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「愛してる、そばにいて」
第6章 始まりの刻橋②

愛してる、そばにいて0440

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 「逆に、再会したあんたは、5年前に俺と会ったことを憶えてなくて、過去のあんたを取り戻していた。そうだよね?」
 「………ええ」
 真っ直ぐに見つめてくる類の目から視線をわずかに落とし、つくしは手元のサンドイッチをなんとはなしに見る。
 「今のあんたは誰?」 
 「え?」
 「…こうして相対してるあんたは、たしかに5年前にいた司の奥さんとは違うように思える。でも、高校の時の…どこかオドオドして、それでも俺らに真っ直ぐに挑んできた妙な女の子とも違うように思えるんだ」
 「……………」
 「そして、それをあんた自身がどう認識してるのかな」
 つくしが司の妻時代の彼女とは違う、それは当たり前のことだ。
 しかし同時に、高校時代の自分ともまた違うのだということを自覚していた彼女だったが、それをあらためて他人に指摘されたのは初めてのことだった。
 だが…、
 「誰だって言われても……」
 それをこそ聞きたいのは彼女の方だった。 
 毎夜のごとく見る夢に侵食されて、いつかは今とはまるで違う自分になってしまうのではないか、ここのいる自分は最初から夢幻であったというように消え失せてしまうのではないか。
 そんな漠然とした不安と恐怖をどう言い表せばいいというのだろうか。
 …誰にもあたしの気持ちはわからない。
 「…それなら、あんたは誰なの?」
 十数年前とはまるで違う人間のようにさえ思える、この目の前の男は?
 「俺?」
 つくしの問いかけに、類は面食らうこともなく、彼の言葉は確信に満ちていた。
 「俺はオレだよ。今、ここいる、あんたが見ている俺。それ以外の何者でもない。そうじゃない人間なんているのかな。…あんたは自分が何者であるかということに、ずいぶん迷ってるみたいだけどね」
 まるで禅問答のような応答に、つくしは継ぐべき言葉も反論も見つからず、ただ黙り込む。
 ―――自分は自分。それ以外の何者でもない。
 わかるようでいて、難しいその言葉の意味がボンヤリとわかるような気もしたが、やはりその真意を解することは今の彼女には難しかった。




*****




 そろそろ梅雨の季節も間近という6月も間近の頃。
 まだ肌寒い日もあるが、東京にしても珍しいくらいのピーカン照りで、今日はかなり暑くなりそうだ。
 日が昇り出したこの時間帯、マンションを出た時には涼しかったからと選んだ薄手の長袖でも、もうすでにじんわりと汗が滲み出している。
 隣を歩く男の方はまるで体温すらなさそうな陶磁器製のビクストールのごとき外見同様、暑さ寒さを大して感じないのか、つくしと似たような服装にも関わらず、暑さなどまるで感じていないようだ。
 「もう少し歩けば、この辺はわりに緑も多いし木陰も多いから、かなり涼しくなると思うよ?」
 まるでつくしの心を読んだかのような、ドンピシャな言葉かけに、毎度のことながら驚かされる。
 それともいつの間にかいつものように、思っていることを口に出してしまっていたのだろうか。
 「そんな風に、手扇で仰ぎながらジト目で見られてたら、口に出してなくたって十分言いたいことくらい伝わるよ」 
 「…だったら、なんでこんなところを散歩なのよ。いくらあたしがどこでもいいって言ったにしても、フツーないでしょ。ハァ」
 ここは世田谷の高級住宅街の一角。
 街…というには家屋はまばらで、たまにあったと思えば、庶民からすると同じ日本の…しかも東京都内のド真ん中にある家屋敷だとはとても信じられない豪邸ばかり。
 この場所がこの界隈でも特に別格なのだとはいえ、鬱蒼と茂った木々の向こうがどこぞの森林公園などではなく、個人の邸宅であるなど知らなかったら誰も思いつきもしないだろう。
 「ん~、今日みたいな行楽日よりの週末なんかだと、どこもかしこも混んでそうだったからさ。ここなら空いてるだろな~って、なんとなく?」
 「なんとなく…」
 …マジ、ありえない。
 バスを降りて、歩くこと15分ほどか。
 憶えていないようでやはり記憶にはしっかりと残っているようで、歩みを進める度にドキドキと動悸が大きくなり始め、つくしの足取りは重くゆっくりとなっていた。
 類の方はそんな彼女の屈託には気づいていないのか、それともわかっていても頓着するつもりがないのか、遅れがちな彼女を急かすでもなく、かといって立ち止まって待つでもなく、ドンドン先を進んで行ってしまう。
 「何も歩いて行かなくても、お屋敷に電話すればお迎えしてくれるんじゃないの?」
 …あるいはタクシーに乗るとか。
 てっきり類の実家に帰るものと独り合点していたつくしを、類の一言が仰天させた。
 「え?何言ってんの?俺んちってこの辺じゃないよ?」
 「はあ!?」
 「まあ、学生時代は散歩がてらこの辺を歩いたこともなくはないけど、普通に帰るつもりならけっこう遠大な遠回りになるかな」
 「なによ、それ!?」
 …なに言ってんのよっ、このがきゃあ!
 さすがに少女時代のような悪態を類相手に付きはしなかったが、目を見開き内心で思いっきり罵る。
 「じゃあ、それこそなんでこんな関係ないところを、モノ好きにも延々と歩かないといけないのよっ!散歩したいなら、マンションのすぐ傍の公園でも好きなだけ歩きなさいよ!?実家だってどうせ公園張りの馬鹿でかいお屋敷なんだろうから、そっちに行けばいいでしょっ!?」
 剣幕激しいつくしの顔を、例のキョロンとした無邪気―――この年頃の男をそう形容するのもなんなのだが―――な顔で見つめ、首を傾げた類が平然と宣わった。
 「あ、ほら、そこ。もう司んとこの屋敷の敷地だよ?」




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