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「愛してる、そばにいて」
第7章 光と影③

愛してる、そばにいて555

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 カッポン。
 鹿威しの軽快な音やサラサラと流れるせせらぎの音に、少し汗ばんだ素肌もいくらか冷やされる気がする。
 日本庭園を模して作られた中庭へと開け放たれた窓から入る風は、それほど多くはないが、それでも時折吹き抜けて入る風は冷房に比べて素肌に優しく、初夏にしては暑い日差しに温められた空気を、爽やかに涼ませてくれていた。
 「はぁ~ここが、東京のド真ん中、高層ビルの屋上とかちょっと信じられないわぁ」
 幾何学模様に描かれた枯山水の砂の流れは、人の一生を表現したものであるとか。
 堅苦しいあれこれはともかくとして、ただ眺めているだけで、そこにあるだけで素直に美しいと思える。
 「あんたの場合、花より団子じゃない?なんか飲んだら?けっこういい日本酒が揃ってるよ、ここ」
 クスリと笑って差し出されたお品書きを押しやって、断る。
 「車だもの」
 「俺が運転するからいいよ」
 「……まだ死にたくないし」
 「え~」
 類のブーイングなど丸無視だ。
 …まったくなんでもできるくせに、どうして車の運転だけはダメなんだか。そのわりには下手の横好きっていうか、毎度のことながら懲りないのよね。
 この場合、類がなのか、つくしがなのか迷うところだが。
 さすがにこの1年で、類は運転をさせてはいけない人種なのだということが、つくしにも身に染みている。
 また、そうしたことは別にして、
 「だいたい真昼間からそんなに飲めないわよ。このあとの予定もあるんだから、こんなところで酔っぱらいの介抱とか、あんただってしたくないでしょ?」
 「ん、もうそれは懲りた」
 まるでいつもそうさせているかのような口ぶりの類の返事に、ムッと口を尖らせ、つくしが箸の握り手を変え突き刺すフリで振り被る。
 「どうどう!降参。そんなの振り回さないでよ」
 「馬じゃないわよ!つーか、あんたが失礼なこと言うからでしょっ!?」
 「さっきのお返し」
 「もうっ」
 ぶうっと頬を膨らめ、だが、怒っているフリもそう長くは続かず、すぐに顔を見合わせて、二人クスクスと笑い合う。
 「ホント、いつも意地悪なんだから」
 「ぷっ、自分だってかなりズケズケ言うくせに」
 今度はつくしの方が、お品書きを類へと差し出す。
 「類が飲んだら?」
 「俺もいいよ」
 「別にいいのに」
 「一人で飲んでも美味しくないよ」
 たしかに彼は毎日晩酌するタイプでもないし、一人で飲むこともほとんどなかった。
 「あ、これ美味しい。きっと日本酒と食べたら合うよ」
 「え~?どれどれ、あ、ホントだ。美味しいぃ!今度は夜に来ようよ!」
 「じゃあ、今晩の夕飯もここにする?」
 「はは…いや、さすがにそれはちょっと。それに今夜は別荘に一泊で、こっちには戻らないつもりなんでしょ?」
 「そうだけど、そんなのどうとでもなるよ」
 久々の類の休日、たまにはデートがてら外泊をしようかということで、二人で信州にある花沢家所有の別荘に向かっていた。
 途中、美味しい日本料理を食べようと立ち寄ったホテルレストランでの懐石ランチ。
 片手を頬に添えて、ホクホク顔で料理を頬張るつくしを類が優しい眼差しで見守っている。
 「………ジッと見ないでよ」
 「なんで?」
 「照れるのよ」
 照れるまいと堪えても、どうしても火照ってしまう顔を持て余して、照れ隠しにギロッと類を睨む。
 「マナー違反でしょ?…って、ほら、あんたはそればっか食べてないで、こっちも食べる!」
 あえて避けていた小鉢を押しやられて、仕方なく口にして苦笑している。
 「美味しい?」
 「…ん、まあ」
 微妙な返答に、やはりお好みではなかったらしいことを知るが、彼は基本こんなものだ。
 好き嫌いが激しいだけあって、類はこれといって喜んでものを食べるということがめったになかった。
 「まったく、人生半分損してるっていうか。以前はそれでもちゃんと偏食しないで、なんでも食べれてたんでしょ?」
 「一口は食べたよ」
 「はぁ~」
 たしかに無理強いしても仕方がないと、つくしも諦める。
 …まあ、本人の言うとおり、一応はいつも一通りは口をつけるものね。
 なんとはなしに、料理を持て余してる風な類を眺める。
 「えっとさ、もしかして、私、口うるさ過ぎるかな?」
 類は子供ではないのだ。
 性分からついつい世話を焼いてお節介をしてしまうのだが、つくしにしてみても、うるさがられないのを良いことに、ずいぶん調子に乗ってしまっている気がしないでもない。
