるの?」
 「どうだろ…いや、たぶん、そうだな。あの頃、静が自分自身の未来を掴むためにフランスに渡って、追いかけたけど会うこともできずに逃げ出して。完全にあいつとの道が別れて、もう静は俺の元には戻ってきてはくれないんだってことを実感した時には、恨めしい気持ちが大半だったけど、…でも、ちょっとは安心したかな」 
 「安心?」
 意外な言葉。
 「俺も、苦しかったから」
 「……………」
 「俺ほどには俺を愛してはくれない静にしがみついて、あいつのお荷物でしかいられない自分にいい加減ウンザリだったから。…女が夢を叶えるために、家も持っているもの全部捨てて、たった一人で踏ん張ってるっていうのに、なにやってんだろってさ」
 それは遥か過去、つくしが彼へとかけた叱咤の言葉だったか。
 「まあ、それも後になってみればってやつだけど」
 まさにそうなのだろう。
 その心境に至るまで、類は長く、苦しみもがく歳月を過ごした。
 「だからあのまま、…ただの幼馴染みのまま、もう二度と会うことがなかったら、きっといつかは全部吹っ切れていたと思う」
 「ただの幼馴染み」
 類と静の間柄を説明するには、あまりに端的で素っ気ない形容。
 「そう、ただの幼馴染み。少なくてもあの頃、あの時に、リヨンで静と再会することがなければ、たぶんそうあれたはずなんだ」
 「……………」
 「まさかパリにいるはずの静と、あんなところで再会するなんてことがあるとはね」
 パリ、マルセイユについで、フランス第三の都市・リヨン。
 一口に‘フランス’といっても、距離にして400km。
 東京と東北間ほどの距離がある。
 同じ国内にいたとしても、二人が会う確率はいったいどれだけのものだったのだろうか。
 運命。
 それをこそ運命だと言えるのかもしれない。
 司とつくし、類とつくしが出逢ったのが運命だったのなら、おそらく類と静が再び出逢ったのもまた、運命だったのだろう。
 「静と再会して…俺にとって女神にも等しかったあいつが、一人の弱い女なんだって、夫や家族とのことに悩んで、泣いたり苦しんだりすることもあるなんて当たり前のことを、初めて知ったよ」
 たしか静は結婚後も中々子供ができなかったことや、激務の弁護士という職種が原因で、夫とスレ違っていたんだと、以前類が語っていた。
 「ホント、そんなことを、いい年の大人になってやっと気がつくのもたいがいだけどさ。そんな関係になって、よけいにあいつが苦しむ事になるなんて、まったく気がつきもしなかったんだよ、俺は」
 あの時、彼がそのことをつくしに語った時、まだ癒えぬ生々しい傷を覗かせ、類はいまだ燻る静への想いを持て余して鬱屈していた。
 けれど今、当時を語る類の顔はそれらを自分なりに昇華し、自らの不明を認めて、静を―――愛する女を恨むことではなく憐れんで、そして、静かなる諦念と共に悔恨を噛み締めているように見える。
 「……静を愛していたのなら、あいつを道連れにしてさらなる地獄に引きずり込むんじゃなく、ただ見守って支えてやるべきだった。今はそう思う」
 「………」
 「それを教えてくれたのは、あんただよ」
 「え?」
 思わぬセリフに、つくしは驚いて目を見開く。
 類は泣きたくなるほどの優しさと慈愛を湛えた眼差しを彼女へと向け、柔らかく微笑んだ。
 …なんて綺麗なの。
 彼の容姿が、類稀に美しいことなどとっくに知っていたけれど、その彼女をして見惚れるさせずにはいられなかった。
 この上なく清雅で、苦悩も哀しみも痛みも…醜さもすべてを呑み込んで、なお立ち上がった男の魅力的な顔。
 「あんたは、いつでもどんなに傷ついても立ち上がろうとしていた。どんなに傷つけられても、赦して手を差し伸べてきた。そんな女の強さと優しさが、俺のことも変えたんだ。あんたに会うたびに、俺は揺さぶられる。求めるばかりのガキのまんまじゃなく…与えられることのできる男にならなきゃダメだ。非力な女にできることが、俺にできないはずなんてない。できなきゃウソだって、そう俺を奮い立たせた」
 「…類」
 そんな大したものじゃない。
 ただ悲しくても、辛くても苦しくても、人の心の弱さに絆されて、縋り付く手を振り払うことができなかっただけ。
 類の手がつくしの顔へとすっと伸ばされて、わずかに身を引いた彼女を許して、顔ではなく頭へと触れる。
 優しく髪を梳いてくれる大きな手の温もり。
 けっしてお前を傷つけはしないと、彼女の臆病さを受け留めて。
 「あんたとなら、俺は人並みの人間になれる。…俺はもう愛してる女を追い詰めたくないんだ」
 愛されることを求めて、縋り付くだけの子供ではなく、愛することのできる人間になりたいと類が掻き口説く。
 「あんたが本当は、まだ司を忘れかねてる…あいつに未練があることは俺もわかってる」
 「…っ!」
 「だから、無理に司を忘れなくてもいい。あいつを抱いたままでもいいんだ。……それに、俺もたぶんまだ、完全には静を忘れられていない。でもそれはもう、あの頃のがむしゃらにあいつを欲しいという気持ちじゃないんだ。あいつも幸せでいて欲しい、たとえ、俺がその幸せに直接関わることができなくても、それでもこの空の下のどこかで、静が輝いていてくれればそれでいいと思ってる。そんな俺じゃダメかな?静を忘れかねてる俺と、司を拭い去りきれていないあんたと二人じゃ作れないかな?」
 「作る…って何を?」
 静を忘れられていないという類と、いつまでも司の面影をどこかで追い続けている自分とで、新しい何かを作れるというのなら、それはいったいなんだというのか。
 「愛情、優しさ、幸福、温もり―――そして、それら全部を内包した家庭」
 「……っ!」
 「俺一人じゃ作れない。作る方法さえ知らない俺だけど、でもきっとあんたなら教えてくれる」



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