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「愛してる、そばにいて」
第6章 始まりの刻橋②

愛してる、そばにいて0436

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 …まずった、失敗したな。
 「…あのさ、西門さん。運転手さんとの間のパーティション、下げてもらってもいいかな?」
 思い余って願い出たつくしの申し入れに、和気藹々というほどではないが、ゆったりと雑談をしていた総二郎が怪訝そうに首を傾げた。
 「は?なんでだよ」
 「…なんでって」 
 じんわりと手のひらを濡らす不快な汗を、握り締めたハンカチに吸わせながら、なんと答えたものかと言葉に詰まってしばし悩む。
 …こんなことなら車で来ていれば良かった。
 あるいは送迎してもらう約束だとでも、ウソをつくべきだったと、つくしは後悔していた。
 強引さに負けてつい車に乗ってしまったが、最初からそうしていれば、さすがに総二郎にしても引き下がっただろう。
 もっとも送迎を頼むなり、自家用車を利用していれば、そもそも総二郎に出くわすこと自体なかったのだろうが。
 「別にこんなところで話してマズイことなんか話さねぇけどよ?運転手との間を間仕切ってた方が、気兼ねなく話せるだろ?」
 「…まあ」
 それはそうかもしれないのだが、先程から感じる息苦しさや動悸に苛まれ、正直、今すぐにでもつくしは車から飛び降りたいくらいだった。
 …西門さんが何をするってわけでもないのに。
 もちろん、自分でもこの焦燥感の原因などわかりすぎるほどわかっている。
 道明寺邸から解き放たれて、しばらくして現れたPTSDの症状の一つ。
 車のような狭い空間の密室に、男性と二人っきりという状況が怖くて仕方がないのだ。
 司の場合は彼自体が脅威の元凶だったのだから別として、総二郎のところにお茶を習いに行っていた時は桜子なり、西門家の弟子が常に同伴していた。
 今にして思えば、そうしたことは、親友の妻とはいえ道明寺家の若妻と同年代の異性である若宗匠との間に、妙な醜聞をたたせない為の気遣いだったのだろう。
 また、前の職場に勤めていた時は、患者に閉塞感を与えないことをコンセプトに開放的に作られていた職場だった。
 その為、ある程度プライバシーは重視されていたが、完全密室ではなく、相談室は隣室の受付と続きになっていたから、たとえ患者といえど長時間男性と二人っきりになるということがほとんどなかったのだ。
 その前の職場も似たような状況だった。
 そして、そこには就職時にある程度、つくしが自身の事情を話してあったということも、大きかったのかもしれない。
 …もしかしたら、そこらへんも道明寺の手が回っていたのかもしれない、か。
 隼斗に関しては男として認識する以前に、まず陽太の父親だという意識が先行したからだろうか。
 結婚前はもちろんのこと、結婚生活に入ってからも夫婦の間には常に陽太が間にいて、思えば結婚後かなり経つまでほとんど二人っきりという状況がなかったのだ。
 そしてそのうちに、家族としての彼の立ち位置が定着して、馴染んだ隼斗を彼女が恐怖に感じることはなかった。
 それでもせめて新婚初夜くらいは…と、挑んだ二人っきりの空間が、ひどくぎこちなく気まずいものだったのを覚えている。
 隼斗としてはそんな彼女の態度と緊張を、奥ゆかしいと感じたようだが、実際のつくしは自身の内面との戦いで精一杯だった。
 今思えば、その初夜での我慢と忍耐が、むしろ逆に夫である彼への不信と嫌悪感に繋がったような気がする。
 たぶん、隼斗のせいではなかった。
 つくしのせいでもなかったけれど。
 彼は十分につくしを気遣ってくれたし、優しく抱いてくれたと当時でさえわかっていた。
 しかしそれでも、最初の失敗が後に響いて、それが夫とのセックスを、苦痛に満ちたものにしてしまった一因だったのかもしれない。
 …ちゃんと話すべきだった。
 たとえ後に、彼の欺瞞に気づいて、結局は離婚する結果になったのだとしても。
 あの時、彼女は正直に自分のことを話すべきだったのだ。
 男性が怖いこと。
 セックスに抵抗があることを。
 それでもし、隼斗との関係が壊れてしまったとしても、後々の互いの為にそうするべきだったのだと今ではつくしにもわかっていた。
 ―――君も俺を信じてくれていなかったじゃないか。
 ある意味、彼の叫びはつくしの真実をついていたのだ。
 「お、ついたぞ」
 類の高級マンションの広大なエントランス前に車がゆっくりと停車する。
 …助かった。
 ある程度、総二郎もつくしの事情を知っているらしいとはいえ、誰でも彼でも自分のごくプライベートなことを話したいはずもない。
 「今日はありがとうございました」
 「ああ。また時間があったら一緒しようぜ」
 「はは…西門さんの場合、一緒したい女の人で行列できてそうだから、割り込むのもね」
 「遠慮すんな、昔馴染みの好だ。特別に特等席を開けておいてやる」
 どんな冗談だと、つくしは笑って肩を竦め、総二郎の申し出をあっさりと一蹴してしまう。
 「それこそ遠慮します。勘違いされて刺されたくないので」 
 「ふ、口が減らねぇな。昔も生意気なヤツだったけど、なにげにグレードアップしてんじゃん。…じゃあな」
 片手を上げ挨拶を残して、総二郎の乗り込んだ車が走り去ってゆく。
 その車を見送って、ため息一つ。
 「はぁ」
 いつのまにか肩に力が入っていたらしい。
 「なんかそういえば、いつのまにかタメ口聞いちゃってたな。……ま、いっかぁ」
 総二郎自体が馴れ馴れしいのだ。
 彼の性格もあって、気が付けばまるで旧友ででもあるかのように、ポンポンと言い合ってしまっていた。
 概ね総二郎との食事は楽しかった。
 さすがに女に慣れた男だ。
 話上手で、洒脱な会話は途切れることがなく、美味しい食事と魅惑的な美男、それで楽しくない女がいたらウソだ。
 「それでも、やっぱり緊張はするわよね」
 たとえ男性恐怖症ではなくても、総二郎のような男と二人っきりで緊張せずにいられる女などいるものだろうか。
 それを言えば、司や類も同様なのだろうが、不思議に知り合ったばかりの頃を除けば、類と一緒にいて気詰まりを感じたことなどなかったことに気がつく。
 客観的には社交的な総二郎などより、よほど類の方が気詰まりな男のはずだというのに。
 それに…、
 「そういえば、類の場合出ないな」
 同じ空間どころか、今やしょっちゅう同じベッドで添い寝状態で目覚めることも珍しくない状態なのだ。
 もちろん寝る時から同衾したことなど一度もないが、それにしてもなぜか類には不思議にそうした生臭さを感じることがない。
 ―――欲望。
 類だとて男性である以上、そうした欲望がないはずがないというのに。
 …付き合ってた女性もいるって言ってたしね。
 静との間にももちろんそうした関係があっただろう。
 『5年…もう4年くらい前か、あいつ静と不倫していたらしい』
 総二郎の言葉が耳に蘇って、胸がモヤモヤといやな気持ちに疼く。
 「…あたしには関係ない」
 ただの使用人なのだ。
 そして、類はただの雇い主。
 この友人のような、変則的な家族のような感情故の嫉妬心なのか。
 あるいは、初恋の…ヒーローのように思っていた少女時代の想いの残滓故なのかもしれなかった。
 それが嫉妬だと…つくしも自覚していた。




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