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「愛してる、そばにいて」
第7章 光と影①

愛してる、そばにいて493

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 「…はい」
 目を伏せるのみで、かつてその重役たちとのパイプ役も勤めていたこともある西田の表情にはまったく変化がない。
 …大したもんだな。
 「以後の追及に関しては?」
 「諸悪の根源のババアが、そうした連中を道連れに引くつーんだから、そこはそれでまあ当面はいいだろ」
 「私的にはいささか意外に感じでおります」
 西田の言葉に、司の片眉が器用に上がり、皮肉な笑みを浮かべた。
 「ババア…前社長なら、一族郎党根絶やしにするまで追及の手を緩めねぇてか?」
 無言での一礼が声なき同意だ。
 正直、司にしてみても母親の経営手法にはかなりの利を認めていて、いっそそうしてやりたい気持ちもある。
 「いらぬヤブをつついて、窮鼠猫を噛むってこともないわけじゃねぇし、正義がどうのと何が何でも明るみにださなきゃいらんねぇってほど、俺も熱血漢じゃねぇよ」
 この場合‘熱血漢’は‘愚か者’に変換できるだろうか。
 企業論理は正義だけでは成り立つものではなく、いらぬ義憤はその本体である会社そのものの危機を招きかねない。
 そしてもちろん楓にしても、そうした綺麗事からの動機付けではないだろうが、災いの根は小さなうちに、叩く時には徹底的に完膚なきまでに叩き潰してきたーーーそれが彼女のやり方であり、結果楓はこれまで道明寺財閥における独占的な権限を保持してきたのだ。
 その点司は、彼のその性質に反して、母親である楓よりその経営的手法は甘く、良心的な穏健派であると世間では言われていた。
 しかし、実際の彼はむしろ楓よりもリアリストであり、遥かにシビアな実利主義者のように西田には思われる。
 おそらくカリスマ性とリーダーシップでいえば、その母にも勝るとも劣ることなく、独裁的な支配力で他者を惹きつけ導いて行くタイプの経営者。
 …総帥の血か。
 なのに、鉄の女とは真逆の道をゆこうとする彼の信念とは、いったい何なのだろう。
 「理事会の方は?」
 「楓会長ご自身が司社長に賛同されているのです。いまさら、否やもないでしょう」
 「…ふん。俺の資質を疑って、オヤジに直談判してた連中が手のひらを返してってか」
 日和見主義の連中を、司は鼻で笑う。
 むしろ最後まで司に抵抗して、ほとんどすべてを失った副社長の方がいっそ清々しい。
 そして、そうしたあからさまな敵対者よりも、日和見な人間こそ厄介な敵で、一見中立に見える彼らは、いつでもどんな時でも利を見て、誰にでも乗り換え、あっさりと裏切るから油断することができなかった。
 全員を一度に切り捨てることなどできない。
 だから、よけいな禍根を残すことになるとわかっていて、なお獅子身中の虫を飼い続けていなければばらないのだ。
 獅子身中の虫といえば、
 「俺を傀儡に押し上げて、ババアを排除しようとした連中もいたな」
 彼らはかつてーーーつくしとのことで傀儡と目した司に利用されるだけ利用され、結局踏み台にされただけでその司にしてやられることになったことがある。
 当時のことをいまだ怨恨として残していたが、表面上は司に従う意志を表明していた。
 彼らは今のところ司の敵ではない。
 しかし、敵ではないことは、イコール味方ではないのだ。
 「煮え湯を飲まされた奴らこそ、俺がコケるのを虎視眈々と狙ってんだろうが、…お前はどうだ?」
 組んだ両手に乗せた頭だけを横向け、黙して控えている西田へと流した視線で斜めに見た司の目は、笑い含んだ口調とは裏腹に、決して笑ってもいなければ楽しげなものでもなかった。
 怜悧な眼差しは油断なく爛々と光っていて、西田の一挙一動から彼の裏切りの兆しを読み取ろうとしているようにも、西田には感じられた。
