「愛してる、そばにいて」
第6章 始まりの刻橋②

愛してる、そばにいて0421

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 「えっ!」
 スケールの大きな人物の登場に驚愕し、思わず言葉を詰まらせ、それでもなんとかつくしは言葉を絞り出した。
 「う、噂だったんでしょ?」
 そんな彼女の問を類がクスリと鼻で笑う。
 まったく楽しそうでも微笑ましそうでもなく、…そして、つくしに対するものですらない自虐に満ちた乾いた嗤い。
 「ま、結果的には、静は今大統領夫人になっていないわけだし?別のヤツと結婚してるから、噂といえば噂だけど、求婚されてたのはホントらしいね。当時もパリ中で大した評判でさ。第二のグレース・ケリーだなんだと、空港出たとたん、雑誌やら道行く人たちの噂話やら凄かったよ」
 「……そう」
 彼女に他に言える言葉などあるはずもない。
 しかも、それは遥か過去のこと、つくしが介入する余地もない過ぎ去った昔のことなのだ。
 それに…、
 …あの頃のあたしがそんな事を知っていたとしても、どうせあたしにはどうすることもできなかった。
 たとえ司に囚われていなかったとしても同様だっただろう。
 類にとってのつくしは何者でもなく、とるにならないちっぽけな存在でしかなかったのだから。
 それでも、当時の彼の苦悩と悲嘆を思えば胸が塞がずにはいられない。
 過去の記憶の最後の方、非常階段で出くわした時の魂が抜けたような、彼の弱々しい顔が思い出される。
 ギリギリだったのは彼女の方だったはずなのに…。
 「そんな静のところへ行ったところで、俺にできることなんて何もなかった。…ましてや、力になれるどころか足手まといになるだけで、下手をしたら、あいつの行く手を妨げることにもなっていただろうね」
 「………………」
 「なんて、ね。そう自分に言い訳して、何もしないで逃げ帰った……それなのに、逃げて帰ったくせに、いつまでも連綿として諦められもしなかったんだ」
 「花沢類」
 そんな彼を女々しいという人間もいるかもしれない。
 しかし、つくしにはそう思うことはとてもできなかった。
 類にとって、ただ、それだけ静の存在が大きく唯一絶対だったというだけのことなのだ。
 愛して、焦がれて、彼女なくしては立つことすらできないほどの想い。
 「それで…すぐに日本に帰国したの?」
 そのあたりの記憶がないつくしは、類のその後を知らない。
 「いや、一応名目上は英徳の高等部を卒業したことになってる。けど、そのままイタリアのトスカーナにある、ウチのシャトーにしばらく引きこもってたかな」
 「そうなんだ」
 「うん、その頃、あんたはNYだったよね?」
 「…そうなの?」
 逆に問い返す。
 聞かれても、つくしには答えようがなかった。
 自分自身のことなのに。
 「ああ、そこら辺のことは憶えてないのか。たしか、司がその時期、NYにいたはずだから、当然、一緒に行動していたあんたもそうだと思うよ?」
 「そう…だね」
 事実を否定しても仕方がないことだ。
 記憶を失ってからのつくしの10年間は常に司と共にあったのだから。
 不思議に、それを淡々と受け止められた。
 「俺もしばらくはトスカーナで過ごして、…イギリスで大学生活送ったり、仲間とは別行動してたから、それほどあんたたちのことに関しては詳しくないんだけどね」
 「それからずっと、外国に?」
 「…まあ、外国っていうか、一時期を除いて、ほとんど中東や東南アジア、アフリカ…主に発展途上国。静や幼馴染たち…知り合いの誰もいないところを、親に無理言って回ってたかな」
 それがどうしてかなどとは聞かなくても、つくしにもわかった。
 「15年も経つと、いろいろ変わってるよね」
 「…そうだね」
 本当に、すべてが変わってしまった。
 5年前にも感じた感慨を、今再び感じることになるとは思ってもいなかったが、しかし、生きるということはそういうことの連続なのかもしれない。
 たとえ記憶喪失にならなくても、普通に毎日を過ごし、気が付けば…と。
 振り返ってみれば、過去とはまるで違う自分がそこにいるのに気がつかされる。
 そんな当たり前のことさえも、わかっていなかったのだ、自分は。
 「…ああ、もう夜明けか」
 「え?」
 類の言葉につくしも窓を見る。
 たしかに厚いカーテンの隙間から、わずかに朝日の光が差し込んでいて、いつの間にかそんな時間になってしまっていたことにあらためて驚いてしまう。
 …もう、そんな時間?
 時刻は5時も半ば。
 夢中で話し込んでいるうちに、どうやら夜が明けてしまっていたらしい。
 意識してみれば、チュンチュンという雀のかしましい声が、遠く小さく聞こえていた。
 「やだ、もうこんな時間っ。朝ご飯の仕度しなきゃ!」
 「いいよ、急がなくて、俺、これからまた寝るし」
 「あ…」
 そういえば、明日…いや、もう今日か…類は一日オフだと言っていただろうか。
 「さすがに眠くなった」
 ふわわわわわと呑気な大あくびを一つして、類がゆっくりと寝室へと踵を返す。
 先ほどまでの深刻な空気が嘘のように間延びした間で…。
 「俺、昼過ぎまで寝るからさ。自分で起きてくるまでは起こさないで?」
 「え?…あ、はい」
 微妙な顔をしつつも、つくしもそこは素直に頷く、
 めったにないオフなのだ。
 親でもあるまいに、叩き起こすほど鬼ではなかった。
 「あんたも、今からもう一眠りすれば?ゆっくりしなよ?」
 「いや、それはさすがに」
 雇い主の類とは立場が違う。
 「あ、そうだ」
 そのまま寝室へと戻りかけた類が、ふいに立ち止まって彼女を振り返った。
 「はい?なんですか?」
 「それ、やっぱヤメよ?」
 「……は?」
 子供じみた細切れ言葉に、意図を汲み取りかねて戸惑ってしまう。
 「今のままがのがいいよ」
 「え?」
 虚を突かれて、やはり理解できずにキョトンとするつくしへと、類が首を傾げて指摘する。
 「言葉遣い」
 「あ…すみません」
 タメ口をきいていたことに、つくしもやっと気がついた。
 「なんで謝るの?俺は、敬語の方を辞めろって言ってるの。これ、雇い主命令だから
 「ええ?」
 そんな命令聞いたこともないと、つくしが抗議しかける。
 しかし、
 「それがあんたの‘壁’なんだろうけどさ…………お願い?」
 寂しげに笑む類の顔に、なぜか罪悪感がこみ上げて、つくしはそれ以上突っぱねることができなかった。
 …まあ、本人がそうしてくれって言ってるわけだし、言葉一つで何が変わるものでもないか。
 変えたいわけでもない。
 そして、たとえそれが類の言うとおり自分の‘壁’なのだとしても、そんなことで変えられるほど簡単なものであるはずもなかった。
 「わかりまし…わかった」
 言い直したつくしへと、類がニッコリと微笑む。
 「じゃ、よろしくね」
 ヒラヒラと手を振りあっさり背を向け、類が寝室へと消えた。




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