「愛してる、そばにいて」
第6章 始まりの刻橋③

愛してる、そばにいて0444

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 「え?」
 眠ってしまったのかと思っていた類が、目を瞑ったまま、片腕で顔を隠すようにしてポツリポツリと話し出した。
 「カエルの大将だっけ?」
 「………ああ」
 一瞬、いったい彼が何を言いだしたのかと考えて、だが探った記憶は案外にすぐ引き出されてつくしはホロ苦く笑う。
 あれは、当時彼女の友人だった少女が司の勘気に触れるようなことをしてしまい、庇った彼女を嘲る彼に向かって嘯いた言葉だった。
 その時の出来事こそが、すべての始まり。
 わかっていなかったのは、むしろ自分の方だったのだと思う。
 …正しいことだけがすべてじゃなかった。
 けれど、間違っていることは間違っている。
 それを黙って堪えることなど、自分にはとてもできなかったのだ。
 もちろんそんな自分の浅はかさと、愚かな正義感を後悔した時もある。
 それでも…。
 「えらそーに練り歩いているけど、結局は父親の庇護されてのことじゃないか。自分で金も稼いだことないくせに、偉そうなこと言うな」
 「そんな感じだったかな」
 井の中の蛙だったのは、彼女も同様だった。
 互いに自分の知る世界だけがすべてだと勘違いしていた子供だったのだと、今なら理解できる。
 「静に会いに行ったくせに、顔も見ないで逃げたって話しただろ?」
 「…うん」
 当時、静は、大統領候補だった男性に求婚されていて、そうでなくても自身の将来に向けて邁進していた彼女に類が引け目を感じてしまい、告白も求愛もすることなく引いてしまったのだったか。
 「トスカーナに引きこもって鬱々としてさ。我ながら情けないことに、ガキの頃の行動そのまんま。…小学生かって自分でも思ったよ」
 腕を目の上からどけた類の顔は、意外にもそれほど苦しそうなものではなかった。
 しかし、その目に浮かぶ孤独と悲哀の影は隠しようもなく、誰もが彼に対して思い描く順風満帆な人生を送ってはこなかっただと語っていた。
 それでも、
 …綺麗。
 ビー玉のように綺麗だと、かつて少女の日に抱いた感嘆のままに、彼の目はどこまでも透明で美しかった。
 「花沢類」
 「ふ、…その呼び名、あんた時々今もするね」
 無意識だった。
 「あ…、ご、ごめん、変だよね」
 「いいよ、俺、けっこうあんたにそう呼ばれるの嫌いじゃなかったし」
 どう返事を返せばいいのかわからず、言葉を選ぶつくしから視線を反らせ、類が上半身を起き上がらせた。
 そして、彼女を見ることなく、サラリと口にする。
 「俺さ、不倫してたんだ」
 「!?」
 「静と…軽蔑する?」
 チラリとつくしを振り返った横顔が、揶揄るようにわずかに口角を上げた。
 ―――不倫。
 たしかにつくしの中では、そうした恋愛はけっして褒められたものではないという認識があったし、自分自身に置き換えて考えることすら難しいくらいに隔たりがある。
 しかし、学生時代の類の切ないまでの静への恋慕を知っていた。
 今の彼女にとって、ことの善悪は曖昧で、何が許されて許さないことなのかさえわからなくなってしまっているというのに、判じて誰かを断罪することなどできるはずもない。 だから、
 「あたしには、とてもあんたを軽蔑することなんてできやしない」
 「………」
 「それができるのは、何一つ間違ったことをしたことがない人間だけだよ」
 …あたしだって、罪を犯した。
 罪だってわかっていて、それでも犯さずにはいられなかったのだ。
 つくしにだってわかっている。
 たとえどんな理由があったにしても、彼女が司に対して犯した仕打ちは―――罪だったのだと。
 誰に言い訳することができたとしても、自分にだけは言い訳することはできないのだから。
