「愛してる、そばにいて」
第6章 始まりの刻橋②

愛してる、そばにいて0420

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 類の言葉につくしが大きく目を見開く。
 もちろん、…もちろんというべきか、つくしはその言葉を憶えていたが、まさか類がその時のことを、まだ憶えていてくれていたとは思っていなかったのだ。
 「ああ、記憶戻っても、逆に飛んでるところもあるんだっけか。…なんのことか憶えてる?」
 やっと思い出したように、類が顔を上げた。
 超至近距離で合ってしまった目にたじろいで、彼が俯いていることで意識してなかった現実が差し迫って焦る。
 抱きしめていた彼の体から慌てて手を離して、飛び退くように離れる彼女の態度に類が小さく笑った。
 今度は先ほどの自嘲的なものとは違って、純粋に彼女の行動がおかしかったらしい。
 何一つ昏いものを含まない、柔らかな微笑み。
 「…俺のことは憶えてたよね?」
 「まあ」
 憶えていたというよりは、思い出したというべきだろう。
 類がパンパンとついてもいないスラックスの埃を叩いて立ち上がり、自分に合わせて床に座り込んでいたつくしへと手を差し伸べてくれる。
 その手を見つめて、わずかに逡巡したものの、添い寝までしているのだ。
 いまさらだ。
 目の前の手に手を乗せ、引っ張り上げられて、つくしも起き上がる。
 大きな手―――どこかひんやりと冷たい、骨張ってゴツゴツとした男の手。
 …昔はもっとほっそりしてた気がするけど。
 手だけじゃない。
 今ここにいるのは、少年の日の類ではないと改めて実感する。
 「4年…もう5年近くか。司の奥さんをしてた頃のあんたに俺が会ったことは憶えてないみたいだけど、高校ん時の―――階段の転落事故を起こす前のことは憶えてるんだよね?」
 「…たぶん」
 ついそんな自信なげな答え方をしてしまう。
 だが、すぐに思い直してあらためて言い直した。
 「ううん、憶えてるよ。あんたが言ってるのは、パーティの…クリスマスパーティの時のことだよね?あの当時、花沢類と最後に会った時のことでしょ?」
 「そうだね。改めて思い起こしてみると、もうずいぶん昔のこと…か」
 類にとってはそうだろう。
 しかし、つくしにとっては…。
 それでも記憶を取り戻して、すでに5年近く。
 たしかに、ずいぶん以前のことだと同意して頷いた。
 「昔かぁ……そうだね。本当に…ずいぶん時が経っちゃったんだね」
 『ヤケクソだった』、『本気ではなかった』と言われた時同様、胸の奥に鈍い痛みを感じないわけではなかったけれど、それでも彼が本気で彼女と逃げたいなどと思ってはいなかったことは、あの時ですらわかっていたことだったのだ。
 当時の自分と今の自分では、やはり何かが違う。
 それでももしつくしが彼の提案に肯けば、たとえ本気ではなかったにしろ、類は彼女を連れて本当に司から逃げてくれたのだろうか?
 『そんなこと出来るわけないでしょ。道明寺も許さないだろうし、第一、他の人を好きなあんたとなんか、一緒に逃げられるはずがないじゃないの』
 あの時、自分がその申し出を断ったのはどうしてだったのか。
 本当は逃げたかった。
 たとえ類が静を…つくしではない他の人を好きで、彼女のことなんか欠片とも好きではなかったのだとしても、連れて逃げて欲しかった。
 プライド?
 いや、たぶん、そうではなかった。
 …あたしに逃げようと言ってくれるあんたの顔が、ひどく哀しそうだったから。
 「あんたに断られて、…好きなら追いかけろ、ヤケクソになんかなって他の女に逃げてる場合か、それでも男かっ、そんな風にあんたにハッパをかけられたよね」
 「………そうだったかなぁ」
 もちろん、つくしも憶えていたけれど。
 他人のことになんて、とても構う余裕など欠片ともなかったというのに、よくも言ったものだと自分で自分に感心してしまう。
 「ガリガリに痩せてさ。それこそあんたの方がギリッギリだっただろうに、そんなあんたにそこまで言わせて、本当に俺はこのまま変わらないままでいいのかって…ガツンと来たよ。」
 「…………」
 類の唇の端が小さくカーブを描く。
 「でも、あの後すぐにあんたもあんなことになって…日本にいる理由がわからなくなった。それで…遅まきながら静を追って、俺はフランスに渡ったんだ」
 淡々と語る類は彼女に話しているというよりは、自分の中の想いをカタチにしようと自分自身に語りかけているように思えた。
 「けど、意気地なしの俺は結局、静を追ってフランスに行ったくせに…また逃げたんだよ」
 「逃げた?」
 つくしに抱きしめてくれと言ったわりには、類は彼女の胸に寄りかかるでもなく、立ち尽くし俯いたまま、自身の心の闇を吐露していた。
 おそらく今、類が過去を振り返って当時の心境を悔悟することは、かつての自分との対話であり、鏡に向かって話すようなものなのではないだろうか。
 たとえそこにいるのが、彼女ではなくても良かったのかもしれないと、つくしは黙ってただジッと耳を傾け続ける。
 「逃げた。…静から、あいつにもう俺の面倒はとても見切れない。そうハッキリと見捨てられるのが怖くて、会わずに逃げたんだ」
 類の怯懦。
 彼は決して強い人ではなかったのだ。
 強靭な肉体、美しい容貌、明晰な頭脳、家柄、財力―――人に羨まれるほどのすべてに恵まれながら、なぜか彼は心が脆弱だった。
 他人と接触することを忌避して、一人でいることを好み、わずかな人々だけをその世界に入れるだけで、あとは何も見ないフリ聞かないフリ。
 もしかしたら幼馴染みの親友たちですら、彼にとって通り過ぎる人々よりはまだマシな程度の存在だったのかもしれない。
 真実必要だったのは静だけて、彼にとっては彼女だけが全てだったのに違いなかった。
 しかし、そんな彼に比して、静は違ったのだ。
 自らの翼で羽ばたいて、逆境に立ち向かい、自身の輝きで一人立つことができる女。
 そんな女に恋し焦がれてしまった類の悲哀がそこにある。
 それでも、
 「花沢類を見捨てるだなんて、静さんはそんなこと…」
するはずがない。
 しかし、つくしの言外の否定に類は首を横に振った。
 「当時、静は昼に大学に通いながら、夜は弁護士の秘書になって勉強の毎日を過ごしていたんだ。あいつがフランスで、国際弁護士になったって知ってる?」
 「あ…ああ、うん。誰かに聞いた気がするかな」
 「そっか」
 司に囚われることがなければ、10年一昔。
 学生時代にそんな凄い人と会話をしたことがある、そんな風に周りに自慢するくらい。
 それだけつくしには、縁もゆかりもない世界のことになっていただろう。
 …ううん、たぶん今もそう変わらない。
 あの頃のことは遠い夢のようなものだと、時々思うことさえある。
 「しかも、あの頃、静は次期フランス大統領候補と言われていたヤツに求婚されてた」




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