「愛してる、そばにいて」
第7章 光と影①

愛してる、そばにいて494

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 「滋様におかれましては、本日、美作様の別荘を発たれて、夕刻にはこちらに到着されるご予定です」
 「ふぅん?さすがにダダは捏ねなかったようだな。娘の方は、もう寄宿舎の方に戻ってんだろ?」
 「はい。滋様はスイスまでお送りされたいと、かなり粘られたようですが」
 「ふっ、やっぱりか」
 すでに滋とは1年以上の付き合いだ。
 司にしても、それなりに彼女の性格は把握している。
 それでも最後まで滋が自分の意思を通そうと粘らなかったのは、それなりに司の言うことに理を認めているからだろう。
 愛しているわけではない。
 もちろん、恋するはずもない。
 しかし、しばしの間、不毛な利害関係を結ぶパートナーとしては、滋は存外悪くはない相手なのかもしれなかった。
 彼女にはたびたびベッドを共にしないかと冗談交じりに誘われてはいるが、それもほとんどが上位に立っている司に対する嫌がらせで、彼女が今も亡き夫に心を残していることはわかっていたから、他人の心の機微など頓着しない司にしてみても、ある意味、滋は気楽な相手だ。
 司は、他人の愛憎になど、今更関わり合うなど真っ平御免だった。




*****




 トン、トン、トン、トン…。
 執務机に肘杖をつき、指先で机を叩く。
 パソコン画面に広がっている部下からの報告書は、そちらへと顔を向けているだけで目に入っていない。
 待ち人を待つ束の間の時間潰し。
 常には分刻みのスケジュールに追われ、ほとんど24時間フル活動をし続けている彼の思考は、今、珍しいことに何も考えてはいなかった。
 しかし、
 トゥルルルルル――、トゥルルルルル――
 突然鳴り出した固定電話の音に、意識を急浮上させる。
 いつの間にか時間はとうに夕刻を過ぎていたようで、窓から入る西日が呼び出し音を鳴らし続けている机上の電話を茜色に染めていた。
 …もう、こんな時間か。
 ガチャッ。
 「……俺だ」
 電話の相手は当然待ち人などではなく、玄関の鍵番を勤めている当直のメイドで、家人の帰宅を伝える連絡だった。
 もちろん、いつもは多忙な彼に一々そんなことを報告してきはしない。
 だが、今回に限って報告が来たのは、司がそう指示していたからだ。
 けれど告げられた名前は期待した相手ではなく、
 「滋?…戒はどうした?まだ戻ってねぇのか?」
 彼が問わずとも、戒が帰宅すれば報告するようにと命じていたのだから、帰宅していればそう言っているはずだ。
 わかっていても、問わずにはいられなかった。
 「ああ、いい。こっちはこっちで忙しいから、わざわざ挨拶になんかくんなと滋には言っておけ。あ?…どうせ、夕食ん時に会うだろ?報告なんぞそん時で十分だ。はあっ!?電話なんて代んなっ!!」
 強引に電話を取り上げようと小競り合いをしているらしい向こう側の気配に、司がさっさと受話器を置いてしまう。
 『つか…』
 ガッチャン、プツッ。
 賑やかな声の残響に司は顔を顰め、一度置いた受話器を再度取り上げた。
 トゥルルルルル――、トゥルルルルル――、トゥルルルルル――、トゥルルルルル――、トゥルルルルル――、トゥルルルルル――、トゥルルルルル――。
 何度コールをしても一向に出る気配がない。
 わかっていたことだから落胆することもなければ、心配することもないが、それでも怒りを覚えずにはいられないのは当然のことで、司の顔が不機嫌に歪む。
 一度電話を切り、再度。
 トゥルルルルル――、
 『はい、レイヴンスです』
 今度はワンコールで繋がった。
 「戒のヤツ、そこにいんだろ?俺の執務室まで引き摺ってでも連れて来い。いつまでも逃げ回ってんじゃねぇぞ、お前がその気なら、その気になるまで屋敷から一切出さないとそう伝えろよ」




*****




 「そこに座れ」
 SPにほとんど連行されるカタチで訪れた父の執務室。
 ほとんど一ヶ月ぶりに顔を合わせた父の顔は不機嫌に歪んでいた。
 鋭い眼光に怒りを湛えて、冷たく戒を見据える父の表情の酷薄さに戒は息を飲んだ。
 街中の不良少年たちに凄まれた時も、学校内のイジメっ子集団のボスに吊るし上げられかけた時にも、恐れるどころか逆に怖気付かせた彼だったが、ただ静かに自分を見据える父親の眼光と威圧感が怖かった。
 戒は自分では気が付いていなかったが、そうしている父の顔は、他者を威圧する時の戒の顔にそっくりだ。
 いや、戒の方が父に似ているのだろう。
 その恐怖に、戒の体が小刻みに震え出す。
 しかし、そんな自分の怯懦を叱咤して、必死でその怯えを父に悟られまいと傲然と顔を上げる。
 もちろん、そんな虚勢などこの目の前の父親には悟られてしまっているだろうが、そうしていることが、彼のせめてものプライドだったから。
 命令通りに、父の座している執務机の前座に設置された応接セットのソファへと戒が腰を下ろすのとほとんど同時に、彼をここまで連れてきたSPたちが司の無言の人払いを受け、執務室のドアを閉めた。
 キィ~、バッタン。
 それだけで、戒はまるで室内の空気が薄くなったような錯覚と閉塞感に息苦しさを覚え、何度となく唾を飲み込み喉を喘がせる。
 視線を受け止めきれず俯く戒の向かい側に、司が腰を下ろして、その気配に戒の肩がビクリと揺れた。
 「フゥ………、戒、顔を上げろ」
 大きなため息と共に、多少は怒りが収まったらしく怒気の緩んだ父の声音に命じられ、戒がおそるおそる顔を上げる。
 睨み据えられるか、あるいはその絶対零度の眼差しに切り捨てられるか。
 しかし、戦々恐々としていた戒の予想に反して、司はもはや怒りをその顔に浮かべてはいなかった。
 再三の呼び出しにも応じず、電話を無視し続けた彼に対して、先程までの怒りを忘れたかのように、司は柔らかく慈愛に満ちた眼差しで彼を見つめていた。
 「久しぶりだな、戒」
 「………父さん」
 だからだろう。
 そんなここ久しく呼ぶことのなかった呼び名で、父を呼んでしまったのは。
 そして、そのことに父も気がついたのだろう、なおいっそう愛しげに戒へと話しかけた。
 「少し見ない間に、またちょっとデカくなったんじゃねぇか?」



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>kachi様

おはようございます。
うは。

若奥様×
滋様◯

でした。
昨日チェックした時に修正したところでしたヽ( ̄д ̄;)ノ
私が執筆してる時点がだいぶ先なのでミスったようです。
修正いたしました。

ご指摘ありがとうございました。

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