「夢で逢えたら…全207話完+α」
第四章 夢の続き①

夢で逢えたら144

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 『…¡Hola』
 「ブエノス ノーチェス!お楽しみのところを、すいませんね」
 電話の向こうで、若い女の声とその女を追い払う男の声が漏れ聞こえる。
 どうやら多忙なこの御仁は、夜のプライベートの時間を一時の快楽に費やしていた真っ最中らしかった。
 相手の年齢を思い浮かべ、今も現役で盛んな様子に血を感じて、ますます愉快になる。
 酒、たばこ、女、金、そしてスリルと死。
 これにギャンブルが加われば、もはや人生にやり残すことなどない。
 『こんな時間になんだ。いつも、お前はこちらの都合というものを考えないな』
 「何を言ってるんだか。あんたには、頃合いと言えるような暇な時間はないだろ?仕事でなければ、女との交際に忙しい。じゃあ、いつ連絡すれば?」
 『ふん、相変わらず、減らず口を。で、どうなんだ?』
 「抜かりはねぇよ。じゃなければ、連絡しない。ロザーナが上手くやった。ニコラスの奴が中々、綺麗に仕上げやがったよ。あっちはどうなんだ?」
 『うまい具合に繋ぎもとれてる。近いうちに決行だな。そっちも、準備しておくがいい』
 「了解。手土産、楽しみにしてろよ?」
 切れた携帯を枕元に置き、豊かな金髪を掻き上げながら部屋に入ってきたバスタオル一枚のみを身にまとう女に視線を転じる。
 蕩かすような笑みを浮かべ、男の横たわるベッドに片手をついたロザーナの腕を引き一気に組み敷く。
 見上げてくる女の濡れたような目は、野心と快楽への戦きで赤く充血し、その魔性の笑みがウーゴの熱い血を更に熱く滾らせる。
 「どうなの?」
 「ふふん、仕上げは御覧じろ。けど、今は、お前のことで俺の頭は一杯だ」
 ウーゴは短く返答を返し、豊満な女の裸身の上に身を投げた。
 情熱的な口づけを落とすウーゴの頭を掻き抱きながら、ロザーナは悦楽の声をあげ、奔放な衝動に身を任せた。



 類の運転する車の助手席で、心地よい揺れに身を任せながら、ふと、先ほど彼の言った言葉を反芻する。
 『俺と日本へ行かない?』
 『…え?』
 『俺がいま花沢本社にわりと頻繁に呼び出されて、あっちとこっちをかなり頻繁に行き来しているのを知っているよね?』
 元々が類のNYへの渡米は、臨時的措置だった。
 花沢内部の勢力抗争的な事情で、突然空いてしまった道明寺との巨大プロジェクトの責任者としての派遣で、NY支社での確固たる位置を設けられての滞在ではない。
 当初は、プロジェクトの総責任者の地位を引継ぎ、このままNYに少なくても数年は滞在するものと見られていたが、近ごろのヨーロッパの情勢によりそうはいかなくなった。
 日本への頻繁な帰国は、そういった事情を鑑みた打ち合わせ等の庶務処理上の都合での帰国だった。
 『いま、花沢ではヨーロッパ、特に南欧での対応に苦慮している。近年のスペインは経済危機で政情不安定だ。政府の緊縮財政策に対する抗議デモも展開されている。花沢に限ったことではないんだけど、そうした中での事業展開では労働者たちとの摩擦も起きやすい。花沢の所有する工場で働く労働者たちの動きが最近、不穏だという報告が上がっていてね。…もしかしたら、来月中頃に辞令が下りて、俺がスぺインに赴任するかもしれないんだ』
 類の難しい顔から察するに、おそらく厄介な案件なのだろう。
 だが、それを押しての派遣となれば、花沢での類の立ち位置が容易に知れる。
 彼は、確固たる実力を持って、花沢物産のジュニアとしての立場を築いているのだ。
