「愛してる、そばにいて」
第6章 始まりの刻橋②

愛してる、そばにいて0437

 ←愛してる、そばにいて0436 →愛してる、そばにいて0438
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 『か~い~、どこぉ~?』
 夢だと、自覚して見る夢がある。
 樹木と樹木の間、ひょっこりと顔を出した自分自身の姿に、つくしはすぐにそれがいつも見る過去の夢だと気がついた。
 …ああ、またいつものアレだ。
 そう思った途端、すぅ~っと第三者視点的に見ていた自分の中の自身に意識がスイッチして、周辺の景色が切り替わる。
 そしてそれがいつ頃の…どの場面の記憶であるかがわかった。
 『もうっ!どんだけ広いのよ!!やたらめったら広いお屋敷なんだから、いくら自分のうちのお庭からって、お母さんの姿が見えないところに隠れたらダメだって言っておいたのに』
 それは司の東欧勤務時代のこと。
 おそらくスイス勤務とフランス勤務の合間、転々と転勤を繰り返し、ドサ回りさせられていた頃ではないだろうか。
 …ギリシャだったかな。
 司の財閥内での地位が自身の実力で認められてゆくのと比例するように、彼の身辺や境遇もかつての威勢を再び纏うようになっていた。
 つくしとの結婚で、一度は見せしめの如く処された、彼の出生に見合わぬ冷遇から抜け出し始めた頃でもある。
 当然、住まいもそれに合わせて広く大きく、豪奢なものに。
 …私的には、庶民的な小さな家の方がしっくりきてたんだけどね。
 どこにいても家族全員がどこにいるかわかるような小さな家を、実際には司がどう思っていたかはつくしも知らない。
 しかし、それでも概ね彼も満足していたように思う。
 実家では両親や姉とも別棟に暮らしていた司が、以後、再びどれだけ広大な屋敷を構えるようになっても、妻のつくしや戒を常に身近から離さなかったのがその証拠だろう。
 …あいつ、見た目によらず凄い淋しがり屋だものね。
 数日の出張でさえ、彼女がいないと眠れないくらいなのだ。
 自分がもしいなくなってしまったら、彼はいったいどうなってしまうのか。
 呆れる気持ちと切なく心配する気持ち、そして…女としての密やかな悦びとが綯交ぜになった、複雑な想いをいつも抱かされたものだ。
 ガサガサッと木々の合間で何かが動く気配に、つくしが足早に駆け寄る。
 『こらっ、戒!』
 『…シッ』
 覗き込んだ木陰の向こう、草原に眠り込んでいる戒の傍らにしゃがみこんでいた司が振り返って、人差し指を唇にあて彼女の叱咤の声を制止した。
 『司?』 
 『寝ちまったみたいだな』
 優しい父親の慈愛に満ちた横顔。
 眠り込んでいる戒の首の下と膝裏に腕を差し込んで、起こさないようにと、司が戒をそっと抱き起こして立ち上がる。
 背の高い夫の腕に抱かれた、彼そっくりな可愛い息子の寝顔を覗き込んで、つくしも幸せに満ちた微笑みを浮かべた。
 『起きていると小悪魔のくせに、ホント可愛い寝顔しちゃって』
 『……こいつこの間、前の日に庭でとってきたとかいうバッタ?大量に厨房に持ち込んで、メイドたちに派手に悲鳴あげさせてたぞ』
 『ええっ?!それ、私、聞いてないんですけど?』
 つくしは聞いていないその被害にギョッと司の顔を見上げれば、彼の顔はその内容とは裏腹に愉快そうに破顔していた。
 『たまたま俺が通りかかって、こいつのことは捕獲しといたから、特に料理番の連中もお前にはご注進しなかったんだろ?おかげでその日は、ブレックファーストがおじゃんになって外食したな』
 そういえばかなり以前のことだが、久しぶりの司の休みに家族でのんびりしようと、つくしが料理をするのではなく、珍しくシェフの料理を家族全員で堪能する予定だったのに、急遽外食をすることになった日があったと思い当たる。
 『…ちょっとぉ、ちゃんと怒ったんでしょうね?』
 『なんでだよ?戒にとっては、懐いてる料理番の連中にも戦利品を見せようと勢い込んだ結果のちょっとした事故ってやつだっただけだろ?』
 その返事だけで、つくしにも司の対応が容易に察せられた。
 『本当にもうっ!』
 つくしが今さら戒を叱るには時間が経ちすぎていたし、司はこういうことに関しては暖簾に腕押しだ。
 『好きにやらせてやれ。人間として間違ったことをしなければ、それでいいんだろ?』
 『そりゃそうだけど、迷惑をかけたことには違いないじゃない?』
 『そこは、こいつもヤバいと思ったらしくてな。ちゃんと後で謝ったって聞いてるから安心しろよ』
 戒からつくしへと視線を移した司が優しく微笑む。
 『お前の子だからな』
 ―――お前の子だから、本当に間違ったことはしない。
 たとえ間違ってしまったとしても、自ら悔いて謝ることを知っているから安心しろと、司の目が言っていた。
 『ごめんな』
 それなのに哀しそうな顔をした司が、唐突にポツンと呟いた言葉に、キョトンとしてしまう。
 『なによ?突然に』
 『いや、俺はこんな男だからな』
 だから、なんだというのだと怪訝に見つめるつくしに、司はただ首を振るだけで…。
 『んん~』
 『あっ』
 寝込んでいた戒が呻いて身じろいだ拍子に、彼の握り締めていた手のひらの中から、ヒラリと何かが舞い落ちる。
 『ちょっと待って、司!今、何か落ちたから』
 慌てて足元を見回すが、それらしいものが見当たらない。
 『え~、何を落としたんだろ』
 しょせん幼児の持ち物なのだから貴重品のわけはないが、それでも戒にとって大切な物だったら、目を覚ました時が大変だ。
 『ね、司』 
 つくしが振り返る。
 しかし、戒を抱いた司は背を向けたまま、つくしを置いてドンドン先へと進んで行ってしまう。
 『司?』
 それが妙に心細くて、寂しくて、悲しくて、彼を呼び止めずにいられなかった。
 『司!戒ッ!!待って、司ぁッ!!』
 司は立ち止まってくれない。
 すぐに二人を追いかけたくても、つくしの足はなぜか地面に縫い止められでもしたかのように、一歩もその場から動くことができないでいるというのに。
 『ほれ、そんなもん放っておいて、お前もさっさと来いよ』
 振り返らないままに司はそんなことを言うのみで、いつものように彼女を待っていてくれることもなく、今まさにどこか、暗く澱んだ木々の影の向こうへと姿を消そうとしていた。
 『司っ、つかさああああ、つかさあああああ―――ッ!!!!!』
 …どこにも行かないでよ!私を―――あたしを一人残して行ってしまわないで。




web拍手 by FC2

関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【愛してる、そばにいて0436】へ
  • 【愛してる、そばにいて0438】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【愛してる、そばにいて0436】へ
  • 【愛してる、そばにいて0438】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク

┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘
女性に大人気!ビジネスから恋愛相談まで全部500円~!  
価格満足度97%、日本最大級のココナラに今すぐ登録!!

┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