「愛してる、そばにいて」
第7章 光と影③

愛してる、そばにいて534

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 軽く睨めつける滋の表情は傍から見れば、仲睦まじい婚約者に甘えているように見えたかもしれない。
 当の司の冷ややかな眼差しを除けば、その場に立つ二人は、まさに世間の噂通り、誰もが認めるベストカップルだっただろう。
 片や誰もが羨む財力と地位、美貌を持つ男。
 そして、女の方もまたその男に劣らぬ出自と後見、美貌を持つ女なのだから。
 しかし、当の司ばかりではなく、滋の目もまた、熱愛中の恋人に向けるものにしては甘さを含まず、どこか呆れを浮かべていた。
 ―――もうっ、いつまでもボケってるのよ。あんたそんなんで大丈夫なの?
 彼女の心の声が聞こえてくるようだと、司が皮肉に自嘲する。
 そんな笑みでも、相対する夫人方にしてみればごく珍しいものだっただろう。
 司のビジネススマイルは、礼節を損ないはしなかったが、どこまでも感情を窺わせず、冷たくまるで機械仕掛けの人形のようだったから、それに比べれば滋といる時の彼はまだしも人間味があり、彼らの結婚を、世間ではあくまでも政略上のものだけだと捉える者たちの他にも、実は意表を突いた恋愛結婚なのではないか、と憶測する者たちもいたくらいだ。
 …ふっ、ありえねぇ。
 司にしてみれば片腹痛い話ではある。
 しかし、その噂は特にデメリットのあるものではなかったから、噂は噂のままに、否定することなく放置している。 
 ひとしきり社交雀たちのくだらない雑談に付き合い、‘結婚’による二大財閥の結びつきを強調するという目的を果たして、二人は帰路についた。
 司が滋をリムジンへとエスコートして、ともに車に乗り込んで人目が切れた頃合ーーーバタンと閉まったドアと共に車が発進したのとほとんど同時、司が貼り付けていた笑みを顔から消し去り、秘書にあらかじめ用意させておいたアタッシュケースへと手を伸ばす。
 「…ね、いったいあんた、どうしちゃったの?」
 いつもだったら車の端と端、それぞれに思い思いの時間を過ごすというのに、滋が怪訝な顔で司へと話しかけてきた。
 チラッと視線だけを流して、だが特に彼女に向き合うことはせずに、司は引き寄せたアタッシュケースから必要な書類を取り出す。
 「こっちに来てから…違うか、NYを発った日くらいからだから、もう一週間近く?あんたなんだか様子がおかしくない?」
 滋にはなんとなく感づかれている気はしていた。
 当初、司は滋に対してかなり誤解していた部分がある。
 ざっくばらんで大らかといえば聞こえはいいが、正直、他人の心の機微に疎い、ガサツで図々しい女だという認識しかなかった。
 しかし、意外なことに彼女はけっして鈍感なわけでも、感受性が鈍いわけでもなかった。
 賑やかで陽気な外面とは真逆に、細やかな観察眼と繊細な心根がある。
 その繊細さは気遣い、あるいは優しさと変換できただろうが、司はまるで彼女に関心がなかったから、それはどうもいい。
 ただ、
 …誤算だったか。
 時に滋の司への関心や気遣いが煩わしく、苛立たしく感じることがある。
 かといって、鈍さ故に司の意図を汲めず彼の足手纏いになる女であれば、それはそれで厄介な話だ。
 偽装結婚の相手としては、滋は悪くない選択だったかもしれない。
 だが、司はこれまでどおり、仕事は支障なくこなしていたし、滋との同伴でも特にヘマをしたつもりはなかったから、詮索されることがあろうとは思ってもいなかったのだ。
 自分の内心を探られ、屈託を他人に悟られていたことが、司は不愉快だった。
 「なにか、トラブル?」
 「いや、お前との結婚はウチの連中はもちろんのこと、お前のところにとってもビジネスのビックチャンスだ。内心はどうあれ、どこからも正面切って楯突きようもねぇからな。今のところは特に表立ってこれといった問題は起こっていない」
 それがたとえ、これまで滋の女婿という立場を狙い、凌ぎを削り相争いあっていた輩であろうとも。
 「…そういうんじゃなくて」
 なおもどこか遠慮がちに司の顔色を伺ってくる滋の質問の意図がわからないではなかったが、それ以上の問答の必要性をもはや司は感じていなかった。
 そして、そんな彼の拒絶も感じ取ったのだろう。
 はぁ~とため息を一つつき、滋もいつものように、司とは反対側へと体の向きを変え、西田がつけた彼女の秘書が用意しておいたアタッシュケースから、書類を取り出し眺め出す。
 「……うぅ、マジでこれ全部、目を通せって?仕事人間の道明寺家の人間と一緒にしないでよねぇ、もぉ~」
 ボヤく滋の声もやがては脳裏から排除して、司は目の前の仕事に集中しようと書類へと向き直った。
 だが、集中しようと思えば思うほど、気が付けば意識はつい5日前の出来事へと飛んでしまう。
 さすがに会議中や重要書類の決済などの時には、それでもなんとか意識の片隅へと追いやることに成功していた…しかし。
 …あれは。
 あれはたしかに、つくしだった。
 空港のコンコースを歩いている時に感じた不思議な感覚と視線に、周囲を見回さずにはいられなかった。
 意識していたわけではない。
 いや、していたのかもしれない。
 そこに彼女がいて、彼が気づかずにいられるはずもなかったから。
 3Fのバルコニーの向こうに彼女を見つけた瞬間の衝撃。
 ドックン。
 心臓がここのところ立てたことのないような音をたて、血が湧き踊り肉が躍って、歓喜に、冷たく凝おっていた全身に温もりが通い出した。
 互いの顔さえも判別つきがたい距離だったというのに、どうして自分はその女を彼女だと確信したのか。
 …それでも、俺があいつを見間違えるはずがない。
 自分が彼女を忘れられるはずがないことなどとっくの昔から承知していたというのに、それでもそれほどまでに、自分が彼女をいまだに想っていたのかと、おかしく思い苦笑せずにはいられなかった。
 遠目でしかとは見えない彼女の表情の中に、自分への某かの感情を探して、
 ―――つくし。
心が、…魂が呼びかけていた。



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NoTitle

うわあ!!!
これからの盛り上がりが期待大ですね。

類との甘いラブラブ生活から、つくしがこれからどんな風にまた成長して、第二いや第三、第四の人生を歩んでいくのか、今まさにまた岐路にたったわけですね!

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