 『もしかしたら、日本からそのままNYに戻らないで、ヨーロッパを回ることになるかも。もちろん、まだ本決まりじゃない。俺にも多少なりとも選択の余地もある。でも、永遠にNYにいることはできない。在米企業の道明寺とは違って、花沢は日本とヨーロッパを中心に展開する企業だからね』
 『…類』
 類がNYを離れる。
 類とは司同様十数年という長い月日、ずっと会わずに過ごしてきた。
 かつてはあれほど近い存在…自分の一部とまで思うことがあった青年だったが、時の流れと共に忘れがたくはあっても遠い世界の住人のように懐かしく思う存在となっていたのだ。
 だが、それがどんな運命の悪戯だというのか、こうして再び逢いまみえた。
 つくしと同じく、類の上にも等しく時が流れて、それはその見た目にも表れていたというのに、不思議に、類とつくしの関係は変わらなかった。
 それを類は自ら壊そうというのか。
 いや、類はもっとずっと以前…それこそ、二人が袂を分かつ14年も前に変えようとしていた。
 変えたくなかったのはつくしだけだったのかもしれない。
 それがエゴだとわかっていても、類の望みに答えられなくても、類を失いたくなかった。
 その報いが、もしかしたら、こうして愛する人たち…司や両親、友人たち、そして、類自身とも別れる結果となったのだと言われてもつくしは不思議ではない気がした。
 何度も何度も手を差し伸べて助けてくれた人。
 初めて好きになった人。
 そして、初めて情を交し合い、肌を重ねた男性だった。
 『この間のプロポーズの返事じゃなくてもいい。俺と日本に帰ろう?レンのことも、お前のことも、俺が守る。司より上手にお前たちを守る自信があるんだ』
 いつもの冗談じゃない証拠に、つくしの手をとった類の手は、わずかに汗ばんで震えていた。
 …この人でも緊張するんだ。
 と、変なところにつくしは感心しながらも、不思議に他人事のように冷静だった。
 いや、冷静ではなかったのかもしれない。
 『…あのね、類』
 『いい返事しか聞かないよ』
 『そんな、あんた、道明寺みたいなこと言って』
 類がクスリと笑う。
 『はは、司に言われたんだ?やっぱ、そんなこと言いそうだと思ったよ。けど、俺も引くわけにはいかなからね。ちょっとシャクだけど、あいつはあんたが初めて付き合った男だ。初めて愛した男だよね?』
 『……昔のことだよ』
 ポツリと呟いたつくしの言葉を聞いて、類が緩く首を振ったのは、肯定だったのか否定だったのか。
 『司はあんたに何を言われても諦めなかった。きっと、今度もそうするだろう。だから、俺もあやかることにしたんだ。あんたに何を言われても、逃げられても諦めない。あんたが、本当の意味で心を決めるその時まで。忘れないで。何度も言わないと、あんたはまた中途半端に誤魔化しちゃいそうだからね。それにハッキリ言わないとあんたには通じない。だから、これから俺がいうことは嘘偽りない俺の気持ちだ。もちろん冗談でもない』
 …言わせてはいけない。
 そうは思うのに声が出ないのは、それがどれだけ卑怯で、類に対して酷い事なのかを自覚していたからに相違ない。
 『俺は、あんたを好きだ。愛してる。14年前から、たぶん、初めて出会った18才の頃からそうだったし、今も変わらない。俺はあの時、気が付くのが遅れてあんたを司に攫われた。でも、今回は絶対に引き下がれない。あんたが欲しいんだ』
 周囲の雑踏が遠くなり、まるで類と自分だけの二人っきりのようだった。
 『…』
 『……』
 『…まいったな、こんなところでこんな風に告白するつもりなかったんだけど。テーブルが邪魔で抱きしめることもできないよ』
 赤く染まった顔で悪戯っぽく笑って、類は席を立ちあがった。
 『でよう。そろそろ、帰った方がいい。こんな時だから、あんまり出歩かない方がいい…って、俺が言うことじゃないか』