 そしてまた、過去、自らの弱さに負け結果的に死を選んでしまったこともまた‘罪’だった。
 彼女の罪ゆえに、自分ではない一つの小さな生命を摘み取ってしまった。
 自ら進んで罪を犯すことがなくとも、弱さは罪であり、人は弱さゆえに簡単に罪を犯してしまう。
 「…4、5年くらいになるのかな。静と別れてから」
 総二郎からも聞いていた話だったが、それくらいというと、ちょうどつくしが司と別れた頃、あるいは隼斗との第二の人生に踏み出した頃合か。
 …あの頃に。
 「ふ、…そっか、もうそんなに経ってるのか。一昔前のことだね」
 「………」
 「イギリスの大学を出てそのまま院に進んで、しばらくそれからの進退に迷ってた時期だったかな。一度は思い切って家に入ったんだけどさ、大学の恩師からもあらためて研究室に戻らないかと誘われててね。…自分の中でも区切りをつけたつもりではいたんだけど」
 生まれながら架せられた生まれた家への責任と、自らが進みたいと望む道。
 当時を思い出しているのだろう。
 色素の薄い類の目は、どこか遠く、何かを透かし見ているかのようだ。
 目の前の池を見ているようなのに、―――見てはいなかった。
 「フランスにいた静とは、ずっと没交渉状態だった。でも…忘れられなかった」
 「………類」
 「そんな時に、大学時代の友人が特許権の問題で訴訟に巻き込まれてね。その友人を担当して、救った弁護士としての静と再会したんだ」
 「そう」
 たしか、静は貧しい人たちを守る国選弁護士になりたいと家を出たのだったか。
 類自身も語っていたが、彼の出身校…イギリスの最高学府にはさまざまな階級の俊英たちが集まっている。
 その中でも静が担当した類の友人は、きっと貧しい部類の友人だったのだろう。
 「もう思い切ったつもりだった。静が結婚したことも知ってたから。あいつは俺のことを弟みたいに思ってる、いつまでも大切な人だと言ってたけど、そんなのまやかしだ。静は俺の気持ちを知っていて、気紛れに情けのおこぼれを寄越して、俺を振り回してただけのズルい女だった。そんなことはとっくにわかってたのに、それでも…それでも、会ってしまえば、そんなあいつの手を振り払うことなんて、とても俺にはできなかったんだ」
 だから、会うことを避けていたというのか。
 震える手を額に当てて、呻くような類の声は悲痛だった。
 もう何年も前のことだと言いながらも、今もなお傷ついて、生々しい血を垂れ流しているのも顕な声音。
 …この人は。
 類は今も静を忘れられないのだ。
 たとえそれが高校時代のような純粋な思慕ではなかったとしても。
 彼の寝室の本に挟み込まれていた一枚の写真が、つくしの脳裏に蘇った。
 声音の悲痛さとは裏腹に、類は淡々と語り続ける。
 「あの頃の静は子宮筋腫のこともあって、子供が出来にくいってことを悩んでた。たぶん弁護士としての激務のせいもあったんだろうな。旦那とすれ違って参ってたよ」
 「……静さんが」
 あの静が、と思えば、意外でしかないが、たとえどんなに完璧に見える人間であっても、誰にでも悩みはあり苦しみがある―――心の闇もまた同様に。
 そして、間違っているとわかっていても、踏み込まずにはいられない道もある。
 「付き合い始めたのが8年前かそこらへんだから…4年間くらいの付き合いだったかな。そんな関係がズルズルと続いて…ある日、静に言われたんだ」
 「……………」
 「……………」
 「…………?」
 それっきり黙り込んでしまった類に、彼ではなく彼と同じくただ前を向いていたつくしが、怪訝に類を振り返る。
 そんな彼女の視線を感じたのか、フーッと息をつき、思い決めたように類が切った言葉を再開した。
 「子供が…子供ができたって」




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