 「ん~?静かだとは言わないけど」
 「…………ぶぅ」
 「ふふ、膨れないでよ。本当のことじゃん?」
 「本当のことですけどぉ」
 「でも、俺、牧野にそういうふうに、あれこれ構われるの嫌いじゃないし」
 嫌いじゃない。
 さすがにウェルカムというわけでもないようだが。
 …えっと、結局、うるさくして欲しいわけじゃないけど、許容範囲ってこと?それとも、今のままでいいって言いたいのかな?
 あいかわらず掴みどころのない類の返事に、軽く悩まされる。
 「はい、じゃ、これとこれ、あとは牧野にあげる」
 「え~、そりゃ、私は美味しかったけどさぁ。そんなに食べたら、このあとまた食べるのに食べられなくなっちゃうじゃない。やっぱりお昼は抜いた方が良かったかな……いやいや」
 ブツブツと一人言を言っては、悩んでいるつくしを楽しそうに類が見やって、
 「別腹でしょ?デザートはさ。いつもなんだかんだ言って食べられてるんだから、平気じゃない?」
 「まあ。じゃ、こっちは類が食べてよ。これはけっこう好きだよね?」
 「ん、どれ?ああ、うん、それならもらう」
 どうやら偏食王にもお気に召した一品があったようだ。
 「うう、こんなに食べたら太っちゃいそう~」
 「大丈夫、大丈夫」
 「無責任なこと言うな。ただでさえ学生時代と違って動く機会がないんだから、油断したらヤバイのよ」
 ボヤいてはいるものの、ちゃっかり譲られた小鉢に舌鼓を打っているつくしの顔は、ニンマリ満面の笑顔だ。
 しかし、さっきから感じる視線に困って、上目遣いで類を窺う。
 「また、私の顔をジッと見てる。もしかして、私のこと子供っぽいとか思ってる?」
 「ん?いや。ただ本当に美味そうに食べてるなぁって見てるだけ」
 「………だって、美味しいもの」
 ジャンクなものやチープなものでも美味しいと感じられるが、それでもやっぱりこうしたご馳走を食べられれば、それはそれで美味しいと素直に感嘆した。
 …全然、グルメじゃないんだけどね。
 たしかに自分でもいい年をした大人の女が、いくら美味しくても、食べ物でハシャギすぎている自覚くらいある。
 「だから悪い意味じゃないって」
 「そうお?」
 「うん」
 大真面目に頷かれ、そこまで言われてこだわるほどのことでもないかと諦める。
 …食べずらいけどね。
 「そういえば司もよくそうやって、私が食べてるのジロジロ見てたかなぁ」
 ただ司の場合は、つくしに惚れていた。
 何度か同じように言い咎めるたびに、
 『お前が食べてるとこ、すげぇ可愛いからさ』
 そんな言葉が返ってきたものだ。
 惚れて惚れて惚れて…と、彼女自身も疑う余地もないほどに愛情表現をしてくれる男だったから、彼が自分を見ていた理由を素直に信じられた。
 …あいつの目には膜がかかってたわよね、絶対。
 「ああ。司と俺が同じ理由であんたを見てるかどうかは、俺は司じゃないからわからないけど。でも、そうやって美味そうに食べてるのを見て、不快に思う人間はいないんじゃないかな」
 つくしには口に出していたつもりはなかったので、類から返ってきた返事にギョッと驚いた。
 目を瞬かせてキョトンとしているつくしの様子がおかしいのか、類が口元を綻ばせる。
 柔らかな笑みが目にも眩しく、美しい。
 類は本当に美しい男だった。
 夢の世界の王子様のようだと彼女が憧れていた頃よりも、なおいっそうの輝きと力強さを持って、ーーーよけいにそう感じいらされる。
 「俺なんかはあんまり食そのものに興味がないから、食欲自体もわかないことも珍しくないけど…でも、牧野と食べてると食事が美味しいよ」
 「ええ〜、ホントぉ?」
 思いっきり疑わしげなつくしの物言いがまたおかしいと、類が笑う。
 「ホントだよ。以前の俺が、ほとんど栄養補助食品で栄養補給のほとんどを賄ってたの知ってるでしょ?」
 「あ~、そういえば、そうだっけ」
 食べることが大好きなつくしからしてみれば、信じられない話だが。
 「あんたと一緒にいると、いろんなことを感じられる」
 「たとえば?」
 少しづつではあっても、つくしに促されるままに食事に口をつける類の行為は、言葉のとおりだと証明しているようで、またそうして彼女に世話を焼かれお節介をされることを、イヤだとは思わず受け入れていることを態度で表してくれているように思えた。
 「食事を美味いと感じること。景色を見て綺麗だと感じること。風や日の光が気持ちがいい。誰かと一緒に過ごすことが楽しい、温かい…そんなこと全部かな」



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