「愛してる、そばにいて」
第6章 始まりの刻橋②

愛してる、そばにいて0422

 ←愛してる、そばにいて0421 →愛してる、そばにいて0423
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 「こんにちは」
 「こんにちは、牧野さん。どうぞこちらへ」
 「ありがとうございます。失礼します」
 にこやかに挨拶を返してくれる顔馴染みの秘書に導かれ、役員室のドアの前へ立つ。
 トントン。
 今はもう構えることなくこのドアをノックすることは、つくしの日常の一部だ。
 『…はい?』
 移動する気配と共に、ほとんど時間差なくドアが内側から開けられ、これまた顔馴染みの類の第一秘書が顔を覗かせ、つくしを認めて柔らかく微笑んだ。
 秘書らしからぬ体育会系のいかつい顔が、それだけで柔和に和らぎ途端に人懐っこいものに変わった。
 「いらっしゃい、牧野さん」
 「遠藤さん、こんにちは。類…花沢さん、帰社されてますか?」
 「ええ。今、応接の方で打ち合わせ中ですが」
 今や‘花沢さん’と呼ぶより‘類’と呼ぶ方に馴染んで、ついうっかりすると公私が逆転してしまう自分を戒めるのが一苦労だ。
 とはいえ、それはそれだけこの遠藤とも馴染んだということで、他の人間の前では相変わらず使用人としての自分の立場をわきまえている。
 「じゃあ、これを花沢さんに渡しておいてくださいますか?」
 手に持った紙袋を遠藤に差し出す。
 「いつもどおり二つ入ってますんで、遠藤さんも時間を見て召し上がってください」
 「いつもすみません、副社長の分だけでなく私の分まで」
 「いえ、一つ作るのも二つ作るのも一緒ですから」
 以前は朝食だけを頼まれて作っていたつくしだったが、何が気に入ったのか、類は彼女に夜食の弁当を頼むようになっていた。
 一時期プロに習っていたとはいえ、所詮素人に過ぎない。
 よほど有名料亭の仕出し弁当か、実家の屋敷から取り寄せた方が美味しいだろうに。
 もちろん、会食やパーティなどがない残業時に限るが、以前はたいていノンストップで物も食べずに仕事を続け、終わって帰ったからといって何かをつまむでもなく、そのまま寝てしまうことも珍しくなかったというから不健康な話だ。
 もちろん、朝食もサプリメントかバランス栄養食で済ませればいい方で、下手をすれば一日一食ということも珍しくなく、その一食でさえ秘書である遠藤が管理していなければ、一日中ほとんど何も口にしないこともあったという。
 当然のように、一日のほとんどを同伴している遠藤も似たような食生活を強いられていたらしい。
 「返って押し付けみたいで、どうかとは思ったんですけど」
 「いえいえ、それこそとんでもないです。私のように妻子を置いての単身赴任ですと、どうしても食生活が貧しくなりますし、牧野さんの作ってくださるお弁当は、昔私の母が作ってくれたものに近くて懐かしい。本当にありがたいことだと思っています」
 社交辞令ではない本物の笑みに、つくしも顔もホッと綻んで相好を崩す。
 妻帯者の遠藤は純粋な日本人だが妻はフランス人で、夫婦仲が円満ではあっても、類について転々と各国を転勤する彼についてくることはできず、フランスに子供と一緒に在住しているらしい。
 …そりゃそうだよね。
 いくら夫を愛していても、子供の就学のことや諸々のことを鑑みれば、そうそう海外赴任について回れるものでもないだろう。
 ましてや、フランスは共働きが普通の国だ。
 妻にも妻の職業があって、必ずしも夫を優先できるとも限らない。
 「じゃあ、あたしはこれで」
 「えっ?!」
 遠藤が紙袋を受け取って早々、辞去を告げてあっさり踵を返したつくしを遠藤が慌てて引き止める。
 「ま、牧野さん、すみません。もう少々お待ちいただけませんかっ!?」
 「はい?」
 「この後、1時間ほど副社長のお時間を空けることができますので、一緒にお茶をしたいからと、牧野さんには副社長が打ち合わせを終えるまで社内でお待ちいただくようにと申し使っております」
 「…お茶って」
 そんな時間があるなら、30分でも早く帰れる努力をした方が、と思いつつ、その調子で今まで昼食、夕飯も抜いていたのだと思えば、たしかにどこかでキリをつけなければロクに休憩もとることもできないに違いない。
 類の場合は特に仕事人間というより、やむにやまれずやるべきことをやっているだけのことのようで、司の場合とは事なりけっこう適当に息を抜いたり、時間を作っているようではある。
 ただ、それほど食事をしたりといったごく人間的で当たり前の欲求に希薄なタチらしく、そうしたものに時間を取られるくらいなら、まさにつくしが思ったようにさっさと帰りたいとかいう意図から、ノンストップの激務に身を投じていただけのことだそうだ。
 「誰かと休憩をとりたいなら、毎日朝夕顔をつき合わせてるあたしなんかとあえて休憩しなくても、遠藤さんとお茶でもすればいいのに」
 「ははは…」
 遠藤の笑いが乾いている。
 「いえ、どうせ休憩をするなら、むさ苦しい私のようなゴツイ男はイヤだそうです」

 「ゴツイ男って」
 本当のことだが、いくらなんでも失礼な物言いではないだろうか。
 しかし、
 「私にしても、いくら美形でも男では全く嬉しくありませんし、正直気難しい副社長と一緒にお茶をするくらいなら、私も休憩なしで職務に励んで一分一秒でも早く帰宅することが希望です」
 「ははは、まあ、たしかにそれはそうかも」
 実際問題、上司の類が帰宅していないのに、彼の第一秘書の遠藤が先に帰宅できるものかは別として、類を気難しいと言う遠藤の心情は大いに理解できた。
 …間違っても、とっつきやすいタイプじゃないもんね。
 もちろん、長年二人三脚で歩んできた上司と部下だ。
 口ではそうは言っても互いに遠慮ない間柄であるからこそで、見た目のアンマッチさとは裏腹に、二人は絶妙なコンビプレーでこれまでの年月を過ごしてきたのだろう。
 そうでなければあの類が、文句を言いつつも、何年も遠藤を連れ歩いているわけがなかった。
 そして遠藤ほどの優秀な男もまた、ただの昼行灯御曹司の酔狂に付き合い続けたはずもない。
 「じゃあ、あたしも特に急いで帰らなければならない用事もありませんし、少し下のランジで待たせてもらいます」




web拍手 by FC2

関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ  3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【愛してる、そばにいて0421】へ
  • 【愛してる、そばにいて0423】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【愛してる、そばにいて0421】へ
  • 【愛してる、そばにいて0423】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク

┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘
女性に大人気!ビジネスから恋愛相談まで全部500円~!  
価格満足度97%、日本最大級のココナラに今すぐ登録!!

┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