 だが、そんなことでたじろいだり、動揺する西田でもない。
 長年あの鉄の女の右腕として、働いてきた男なのだ。
 「どう、とはいったいどう言う意味でしょう?」
 「お前は果たして俺の味方か?」
 それとも結局は、いまだ楓のスパイに過ぎないのか。
 「……私は、この道明寺HDに生涯を捧げております」
 「ふぅん?」
 「社長が最高経営責任者(※CEO)として、この道明寺HDを率いられている限りは、あなたに誠心誠意仕え続けさせて頂く所存です」
 「…ふっ」
 ‘道明寺HDを率いられている限り’、ある意味あまりに正直な返答に、司がわずかに表情を緩める。
 むしろ司自身に永遠の忠誠を誓うなどと阿る人間よりもよほど好ましい。
 だからかもしれない。
 かつて楓の懐刀と言われ、実際にそのとおりであり、当初司に西田がつけられたのも彼女の手足としてだろうに、司がいまだに西田をすぐそば近くに仕えさせ続けているのは。
 …こいつは使えるヤツだしな。
 「ま、お前もたいがい年寄りだからな。万が一、引退を考える時には、キチッと後任を教育してからにしておけよ」
 「肝に銘じて励ませていただきます」
 すでに何十人もの優秀な秘書が西田の薫陶を得て、道明寺HDを…ひいては司を支えている。
 かつて神崎遥香も僅かな間とは言え、この西田の薫陶を直接受けていた秘書の一人で、司にとっての一個人としてはともかく、秘書としては極めて優秀な人間だった。
 「理事会の連中の動きは引き続き監視させておけ」
 「かしこまりました」
 「ババアがどうであれ、轡を緩めればそれぞれでまたぞろ暗躍し出すことは間違いねぇし、とにかく結束だけはさせるわけにはいかねぇからな」
 「はい」
 「で?話は変わるが、大河原の方はどうなってる?」
 次々に司と西田の間で報告と質疑応答がなされ、互いに手元のタブレットを繰り、資料を閲覧しながら目まぐるしく決断と指示が行われてゆく。
 「じいさん、持ち直したか。が、やっぱ病床でいつまでも総帥の椅子を温め続けるっつーのもキツイ話だわな。あそこのオヤジもツメが甘いぜ。娘に跡を継がせる気がないならないなりに、さっさと優秀な社員でもなんでも抜擢して、後継者を決めておけばよかったものを」
 司はあっさりそう言うが、かつては司自身もボンクラ御曹司と言われながら、それでも後継者の地位を追われることはなかったのだ。 
 世襲がまかり通っている企業で、血縁者がいながら丸っきり赤の他人に経営権を渡すのは容易なことではなかった。
 ましてや一代で成り上がった新興企業であるというのならともかくとして、大河原家もまた道明寺と同様何世代にも渡って繁栄してきた一族であり、当然それだけに支える親族の力も無視し得ないものなのだ。
 「中途半端にソコソコできる奴らが親族にいたのが裏目だったな。日本に引きこもっていられれば、さすがに暗殺だなんだとそうそう物騒なことを派手にできるはずもねぇが、大河原もメインが石油関連事業だけあって、中々そうもいかねぇだろうしよ」
 「ええ」
 「さすがの俺も、外様の状態からいきなり口を出すわけにもいかねぇ。…まどろっこしいのが面倒で、つい一挙両得を狙っちまったが、やっぱ功を焦りすぎたか」
 控えめに相槌を打つだけで、求められなければ西田は特に同意も反対もしない。
 それは当然のことで、西田はあくまでも司の秘書であり、相談役ではないのだから。
 ただ彼の手足となり、その意志のとおり物事が進むように調整するのが西田の仕事であり、彼は決してその職分を超えることがなかったからこそ、楓やひいては司に重宝されていることを重々承知していた。
 分を超えてしまった結果が、神崎遥香であり…そして、この目の前の男なのだ。
 「滋は?」



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