「愛してる、そばにいて」
第7章 光と影①

愛してる、そばにいて482

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 「……い、か…?戒?」
 呼びかける声にハッと顔をあげれば、いつの間にかこんがらがっていたリードを見事に解し、三匹の犬を整列して従わせることができたジーナが不思議そうな顔で、彼の顔を覗き込んでいた。
 いつの間にか、戒は両手を膝の上で組んで俯いてしまっていたらしい。
 ポタリポタリと額に浮いた冷や汗が、冬枯れた公園の芝に濃い沁みを作っていた。
 「なに?こんな寒い日にこんなところで蹲ってて汗かいてるわけ?まさか、熱でもあるんじゃないの?」
 心配そうに額に触れて来ようとする手を軽く遮って、ベンチから立ち上がる。
 「平気、熱なんてないよ。最初から暑いって言ったろ?」
 「…そうだけど」
 ジーナも彼の痩せ我慢を察していたに違いなかったから、思いっきり怪訝そうだった。
 「それより、凄いじゃん。今日はちゃんと自分で言うこと聞かせられたんだ?」
 あえて問いかけられるのを嫌い話を反らす戒に付き合って、ジーナもそれ以上は突っ込んでは聞かない。
 「…そうよ。これでもペットシッターは12才の時からやってるんですからね」
 「そのわりには、毎度毎度犬たちに振り回されてるみたいだけど?」
 「うぅ、そ、それはね、馴染んでくれるまでが中々大変なのよ」
 ジーナの子供っぽい言い訳にクスリと笑ってしまう。
 「犬はさ、けっこうバカにするから、どっちが上か最初にビシッとやってやらなきゃダメなんだよ」
 「わかってるけどさぁ」
 ボヤいて犬たちを振り返るその青い目には、彼らへの好意と愛しさが溢れている。
 「犬欲しい?」
 「そりゃあ、欲しいけど。……ペット可のマンションになんか引っ越さないわよ?」
 先回りされてしまい、ちぇ~っと笑う戒の顔はそれでも明るい。
 どのみち、戒がどんな提案をしたところで、彼女は受け入れるわけがないのだ。
 …誰とも違う。
 彼におもねり、彼から何かを搾取しよう、あるいは陥れようと虎視眈々と彼の一挙一動を値踏みしている連中とは。
 「でも、戒も犬や猫をペットで飼ったことないんでしょ?」
 「まあ、ペットはね」
 幼い頃、飼いたがった彼の希望は父によって却下された。
 わりになんでも買い与えて、司は甘すぎるくらいに甘すぎる父親だったが、どうしてか小動物よりも大型の生き物を飼うことは許してくれなかったのだ。
 …犬猫、嫌いだもんな。
 どうしてかもなにも、ただ単純に父親がイヤだっただけなのだろうと思い直す。
 司の周囲には常に美しく完璧なものしかない…戒の存在以外には。
 そんな父親が、愛らしさだけのものではない動物を忌避するのもわからないわけではなかった。
 動物は糞もすれば、病気にもなる。
 そして、時には人の意のままにならないこともあるだろう。
 高慢なあの男にとって、意のままにならないものほど厭わしいものはないに違いない。
 「…うちには警備犬がいるし、専属のトレーナーも置いてるから」
 「ああ、なるほど……あれ?」
 ふいにジーナが何かに気が付いたようにキョロキョロと周囲を見回し始めた。
 「なんか救急車のサイレンの音が聞こえない?」
 ジーナに指摘されたとたん、気が付いていなかった戒も救急車の独特なサイレンの音に気が付く。
 「…別に救急車なんて、このNYじゃ珍しくもなんともないだろ?」
 「それはそうだけど。なんか去年、ちょっとした事故を見ちゃってから、妙にあの音が耳につくのよね」
 はぁ~と溜息をつくジーナから犬のリードを受け取り、今度は戒がお手本とばかりに、犬たちを整然と並ばせ散歩させる。
 「さすが」
 感嘆の声を上げるジーナと並んで歩きながら、二人帰路へつく。
 「でね、救急車」
 「うん?」
 「酔っ払いがね、うちのアパートの階段のところで肩がブツかったの、ブツからないのと言い争いになったらしいの」
 「ああ」
 戒にしてみれば、ごみカス同士のつまらない小競り合いレベルの話だ。
 大して興味があるわけではなかったが、おしゃべりなジーナがあれこれと思いつくままに、明るい声で話すのを聞くのが好きだったから黙って拝聴する。
 「で、お決まりのどつき合いになって、一人が階段から落っこちちゃったのよ」
 「酔っ払いって、その時ジーナは?」
 「あたしは基本、深夜は何があっても外に出ないことにしてるし、あんたがウチに泊まりに来るようになる前は、一人の時はヘッドホンして音楽聞きながら寝るのが日課だったから」
 「…なるほど」
 ニューヨーカーがトラブルに極力関わろうとしないのは一つの生活の知恵で、当然の行為。
 銃声や悲鳴が聞こえたら、急いで家の窓を閉め、戸締りをするというのはあまりにも有名な話だ。
 妙な親切心を発揮しようとして、自身も犯罪に巻き込まれるのではあまりにバカバカしいことだと身に染みて知っている。
 「あたしがその事件を知ったのは次の日だったけど、もうそりゃあ凄い血糊が階段の床にべっとりでね」
 「へぇ?」
 おぞけを奮ったように首を竦めているが、ジーナは一般的イタリア人たちと同様陽気で快活で、おしゃべりが大好きだから、ほとんど「へぇ」と、「ふぅん」と戒が相槌を打つだけで、一人で楽しそうに次から次に話題を展開してゆく。
 「でも、やっぱり頭を打ったりとかすると怖いわよね。後日、その人のこと見かけたけど、なんかちょっとボウッとしてるっていうか、外傷的には大したことなさそうだったけど、どこか人格変わってたみたいよ?」
 「…ふぅん?人格変わったってどんな風に?」
 「けっこうキレやすくなっちゃったみたい。以前はそうでもなかったらしいのにね。下の階のヴィタなんかが怖がってたわ」
 「そいつ大丈夫?」
 そんな危険人物が同じアパートに住んでいるとなれば由々しき事態だ。
 戒が泊まっている時にはSPたちも常駐しているから、いざとなれば助けになる。
 しかし、そうでない時にはジーナの細腕で、因縁をつけられでもしたら抗いようもないだろう。
 …あとはジュリオが来ていれば大丈夫だろうけど。
 大人並みの体格を持つ、彼女の弟を思い起こす。
 「それは大丈夫。その事件から一か月もしないうちに引っ越したから、その人。なんかね、ところどころ記憶が飛んじゃったところがあるらしくって、記憶喪失?一人で生活するのは不安だとか言って、田舎の親がその息子から連絡を受けて迎えにきたらしいんだよね」
 「…記憶喪失?」
 「そ、知らない?映画とかドラマとかであるじゃない?頭を打って怪我をしたり、心の病気のせいで、昔のこととかを忘れちゃう症状らしいんだけどね。その人の場合、怪我をする直前までの1年ほどの記憶がまるっと飛んじゃってて、後はちょこちょこ?そのせいで自分のしていた仕事や友達…恋人のことまで思い出せなくなっちゃってたんですって。ひどい話よね」



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