「夢で逢えたら…全207話完+α」
第四章 夢の続き①

夢で逢えたら146

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 久しぶりというには、ここ十数年の頻度にしては急激にあげた回数の来日に、懐かしいという思いはすでにもう遠い。
 元々、土地に執着しない司であればなおのこと、この地につくしや友人たちがいなければ、どこであっても同じことだった。
 むしろ、たった数日のこととはいえ、つくしに会えないことがことの他辛い。
 会えば邪険にされ、一度は手にした女に拒絶される空しさも無きにしも非ずだったが、それでも死んだと思い永遠に失われたはずの恋だった。
 それくらいなんのその。
 だが、無意味に足止めされている現状は、きわめて不本意。
 それどころか、久方ぶりに未成年の頃のように手あたり次第当たり散らして、暴れまわりたい気分だった。
 「…副社長?」
 遠慮がちにかけられた声に、司は不機嫌にギロリと視線を移した。
 これが冴子ではなく、一介の秘書や他の社員たちだったら、硬直したままロクに物も言えず、ただ荒れ狂う暴風雨に耐える枯れ枝のような気分だったはずだ。
 だが、西田と、山之内、高瀬の3人は、この司の理不尽ともいえる感情の起伏に耐性がある。
 「いつまで、俺はここでこんな下らねぇ足止め喰らわなきゃなんねぇんだよっ!2週間!2週間だぞ。当初の予定では8日だったよな?」
 8日間の予定の日本出張には各地の視察の他に、重要取引相手との再契約の段取りがあった。
 だが、この再契約に支障があった。
 それも、ごく個人的に近い感情問題で、司を相手どる再契約に相手方が難色を示した。
 規模的には道明寺の足元にも及ばない小企業。
 だが、ここには世界の名だたる企業の垂涎の的となる最新のエレクトロニクス技術があって、長年道明寺の幅広い部門のポータルとして多大なる影響を及ぼし、数々の利益を生み出してきた。
 絶対に失えない存在だった。
 元々は、司の父の代で結ばれた関係で、実質的な道明寺の実権を司が引き継いで以来、このたび初の契約更新となる記念すべき事業のはずだったのだ。
 それが、今回のくだらない三文ゴシップ(司による)の存在が、その重要な契約を前にして大きな障害となった。
 契約相手の会社社長が、司のセックススキャンダルに過剰な拒絶反応を起こしたのである。
 17才の孫娘がいるという社長は、司の人格そのものを疑問視し、彼ではなく、従来通り司の父ではなくては契約できないと突きつけてきた。
 それならばと圧力をかけるには、相手が悪かった。
 相手の技術力はあまたの企業を惹きつけ、道明寺ではなくとも、道明寺財閥に匹敵する企業が後を目白押しに虎視眈々と契約の機会を伺っている。
 もし、道明寺との関係が拗れたとしても、数ある大企業の傘下に入り、その怒りをやり過ごせばいいだけなのだ。
 「クソッ!」
 司は憤りに任せて、ガンッと執務机を一蹴りし、拳に歯を当て、思考の渦に身を沈める。
 しばし、瞑目し…。
 「高瀬」
 「はい」
 「…相手の親族縁者、プライベート上の瑕疵を探せ。説得材料を見つけろ。誰にでも一つや二つ、人には言えねぇ過ちもある。それを納得させるようなネタだ。そんなチマチマしたセコイやり方は性に合わねぇが、何事も使いようだ。俺はこんなところでチンタラしてる暇はねぇんだよ」
 爛々と光る鋭い眼差しに刺し貫かれ、普段はどこまでも怜悧な冴子が、武者震いにかすかに身を打ち震わせ、胃の腑に落ちる恐怖に、あるいは快感にか、一瞬、声を詰まらせる。
 「…かしこまりました」
 「あと、同時に、密かに裏に手をまわして、投資会社にM&A(企業の合併や買収の総称)を焚きつけさせろ。やりすぎさせるなよ。潰しちまったら元も子もねぇ。もちろん、こっちの思索を嗅ぎ付けさせるな」
 「はいっ」
 他、次々に司の指示を受けると、何事もなかったかのように司へと一礼し、その命令を果たすべく踵を返す。
 冴子は自身が司に忠実であることに、何の疑問も感じない。
 だというのに、彼に忠実であることと彼の意志に従うことが同類項ではないことが、自分でも時々不可思議だった。
 経済界に君臨するこの上なく美しく、冷徹な魔王。
 司の意志一つで、いかなる強大な楼閣も脆くも潰え、新たなる繁栄を築く存在でなければならない。
 そのためには…。
 たとえ、何を犠牲にしても、冴子は自分自身の偶像に忠実であらねばならなかった。


