「愛してる、そばにいて」
第7章 光と影②

愛してる、そばにいて508

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 「はっ、何を言い出すかと思えば、冗談はよせよ」
 乾いた笑いを洩らす司とは真逆に、椿の声音は真剣だった。
 『…冗談じゃないわ。私は本気よ。あんたや戒はどう思ってるかは知らないけどね。お母様があの子の実の祖母であることは紛れもない事実だし、他人になんて呼ばれているにしろ、本当に鉄で出来ているわけではないわ』
 「……………」
 かつてその母親によって、煮え湯を飲まされた姉が言うセリフ。
 いかにもお人好しな姉の言いそうなことではあるが、たとえ鉄でできていないにしろ、母親がまともな血の通った温かみのある人間ではないことは、司が誰よりもよくわかっている。
 …同じように生まれて、育ったっていうのにな。
 姉の健全さや優しさは、この道明寺家にあって、ある意味異端だった。
 むしろ、楓や司、その父の冷徹さ、冷酷さこそこの家に生まれた者、この家に嫁して一族そのものになった者のデフォルトだと言える。
 『たしかにこれまでの経緯を考えれば、あんたに抵抗感があることはわかる。でも、道明寺家としての後継の問題もあるでしょ?あの子の後継者としての立場を確固とするという意味でも、お母様…ひいてはお父様と和解する事は意味のないことじゃないんじゃないの?』
 ―――後継問題。
 現在、司の道明寺家次期総帥としての立場はほぼ確定だった。
 元々、道明寺一族本家の唯一の嫡男である彼が、後継者として立つのは当たり前のことだったが、その資質を疑われたのもいまや遠い過去のこと。
 父が病に伏して以来、財閥の実権を握っていた母をも凌ぐ地位と権力を、彼が手にしようとしている今、その彼をして押しのける力を持つ者は、一族内外に誰一人としていない。
 それでもその彼の一人息子である戒の地位は、いまだ不安定で、確固たるものではなかった。
 一つには、司の両親に認められていないということもあったが、現在はそれだけではなく、司自身が選ぼうとしている‘結婚’もそのことに関わっている。
 『それともまさかあんた、あの子を押しのけて、滋さんとの子を次の後継者に据えようとか思ってるわけ?』
 そんな言葉が、彼をよく知る姉の口から飛び出したことに、逆に驚かされてしまう。
 「まさか」 
 『……あんたも滋さんもまだまだ若いわ。戒が望まないっていうのなら、そういうのもありだとは思うけど、そうじゃないのにあの子を押しのけてしまうのは、私は賛成できない』
 かつて司が危惧したことと同じことを、椿も心配していた。
 道明寺家の後継者であることがすべてではないだろう。
 他の誰がそう思わなくても、その道明寺家の柵に囚われ、思うように生きることが許されなかった姉弟だからこそ、誰よりもそう思うのだ。
 「俺も、戒がイヤだというものを、無理やり押し付けるつもりはねぇが、かといって戒の意志を蔑ろにする気はカケラともない。あいつが道明寺を継ぐつもりなら、全力でバックアップする。ま、今時一族経営なんて、時代錯誤もいいところだとは思うけどな。…とはいえ、それを今の段階、あいつがまだガキの時分に判断しろっていうのも無茶な話だろ?」
 『そうね。…あんたと滋さんの子供っていうのもまあ、先走りすぎだとは私もわかってるわ』
 姉の穿ちすぎな心配を鼻で嗤う。
 司にとって、先走りも何も、この先もありえない心配をされることが片腹痛く、しかしいくら実の姉だとは言え、そんなごくプライベートなことを一々暴露するつもりにもなれなくて、口を噤む。
 『とにかく先のことはともかくとして、お父様たちにとって、戒が唯一本家筋の孫であることには違いないのよ。お父様たちからはけっして歩み寄ることはできないでしょう。だからこそ、あんたにそこのところを考えて欲しいのよ、戒のためにも』
 「ふん」
 いくら姉の言うことでも、聞けることと聞けないことがある。
 たしかにつくしと別れたことを母親のせいにするほど愚かではなかったが、それでもかつてつくしに対してなされた仕打ちや、大切な妻子を無視され続けたことを許す気持ちにはなれなかった。
 『…仕方ないわね。進路やこの先のことについて、あんたがどう考えているのか、私からあの子に話してみましょうか?」
 「俺から話す」
 『そう?』
 おそらく椿から遠まわしに伝えてもらった方が、まだ話の通りがいいとはわかっていた。
 司が相手では、最悪反発心から自暴自棄になってしまうこともありえる。
 それでも、司が戒の親なのだ。
 まずは司から伝えること。
 それが大事だという認識が彼にはあった。
 親に勝手に決められてしまうこと同じように、親の役割を他人に丸投げされることは、その存在を無視されること同意なのだ。
 そしてそれがどれだけ辛く悔しいことなのか、司自身が一番かつての経験からよくわかっている。
 「いや、あるいは、姉ちゃんに間に立ってもらうこともあるかもしれねぇ」
 『……………』
 「その時はよろしく頼む」
 殊勝な弟のセリフに言葉を詰まらせ、だが椿が明るく請け負う。
 『わかったわ。あんたからそんなふうに言われたら調子が狂っちゃう!明日は雪が降るんじゃないかしらねっ』
 「…そっちじゃ、雪なんて降らねぇだろ」
 怪訝に聞き返す司は大真面目で、そんな弟の相変わらずの言葉の弱さに椿が苦笑する。
 『あんた、そんなんでよくこのビジネス界でやっていけてるわよね。…まあ、いいわ。馬鹿な子ほど可愛いって、昔から言うものね』




******




 「……ふぅ」
 ひとしきり姉と電話で雑談を交わし合い、久方ぶりに片意地を張らない気安い時間を過ごした。
 今や、幼馴染みたちとも滅多に顔を会わせることのない彼にとっては、本当に希少な存在。
 かつてはつくしがいてくれた。
 そして、戒が。
 魑魅魍魎渦巻く場所でどれだけ消耗させられても、家族がいてくれればそれだけで、彼の心は浄化され、疲労など感じることもなかったのだ。
 ドッと押し寄せた疲労に、目頭を押さえ軽く揉み込む。
 寝酒に選んだウィスキーは、過労に疲弊した肉体にはキツすぎたのか、緩やかな眠りに誘ってくれるどころか、悪酔いの酩酊を呼び込んでしまっているようだ。
 あるいは、ひび割れ、今にも粉々に砕け散ってしまいそうな危うい均衡に軋んでいる、最愛の息子との関係の悪化が胸に堪えているのかもしれなかった。
 …報いだ。
 空耳が聞こえる。
 その声は、つくしの声のようでいて、結局は自分自身の心の声なのだと、彼自身もわかっていた。
 ブブブブブブブブッ、
 ビクッ!
 突然、テーブルの上で震えたスマートフォンのバイブの音に、司が肩を揺らした。
 「ふぅ………」 
 再び息をつき、携帯電話を手に画面を確認する。
 「っ!」
 ―――類。
 それは数年ぶりの、親友からの着信だった。



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