「愛してる、そばにいて」
第6章 始まりの刻橋①

愛してる、そばにいて0397

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 ―――非常階段友達。
 またえらく懐かしい呼称が出てきたものだと、つくしも驚き呆れて、危うく類の提案を唯々諾々と受け入れてしまうところだった。
 …しかも、そんなのあたしが咄嗟に口にした出まかせだったじゃない。
 ただの言い訳だった。
 つくし自身でさえ信じていなかったことを、当時、類が認めてくれていたと思わなかった。
 「じゃ、そういうことで」
 「いや、やっぱりダメですから」
 あくまでも強情を張るつくしに、類が苦笑する。
 「やっぱりあんた手強くなってる」
 「そうですか?」
 それならそれでかえって嬉しいかもしれない。
 他人の意のまま、流されるままにもう生きることはしたくない。
 残ったおかずをさっさと片付ける方向に集中する。
 あまりに類が変わっていたから、諸々のことが遠くなって、それこそ過去のこと丸ごとすべて、まるで夢か何かであったかのようにつくしも錯覚してしまっていた。
 しかし、彼にはもっともつくしが見られたくなかった時期を見られてしまっている。
 彼女が真実、忘れ去りたかった記憶、それなのに思い出してしまった過去。
 だが、だからといって何も知らないまま、何もかも忘れ去ったままで、‘道明寺つくし’―――司の妻として生き続けていたかったわけでもない。
 だからこそ、複雑な想いに、いつまでも苛まれるのだ。
 …思い出したくなかった。でも…。
 「追突事故の時、あたしの過去のこととかあれこれほじくられて、いらない騒ぎにしたくなかったから、警察や救急車を呼ばずにあたしを花沢さんのマンションに連れて帰ったって言ってましたよね?」
 「うん?」
 いきなりの話題の転換に、特に戸惑った様子もなく類が頷く。
 「それなのに、あたしなんかをメイドに雇ってもいいんですか?」
 「それは大丈夫なんじゃない?さすがに事故とか、派手な騒ぎになればどうかしらないけどさ」
 「……………」
 「今のあんたを見て、あの道明寺司の元妻だなんて誰も思わないだろうし?…当の司はNYなんだから、それこそいまさらだよ」




*****




 …いまさら、か。
 たしかにいまさらだ。
 この4年余りの間、一度たりともつくしをあの‘道明寺司の元妻’だろうと言い当てた人間はいなかった。
 それどころか、そうではないかと憶測する人間すらいなくて、司と別れた当初、妙な緊張をしていた彼女をかえって拍子抜けさせたくらいだ。
 それはそうだろう。
 何気なく顔を向けた先、自室の窓ガラスに映り夜の闇に沈んだ自分の顔に見入る。
 かつては髪の毛一筋、爪の一欠片さえ他人の手により綺麗に磨かれ、華やかな装いと煌びやかな贅に囲まれて、生まれながらの貴婦人然としていた女はもうそこにはいない。
 …ホント、夢みたいなものだったんだよね。
 夢は夢でもとびっきりの悪夢。
 懐かしいなどとは間違っても思えなかったけれど、それでも…今こうしてその夢の一部のような存在だった、あの花沢類と再び関わることになった運命の数奇を思う。
 …やっぱり断れば良かったかな。
 そう思う気持ちもまだまだ強くて、自分がなぜこんなわけのわからない提案を受け入れてしまったのか、我ながらよく分からない。
 でも…、
 『…お前ってそういう女だよな。物事ウジウジ考えるわりに、突然突拍子もないことしでかして、一人で勝手にドツボにハマるってパターン』
 ビクッ。
 笑い含む柔らかな男の低い声音が耳に蘇った気がして、つくしは瞬時に体を強張らせた。
 …誰もいるはずがない。
 ここは類に与えられた彼のマンションの部屋の一室で、『おやすみ』と互いに別れて、今一人っきり。
 当然、類はもちろん、他の誰も部屋に入ってきた気配などなかった。
 ましてや、今耳に聞こえているのは、類や知らない人間の声などではなく、かつてよく見知っていた男のもの。
 …あいつがいるはずがない。
 いるはずがなかった。
 そう冷静な思考が訴えかけているのに、甘いコロンの香りさえ匂った気がして、つくしはすぐさま振り返ることができなかった。
 しかし、そのままでいられるはずもない。
 つくしはゴクリと唾を飲み込み、息を吐き出して、意を決してゆっくりと振り返った。
 「……っ」
 しかし…やはりそこには、見慣れぬ部屋の空間が広がるばかりで、彼女以外の他の誰の姿もない。
 当然、想定していた男などいるはずもなかった。
 「当たり前じゃないの。あたしったら何考えてるのよ…バッカみたい」
 自嘲したつもりで、存外に震えて頼りなげな自分の声に、逆に凹まされてしまう。
 この数年間、何度となく悩まされてきた空耳。
 忘れたいと思う心とは裏腹に、なぜか忘れることができないのだ。
 しかもそれらは、彼女…記憶を失う前のつくしが知らないはずのやりとりや光景、シチュエーションばかりなのだ。 
 あきらかに失われていた10年間の記憶の欠片。
 ‘道明寺つくし’の記憶。
 …冗談じゃない。
 けっして彼女は記憶を取り戻すことなど望んでなどいないのに。
 「もうっ!やめやめ。さっさと寝よ、寝よ!」
 一人力んで、座り込んでいたベッドの布団の中へと潜り込む。
 きっと疲れているのだ。
 …いくらなんでも、あたしの繊細な神経の許容オーバーだよね。
 西日本からの長距離ドライブに、道明寺家顧問弁護士とのハードなネゴシエーション。 隼斗との最後の話し合い。
 そして、追突事故。
 挙句の果てに思わぬ人との再会やら展開にと、思わぬ事態の連続だった。
 …いきなり知らない部屋で男と一緒のベッドで目が覚めるとか、まったくとんでもない一日の始まりだったわ。
 しかも、その後その男が誰だかもわからないままに、汚部屋を掃除するハメになったりと、驚きと気疲れできっと神経がマイってしまったに違いない。
 これまで図太いと自負していた自分を否定して、すべてを疲労のせいにしてさっさと寝てしまう事にした。
 布団を頭から被って目を瞑る。
 …まあ、でもなんだか奇妙なことにはなったけど、たしかに労働条件としてはそんなに悪くないか。
 そんなことを思う。
 しかし、雇い主とはいえ、いきなり同年代の男との同居だ。
 もちろん未だに戸惑いや困惑を収めきれていない。 
 そして、類はどうしてそんないわくつきの自分に、わざわざそんな提案をしてきたのだろう。
 …知らない人間よりマシだからとか、イマイチ納得しがたいこと言ってたけど。
 たしかに気安い空気や、互いに妙な色気を出すことはないだろうという安心感はある。
 …でも、高校の一時知り合いだったってだけで、そんな信頼感じちゃうほど、今のあの人のことをそんなによく知ってるわけじゃないのよね。
 冷静な部分ではそんなことをわかっていながら、しかし心のどこかで彼ならば大丈夫だという根拠のない安心感があるのはどうしてなのか。
 だが、彼はあの花沢類なのだ。
 結局はそこに行き着く。
 「ま、それこそあたしみたいにいろいろありまくりで、面倒な女相手に妙な気分になったりするわけないか。どう見たって女に不自由してるタイプじゃないもんね」




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