「愛してる、そばにいて」
第6章 始まりの刻橋②

愛してる、そばにいて0430

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 ―――馬鹿ねぇ。なんでも出来るくせに、どうしてあんたってそういうところだけそんなに不器用なの?
 急速に浮上する意識の端で、‘彼女’のそんな言葉にふっと笑う。
 呆れたような彼女のボヤキに対するおかしさでもあったし、自分でも本当にそうだと同意する気持ちからでもある。
 …目覚めたくなかったな。
 いい夢を見た時には特にそう思う。
 倒れない程度、限界まで体を酷使し、泥のような眠りについた時にも願う感慨だったが、それでもこうして‘彼女’を夢見てしまえば、なおさらのことにそう思う。
 鳴り出す前に、セットしてあった携帯の目覚ましを止めて、司は髪をかきあげながら気合一つでベッドから降りた。
 時刻は6時少し手前。
 昨夜の酒が多少残っているが、おそらく体に残る慢性的な倦怠感はそれが原因ではないだろう。
 …また近いうちに医者に診させるか。
 決定的に体が蝕まれる前に、ある程度は自己管理しないわけにはいかないのだから。
 命終えるまで…それこそ長生きしたいものでもないが、寿命が尽きるまではとりあえず走り続けなければならない身の上だ。
 ざっとシャワーを浴び、髭を剃るべく洗面化粧台の前に立つ。
 鎖骨の少し下、胸元に赤黒いアザを見つけ、忌々しく舌打ちする。
 早々人前で襟元を寛げることなどないから、人目に触れることはないだろうけれど…。
 無意識に痣を指先でなぞってしまい、その気味悪さに手を振り、ざああっと流した水道水に晒して大きく溜息。
 …あきらじゃねぇが、乙女かっつーの。
 自分でも自分の潔癖さに呆れ果てる話だが、どうしてもこの性分だけは克服できないのだ。
 ましてや、克服したいとも思えないのだから、もはや彼自身も苦笑するしかない。
 手早くいつもの手順で髭を剃って、顔のシェービングクリームをぬるま湯で洗い流す。
 部屋に戻って、昨夜のうちに使用人に準備させた衣類に着替え、身支度を整えるとそのまま書斎に入る。
 そして、ざっと寝ている間に送られてきたメールをチェックし、各所に必要な指示を送っているうちに、あっという間に朝食の時間になっていた。
 司としては、食事の一食や二食抜いてしまってもまったくかまわないのだが、主治医からは規則正しい生活を送るようにと勧められている。
 そうでなくても、最低限の体調を保つ為に必要な生活習慣などは、とっくの昔から心得ていた。
 …あいつがうるさかったからな。
 親にでさえ放置されて自由気儘に生きていた司に口煩く意見しては、あれこれ世話を焼いていた。
 他の人間が同じことをしたとしても、彼は決して従わなかっただろう。
 しかし、彼女が司を想ってしてくれるすべてが温かくて、愛しくて、ガミガミ言われるのでさえ嬉しかった。
 通い慣れた長大な廊下を通り、食堂へと入る。
 と、
 「あ、おはよう、司」
 「………ああ」
 チラッと見回した食堂には、やはり今日も期待した人物の姿はなく、小さな落胆を内心で押し隠して、女―――滋の斜め対面側、主座に腰を下ろす。
 すぐさま給仕係が配膳するのを横目に、いつものとおりに置いてある新聞を手に取り、ざっと繰って目を通してゆく。
 「さっきさ、実は私、うっかり戒君と出くわしちゃってね。今朝はちゃんと食堂でご飯食べようと思ってたみたいなんだけど、あたしと出くわしたもんだから、司も帰ってきてることに気がついたみたいなの。それであの子、回れ右して部屋に戻っちゃったのよ、悪かったわ」
 「……ふっ」
 戒が彼を避けていることなど、滋の存在がなくても、どのみち元々のことなので、特に謝られる筋合いでもない。
 以前は最低限、遥香にでさえ受け答えしていた戒は、今やすっかり司とさえ口をきかなくなっていた。
 もちろん必要なことに関して、言いつけたことに関して無視をすることなど司も許してはいない。
 しかし、それでも、あきらかに父親に対して慇懃な態度をとり続けて、必要最低限の接触しかとろうとしない我が子を司は扱い兼ねていた。
 「思うにさ、反抗期だとは思うのよ」
 「……………」
 「司も身に覚えない?親に言われたあれこれがみんな嘘っぱちに思えて、反発したくなるの。口うるさく意見するなっ!放っておいてくれ!!とか、あ~思春期のおめき?」
 それこそ滋に対して必要最低限の会話にしか応じない司を相手に、滋は延々と一人しゃべり続けている。
 「……うちの萌奈も、本当はそろそろそういう難しい時期だから、なるべく一緒にいてあげたいんだよね」
 いつの間にか意気消沈した声音で、ため息をつく滋へと視線を向ければ、そんな彼の視線に気がついたのか、顔を上げてニカッと笑う。
 一見して、その顔にはまったく屈託が見えない。
 しかしーーー、
 「近いうちに、司がなんとかしてくれるんでしょ?」
 どうやららしくない滋の司への慰めともとれる言葉かけは、そこへの伏線だったらしい。
 滋の期待をよそに、司が素っ気なく彼女の要望を退ける。
 「アメリカにいるうちは無理だな」
 「え~」 
 とたんに顔をしかめ、大げさにブーイング。
 「それじゃ、約束が違うわよ!萌奈とはいずれ一緒に暮らさせてくれる、あの子の命と心身の自由は保証してくれるって話だったでしょ!?あんたのその約束を信じて、私はあんたに決めたんじゃないっ!?」
 「……契約だろ」
 「契約だってなんだって、結婚しようってことなんだもの、同じことよ!?私の信頼を裏切らないで!!」
 「………………」
 たしかに厳密な話しではないが、大まかに言えば滋の言うそのとおりなので、司も押し黙る。
 細かいことを言えばキリがない。
 だが、概ね滋はビジネスパートナーとして悪くない相手で、その延長線上の結婚は元から互いに細かく内容を詰めての契約だったのだから、滋のいう‘契約違反’も故ないことではなかった。
 「司、いいかげんにしてよ。あんたにとって、何が一番大事なのかは、私だって知ったこちゃないわ。でもね、私にとっての一番はあの子なのっ、萌奈なのよ!あんたが約束通りあの子を守ってくれて、私たち親娘をまた一緒に暮らさせてくれるというのなら、私も大抵のことは受け入れるし妥協もする。けど、今のままじゃダメ。ちゃんと約束は守られるという保証が欲しい、証明して欲しいのよ」
 「証明…ね。じゃ、こっちへ呼ぶか?」
 「司ぁ」
 思いつめたようだった滋の顔が明るく晴れる。
 しかし、それも一瞬のことで、司の皮肉な笑みに気押され固まった。
 「…死ぬぞ」
 「!!」
 「金の亡者どもの餌食になって、連れ去られるかもな」
 「……っ」
 唇を噛み締め震える手をぐっと握りしめて俯く滋に、淡々と司が追い打ちをかける。
 「お前にとっての最優先は、自分が娘の傍に居られるかどうかだったか?そうじゃねぇだろう。心身の自由も何も、命があっての物種だ。お前の父親がいよいよヤバイとなったら、よけいにその安全は脅かされる。それをわかった上で、お前は自分のワガママを通したい、そういうことなら俺も止めないけどな」




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~ Comment ~

司‼️久々登場‼️待ってました〜〜涙

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