「愛してる、そばにいて」
第6章 始まりの刻橋②

愛してる、そばにいて0423

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 「どうぞ、こちらでお待ちください」
 「いえ、お仕事中の遠藤さんのお邪魔をしてしまっても申し訳ありませんし、あたしもちょっと電話をしたいことがありますので」
 それこそ急いで電話をしなければならないということではなかった。
 第一、本当に電話するかどうかつくしは未だに決めかねてはいたのだが、無関係な自分がいるには類の役員室はあまりに敷居が高く落ち着けない。
 …無関係なあたしにこんなところで何をしてろって言うのよ。
 遠藤の気遣いはありがたいが、役員室には当然遠藤や類の他にも、幾人もの社員たちが出入りするだろうし、当然そのほとんどが顔馴染みの人間ではないのだ。
 …あたしのこと、いったいどういった立場の人間なんだって、おかしく思うよね。
 一応、つくしも花沢物産を訪問するにあたって、それなりにTPOをわきまえた格好を心がけてきているつもりだが、それにしても彼女はどう見ても名だたる大企業の重役と商談をこなすようなバリバリのキャリアウーマンには見えないだろう。
 「もし予定が変更になるようでしたら、お手数ですけれど、あたしの携帯の方へ連絡をお願いします」
 それだけを頼み、遠藤に会釈してつくしは類の役員室を後にした。




*****




 全面ガラスになっている廊下を歩きながら、見るともなく遠くまで一望できる見事な景観を眺めて歩く。
 「すごい贅沢だよね」
 社員たちにしてみれば毎日のこと。
 最初の頃はともかくとして、そうそう呑気に景色を眺めて感じ入ってもいられないだろうが、美しく清潔な社屋の居心地の良さやこうしたわずかな合間の余暇が、激務の社員たちのストレス解消の一助となっているのかもしれなかった。
 『……ぁ………よ。………かな、ああ………』
 微かに洩れる聞き慣れた声に、顔を横へと向ける。
 窓とは反対側、開放的になのか、あるいはオープンさを狙ってのことなのか、素通しになっているパーティションの向こう、観葉植物の影によく知る男の横顔を見つけた。
 …類。
 類の方は打ち合わせしている相手の話に夢中になっているのだろう。
 つくしの視線に気が付くことなく、冷たく美しい横顔を晒し、相手の話に聞き入っている。
 生真面目で…だが、どこかアンニュイさを色濃く纏った拒絶的な美貌。
 …ああいう顔してると、初めて出会った頃みたいだよね。
 再会した当初よりはわずかに色味の落ちた褐色の肌色も、大人になってシャープさを増した顔のラインも、あの頃とはだいぶ変わってしまったけれど。
 それでも、少年の日の面影を残す横顔に見入ってしまう。
 彼女の視線に気がついたように、ふいに類がこちらを振り返る。
 慌てて通り過ぎようとした彼女を認めた類の目が瞬いて、さっきまで人形じみて無機質で冷たかった秀麗な顔が、わずかに綻び唇の端を緩めた。
 まるで人形から人間へ、無機質から生きた存在へと、一瞬で様変わった彼の姿に目を瞬かせ見入ってしまう。
 そんな彼の表情に気がついた類の打ち合わせ相手が、怪訝に振り返る気配に、つくしは今度こそ慌ててその場を通り過ぎる。
 …うひぃ~。
 我ながらよくわからない奇声を内心で上げて、無意識に滑らせた手のひらに触れた頬が熱く、赤くなっているのが自分でもわかる。
 けっして少女の日のまま、類に幻想を抱いているつもりなどまったくなかったけれど、それでも今感じている胸のざわめきが、彼を意識してのものだということくらいつくしにも自分でわかっていた。
 …あたりまえじゃない。
 つくしはけっして尼僧になったわけでもなければ、俗世を捨てたつもりもない。
 若い娘というには多少薹が立ち始めているかもしれないが、まだまだ枯れるには早すぎる、一人の‘女’なのだ。
 魅力的な男性を見れば当然魅力的だと感じるし、類は間違いなくこの上なく魅力的な男性だった。
 つくしでなくとも、あんな顔―――まるで慣れない野生の獣が、彼女だけに懐いて甘えるような、本当に嬉しそうな綺麗な微笑みを見せられて、ドキつかない女などいるはずがないではないか。
 『だから、いいんじゃないかな。普通に好きになって恋愛してって、そういう過程を楽しむことが、今のあんたにとって必要なことなんだと思う』
 そんな優紀の言葉がふっと蘇って、つくしはブンブンと首を横に振った。
 「…バカバカしい」
 優紀がわざと茶化して言ってくれたのだとわかっている。
 普通の‘恋’どころかどう生きれば良いのかさえ見失ってしまった彼女への、優紀なりのエールなのだとちゃんと理解していた。
 幼い初恋をいつまでも引きずって、今の類に重ねるほどつくしは愚かではない。
 たとえ見た目や実際の年齢とは異なり、ずっと幼い心の根のまま惑ってばかりなのだとしても。
 …あたしとあの人はただの雇用関係。
 ただの赤の他人というには、気安く親しくなりすぎてはいるが。
 それでも依然として友達というには微妙だったし、もちろん家族でもなければ恋人という関係でもないのだ。
 たとえ、たびたび同じベッドで抱き合うようにして眠ることがあったにしても。
 互いに代償行為に過ぎない。
 類が静の不在をつくしや見知らぬ女たちの温もりで埋めているのだと言うのなら、果たして自分は何を埋めようとしているのだろう―――そんなことを思う。
 気が付けばいつの間にか廊下を通り過ぎて、エレベーターホールの近くに設置されているラウンジの前へと辿りついてしまっていた。
 役員フロアなので、流石に人通りも少ない。
 幸い他に人影は見えなかった。
 …ちょうど、いいか、な。
 廊下やエレベーターからは、死角になっているブースを適当に選んで腰を下ろす。
 一つため息をつき、つくしはいもしない人影を探ってあらためて周囲を見回した。
 そして、意を決して膝の上に置いたハンドバックから、携帯電話とシステム手帳を取り出して、手帳にメモっておいた電話番号を睨む。
 名前の記載のないその番号は、……数日前に進から教えられた、両親が現在住む家の電話番号だった。
 



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