「愛してる、そばにいて」
第7章 光と影③

愛してる、そばにいて532

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 言わないつもりだった。
 もちろん隠すつもりだったわけでもない。
 けれど、あえて司に出会ったことを、類にわざわざ言わなければならない必要性を見出していなかっただけ。
 それなのに、なぜ今、そんなことを自分は言いだしたのか。
 「司に?」
 「…うん」
 「そっか。今の時期、ちょうど海外とこっちを行ったり来たりしてるから、とてもじゃないけど俺と会う時間を作ることさえできないとか言ってたけど、…凄いタイミングだったな」
 「そうなんだ」
 類が、NYを訪れる直前に、司と連絡をとっていたことはつくしも知っていた。
 彼は司とのことに限らず、つくしに何か隠し事をしようとはしない。
 もちろん会社の重要なことなど、秘密事項をおいそれと言い回るような男ではなかったし、そうしたことは、つくしの前どころか社外に出て話すようなマネをするはずもなかった。
 司とどんな会話をしたのか、あるいは彼と会って何を話すつもりだったのか、そしてまた、類が司との会談を望んでいるのなら、いったいそれはどうしてなのかなど、つくしにしてみても気にならないわけがない。
 しかし、類と司、彼らはもともと幼馴染みの親友なのだ。
 彼女のことがなくても、ただ近場まで来たから会おう、交流を持とうとしても別段おかしなことではない。
 「司はともかく、まさか戒までNYにいないとは思わなかったけど」
 「うん」
 「会いたかったでしょ?」
 「…会えないよ」
 あるいは、類が間に立ってくれれば、たとえ母親だと名乗れないにしても、もしかしたら顔を見ることくらいは許されたかもしれなかったけれど。
 「会えない?どうして?」
 「だって、司も許さないだろうし、新しいお母さんも出来るんだから、…戒にとっても迷惑なことだよ」
 「そうかな」
 「そうだよ」
 つくしの返事に小さく仕方なさそうに吐息をつく類にしても、事情は察してくれているだろう。
 同じ様な家に生まれた類の立場も、司や戒と似たようなものなのだ。
 時には人としての情愛よりも、優先されるべきものがある―――彼らのような生まれの人間には。
 「あんがい…」
 「え?」
 「あんたが思うほど、難しいものじゃないと思うけどね」
 「……………」
 「でも、あんた自身の両親のことと同じように、あんたがどうしたいか、ただそれだけだと思うよ?」
 未だ自身の両親との問題も、つくしは解決できていない。
 完全に両親を見限ることもできないくせに、かといって、彼らが求めている和解にも、つくしは応じることができていなかった。
 そんな彼女に、以前、類は言ってくれた。
 『会いたいなら会えばいい。そうしてみて、イヤならまた会うのをやめればいい』
 そんな言葉で。
 他人ゆえのお気楽な物言いだと言ってしまうこともできた。
 しかし、結局は類の言うそれこそが真理で、むやみやたらに思い悩むだけではきっと何も解決しない。
 …わかってはいるんだけどね。
 「いつか……」
 「うん?」
 「いつか、戒が大人になって」
 「……うん」
 「私に会ってもいい、私の顔を見てみたい、ってそう思ってくれたなら、……その時には会いたい。たとえ許してくれなくても、あの子を置いてきてしまったことを謝りたい」
 大切な息子を忘れてしまったことを、忘れてもなお、誰よりも愛しい大切な我が子なのだと、言い切って諦めないでいてあげられなかったことを。
 実際には、つくしが司と離婚して戒を一人育てることなど難しかっただろう。
 楓に言われなくても、たとえ司が許してくれたとしても、今の彼女ならばそれがよくわかる。
 もし、戒が誘拐されてしまったら?
 あるいは、陽太のように重篤な病に倒れてしまったとしたら。
 そうでなくても、道明寺家と同じ水準で彼を育てることが、つくしにできただろうか。
 お金や環境よりも大切なものがある、そう言ってしまうことは簡単だったけれど、現実の中では愛情だけではどうにもできないことはたくさんあることなのだ。
 かつて、司が言っていた。 
 戒の傍にいてやりたかったのならば、つくしは司を我慢するべきだった、たとえどんなことがあったにせよ、すべてを飲み込んで戒のためだけに生きるべきだったのだと。
 そして、彼女はそれができなかった。
 戒のためには、自分の人生をすべて諦めることができなかったのだ。
 司への憎しみと、道明寺家の重すぎる軛に耐えることができなかった。 
 …過去は振り返らない。
 どんなに後悔したとしても、過去はけっして戻っては来ないものなのだから、そんな不毛はしないと自分に誓っていた。
 そしてまた、彼女はけっして後悔することなどできはしないのだ。
 きっと何度あの時に戻ったとしても、彼女はあのまま、何もなかったフリで、‘道明寺つくし’のまま人生を続けることなどできなかったのだから。
 司を愛していた。
 けれど、憎んでいた彼女もまた彼女。
 ただ一つ悔いることがあるとすれば、最後まで一緒にいてくれと懇願していた戒を納得させてやれなかったことだけ。
 一緒にいてあげることはできないけれど、それでも戒を愛してる、何があってもどこにいても、彼を永遠に大切に思っているということをちゃんと伝えてあげられなかったから。
 いつか伝えることが叶うだろうか。
 「…なんか話した?司と」
 類の問い掛けに、つくしが緩く首を横に振る。
 「ううん、会った…って言っても、コンコースを歩いてるあいつを階上から見かけただけだから」
 「そっか」
 「…うん」
 それでもおそらく司は彼女に気がついていた。
 つくしが彼に気がついたように。
 「綺麗な女の人と一緒だったかな」
 つくしの呟きに、類が黙ってつくしの顔を見る。
 「たぶん腕を組んで歩いてたみたいだから、あの人が今度再婚するって人だよね」
 「かな」
 「…………」
 沈黙が流れる。 
 「…イヤ?」
 「え?」
 類の言葉に目を瞬かせて、つくしが首を傾げた。
 「司が再婚すること」
 そんなことを聞いてくる類に、つくしがフッと笑う。
 意外だったから?
 いや、そうではなかった。
 「私がイヤがったってどうしようもないことでしょ?第一、そんなこと思う筋合いでもないよ、もう、ね」
 我ながら自嘲に満ちた複雑な笑みだっただろうけれど。
 「…戻りたい?」
 「どこへ?」
 「司の…ところへ」
 珍しく類が食い下がってくる。
 わずかに眉根を寄せ、それでも少しだけ真剣に考えて、やはりつくしは首を横に振った。
 「思わないよ。たとえ思ったとしても、仕方がないことだし、時は戻せない」
 「そうだね」
 そして、戻ったとしても、どうしようもないことなのだと先ほど思ったばかりだ。
 後悔をしないと誓ったのならば、前を向いて歩いてゆくしかない。
 どんなに苦しくても…寂しくても。
 「ごめん、…ただそれだけ。妙なところで妙な人に会っちゃったからさ」
 自分でも、類に司と会った…ただ行き違っただけのことを伝えて、何を言いたいのか分からなくなって、自分から持ち出した話題だというのに、強引に終わらせてしまう。
 「そろそろ……」
 今度こそ、行こうか、と口にしかけて、類に先を越されてしまう。
 「それなら、俺と結婚しない?」


 
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