 麻紀乃は、1か月ぶりに顔を合わせた総二郎の代理人である弁護士の顔の生真面目な顔を思い出し、気鬱な溜息をついた。
 事件当初は確かに、この弁護士を頼りにしていたが、時間がたつにつれて自分の立場のあまりの変遷に、麻紀乃が自暴自棄になるにつれて、この弁護士の実直さが鼻につくようになってきたのだ。
 分別臭い顔をして、私にお説教をしないで。
 そんな憐れみ一杯の顔で、私を蔑まないで。
 司からの報復を恐れ、将来を不安に思い、不安定な精神状態から不眠症とヒステリックな躁鬱状態を繰り返すに至って、麻紀乃はこの弁護士を疎んじるようになった。
 『…Mr.西門から、あなたと直接コンタクトを取りたいと連絡をいただいております』
 弁護士の真摯でお堅い物言いが、なおのこと疎ましく、うんざりする。
 『総二郎先生に、お話することなんて何もありません』
 自分に全米でも名の知れた有能な弁護士をつけてくれて、なおかつ、経済的困窮に陥った父親に代わって保釈金を肩代わりしてくれたのだ。
 感謝しても感謝しきれないことは認める。
 けれど、だからと言って、得意顔で指図される謂れはない。
 …総二郎先生になんて会いたくない。
 どうせ、総二郎に会っても、叱咤されるだけに決まってる。
 憂鬱な面会の後は、気晴らしが必要だ。
 ふと指先に触れた小ぶりのピアスの感触に、麻紀乃は渋面を崩した。
 …ニコラスに先日のデートでもらったプレゼントだ。
 かつて司に贅を尽くした金品を欲しいままに貢がれていた身。
 どう見ても、ホワイトカラーには程遠いニコラスからの贈り物にしては高価なものだったが、麻紀乃の感覚はマヒして
いて疑問にも思わない。
 また、特に感慨もない程度の品物だったが、ここのところ無視され蔑ろにされる屈辱と悲哀に浸っていた麻紀乃にとって、自分の価値を再び認められたような喜びをもらたした。
 ニコラスが好きなわけじゃない。
 ただ、あの癖の強い真っ黒な黒髪が、自分を置き捨て、今の窮地に追いやった男の面影を強く感じさせて堪らない気持ちにさせるだけ。
 ニコラスのハンサムな顔も、チープなデートコースも、何もかも麻紀乃にとっては取るに足らないものだったけれど、
そんな小さな慰めさえも必要とするほどに孤独だった。
 ただ、愛されたい。
 本当はそれが本当の望みだったはずなのに。
 賞賛され、尊重され、甘やかされたい。
 そんな望みを叶えるニコラスの言うがままに言葉を語り、いつの間にかマスコミの前面に立つようになっていた。
 自分が何をしているのか、また、それがどんな結果を招くのか、相も変わらず麻紀乃は深く考えることを自ら拒んでいた。


 スキャンダルの張本人の不在を受けて、つくしの周囲もようやく沈静化してきた。
 つくしは知らなかったが、司の圧力が功をなしてきた成果でもある。
 たまに、記者の一人も後をつけているようなこともあったが、それもいつの間にか姿を消していて、特に突撃取材を受けるような被害もなくなっていた。
 一足先に自宅に帰ったレンに連絡を取ると、どうやらマンションの方の報道陣もとっくに引き上げたようで、この様子だと特につくしが隠れている必要性もなさそうだ。
 日本の司や類からは再三、口が酸っぱくなるほど自分が帰るまでは自宅に帰らず、大人しくメイプルで身を潜めていろと言われていたが、冗談ではなかった。
 …いつまでも、こんなところで燻ってられるかつーの!
 しかし、司はともかく、類までもが司とタッグを組んで、つくしを押し込めようとするのには正直マイッた。
 でも、今はいろいろな事情があいあまって、ロクな就職活動も行っていなかったが、いつまでも無職というわけにもいかない。
 レンの意外な進路変更?によって、あらかじめ目星をつけていた今後の就職先は見事にフイにすることが本決まりになり、どちらにせよ、世話になっている母校の教授の下へも再び顔を出さないわけにはいかないのだ。
 先日、急遽退職したメイルズフォート病院での親友・エリザベスにもさんざん水臭いと、詰られたばかり。
 彼女との友情は今後も続けて行きたいし、つくしへの友愛にも感謝していたので、ぜひに近いうちに顔を合わせて今後のことについても相談したかった。
 ホテルを引き払うべく、なんだかんだと増えた荷物をボストンバッグに詰めて、一息つきがてら、後ろポケットの携帯電話を手にとった。
 「あ、私!」
 3コールでとった相手の寝ボケ眼な声に、微笑みを誘われながら、一方では現在の時刻を腕時計で確認して額を抑える。
 …いったい、何時だと思ってるんだか。まったく、いつまで寝てるのよ。
 内心のボヤキは口に出さず、つくしは今日の予定を早口にまくし立てた。
 「私、マンションに帰るからね!」




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