 『そうよ、あんたが呼び出したんでしょ?』
 憎まれ口を叩きながらも、類の後ろに付き従う。
 片手を差し出されて、躊躇してその手を見つめているうちに、強引に手を取られた。
 司とは違って、ひんやりとした冷たい手。
 冷え性だった頃の司の手は氷のようだったけれど、類の手はそれとはまた違って、なんというか、彼らしいさっぱりとした?冷たさだった。
 『…俺に諦めさせたかったら、ハッキリ俺のことは愛せない、そう言うしかないよ。口先だけのことでなくてね』
 振り向かれないままに告げられた言葉に、つくしは俯き黙り込んだ。
 愛せないわけじゃない。
 いや、愛していないわけじゃない。
 とても大切な人だった。
 けれど、軋むような哀しみも、寂しさも、そして慟哭も、いつもつくしに与えるのは道明寺だっただけだ。
 類と会えなくなっても彼を愛し続ける自信がある。
 もう二度とは会えなくても、彼の幸せを願って自分も幸せな気持ちになることができるだろう。
 実際にそうだった。
 レンに語る類の話はいつも幸福に満ちていた。
 大好きだった人なんだ。
 とても優しくて、私をいつも助けてくれた。
 時には意地悪で、時には理解できない宇宙人で。
 そう語ってきた。
 こうして、手を繋いで歩けば、ドキドキもするし、とても幸せな温かい気持ちにもなる。
 なのに、思い出して苦しいのは司なのだ。
 夢であっても逢いたかったのは司だけ。
 ツーンと鼻の奥に走った痛みに、グッと唇を噛んで堪える。
 「…寝たふりしたって無駄だよ?バレバレ」
 運転席からかけられた声に、つくしは振り返った。
 「寝たふりしてたんじゃないわ」
 「そう?」
 「そうよ。寝たふりするくらいなら、最初からタクシーで帰ってるわ。あんたの車に乗らずにね」
 そんなことをして類を哀しませるようなことをつくしがするはずもなかった。
 それがわかっていて、お互いに納得したふりをする。
 「日本にさ、行こうよ」
 「…さっき、断ったじゃん」
 「まあね。でもまあ、一応まだ2日ほどあるから、考えてみて?別に一度日本に渡って、一か月ほど滞在したらまた帰ってもいいんだし、ね。その頃には、こういった騒ぎも落ち着いてるんじゃない?」
 類の真意はわかる。
 つくしを騒ぎの中心から遠ざけておいて、沈静化したのちに帰ったどうかと打診しているのだ。
 だが、つくしにはレンの問題もある。
 レンはつくしが望めば日本にも一緒に来るだろうし、その間大学を休学するくらいなんでもない。
 だが、つくしは怖かった。
 類と帰れば当然、友人たちと顔を合わせることもあるだろう。
 そうなれば、どこからレンの祖父であるアヤラのファミリーに自分たちのことが洩れるかわからない。
 リスクは侵したくなかった。
 類にメイプルまで送ってもらい、部屋まで送ると言うのを断り車を降りる。
 「あんたは言いだしたら聞かないから、これ以上はやめとくけど、なんかあったら、俺でも司にでも絶対に連絡するんだよ?」
 「わかってるわよ」
 「まったく、わかってないから何度でも言うんだよ。そうそう、レンはしばらく友人の家に泊まるから心配しないで、って言ってたよ」
 自分のことでてい一杯で、うっかりレンのことを聞くのを忘れていた。
 如才ないレンのことだ、自分がつくしの下へ顔を出し、後をつけられること懸念しただけでなく、自分がつけまわされる危惧もあったのだろう。
 類が望むので、冴子の時とは異なり、類に見送られながらホテルのドアをくぐる。
 いつまでたっても、大人になれないのは自分の方なのかもしれなかった。




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