「愛してる、そばにいて」
第5章 罰①

愛してる、そばにいて0331

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 『…婚約?』
 『ええ、そうよ。…屋敷内に、野良猫を連れ込んでいるそうね』
 野良猫…それは当然、シャッツのことなどではなく、つくし自身のことを揶揄していることは、司にも十分に通じていた。
 …ふん、やっぱ屋敷内にも俺を監視しているヤツがいるわけだ。
 それでも一年の大半を国内にいない楓よりも、司の顔色を伺い口を噤んでいる使用人の方が当然多い。
 もちろん、そこには楓自身の無関心があるだけのことで、いざとなればどちらに従うかは自明の理ではある。
 楓にしてみても、これまでのように外で下手な不祥事を起こされて後始末に頭を悩まされるよりも、屋敷内でのことならばどうとでもできるという過信ゆえの放任なのだろう。
 『よもやバカな甘言に乗せられて、自分の立場というものを忘れるほど、あなたが血迷ってるとまでは思っていませんが』
 『………へぇ?』
 『けれど、大河原家との婚約が整ったならば、どんな些細な醜聞だとて許されることではありません。早々に適当なものを与えて、元の場所にお戻しなさい』
 それこそ本当に野良猫かなにかの処分を話すかのような冷淡な口調に、楓の認識のほどが容易に伺える。
 腕時計を確認し出した楓の態度に、そろそろ彼女が息子との短く義務的な会談を切り上げようとしているのが、司にも見て取れた。
 この女はいつもそうだ。
 一方的に自分の意志や決定事項を司へと言い渡すだけで、彼の言い分や気持ちどころか、自分の言い渡した言葉に対する反応さえもロクに聞こうとはしない。
 その必要さえも感じていないのだろう。
 常に彼女の頭の中にあって、司に望むことはただ一つだけだったから。
 ‘道明寺家の後継者’であること。
 …この女にとっての俺の存在価値なんて、それだけなんだろうさ。
 皮肉に思う。
 母であって母でない存在。
 そんなものにはとっくに司も慣れてしまっている。
 だというのに、それがむしょうに寒々しく、心に空虚さが広がるのはなぜなのだろう。
 『…イヤだと言ったら?』
 楓は怪訝に眉根を寄せ、チラリと視線を司に流したが、それだけであとはぴくりとも表情を変えることもしない。
 彼の言葉を真剣に捉えていないのは、あきらかなことだった。
 それがシャクに触って、よけいに反発したくなる。
 …俺が、大河原だかどっかの財閥女なんかじゃなく、そこらの庶民女と結婚するって言ったら、この女どんな顔するんだろうな。
 そんな反抗心が、司の中でふいに膨れ上がった。
 『自分の女くらい、あんたに指図されなくても自分で決める』
 『…愚かなことを』
 『あんたは金勘定のことだけ考えてりゃいい。その大河原だか太田原だか知らねぇ家が、どんだけあんたとあんたの大事にしてる会社に利益をもたらすのかしんねぇけど、俺には関係ないこった』
 楓がわずかに愁眉を潜めた。
 それが興に乗って、司の口がますます滑らかに動く。
 『別にいいぜ?連れて来たけりゃ、婚約者でも嫁でも、いくらでも連れて来いよ。けど、俺は知らねぇ。俺のことを姉ちゃんの時と同じようにできるとは思うなよ?目障りになりゃ、半殺しにでもなんでもしてやって、たたき出せば済むことだ。娘を首り殺された親が、どんだけあんたの会社に利益をもたらせてくれるか、見てみるのもおもしれぇかもしんねぇしな』
 「…ぷっ、くくく」
 司は思い出して、昏く忍び笑う。
 さすがにあからさまに表情には出していなかったが、わずかに顔色を変えた楓の様子には、久しぶりに胸が空いた。
 我ながら子供じみていると、司も思わなくはない。
 しかし、あの空かした能面ヅラをした母親の鼻を明かしてやることが、ここ数年、彼にとっての、多少とはいえ鬱々とした気分を晴らす気晴らしでもある。
 それを思えば、売り言葉に買い言葉のようなものだったが、つくしを‘妻’に据えてやるのも悪くはないかも知れない。
 しかし、彼女のことを思い出したことで、だいぶ晴れていた気分が、またもモヤモヤとした気鬱に陥らされてしまう。
 「クソッ」
 あんな女のことで、ここまで落ち込んだ気分にさせられている…その事実がなおのこと気に食わなくて、イライラが募った。
 …なんでだよ!
 顔を向けた先、鏡に拗ねた子供のような不安そうな自分が映って、司はドンッとその顔を殴りつける。
 これまでどんな女も…いやどんな立場にいる人間も、ほとんどが彼の思うまま…おもねるばかりで、あからさまに逆らう者などなきに等しかった。
 それなのにただ一人、彼の興味を惹いて欲しいと思った女が、彼の思うままにならない。
 それがひどく腹立たしくて、苦しくて…辛い。
 司は初めて知る感情のほとんどに戸惑って、持て余してもいた。
 どうしたらいいのかが、わからない。
 それどころか、自分がいったいどうしたいのかさえ定まらずに、司は慣れぬ苦悩に惑っていた。
 今のままではけっして本当の意味では彼女は手に入らないし、そして自分もまた満足できないことだけはわかっているというのに、その手段が見つからない、方法を見出せなかった。
 いっそ楓の言うとおり、金でも渡して、…捨て置くことができたなら。
 しかし、不思議なくらいにこれまでそんなことさえ思いつきもしなかったのだ。
 司へと見せた彼女のさまざまな表情が思い浮かぶたび、『あんなどこにでもいる女』と蔑んで自戒する自分への自嘲を凌駕して、彼女への執着が深まってしまう。
 まるで坂を転がり落ちる雪玉のように、膨れ上がる想いと知らなかった感情とが溢れて、軋る胸の痛みと渇望に幾夜もの眠れぬ夜を過ごした。
 彼女を見ていたい。
 彼女の関心を自分に向けたい。
 彼女の目に映りたい。
 ーーー彼女に好かれたい、愛されたい。
 彼女に嬉しそうに微笑みかけられ、甘く見つめられたかった。
 一つ叶えばまた新たな望みが生まれて…、だが叶えられない憤懣にわななき、彼女のすべてが欲しいと悶え苦しんだ。
 彼女が自分に歯向かって、まるでちょこまかと動く小動物のようにキーキー怒ったり、ムクれたり、コロコロと変わるその表情が面白い、ただそれだけだったはずなのに、彼女が毅然と彼の提案を退けたその瞬間から、すべが変わってしまったのだろう。
 彼女を見るたび、会うたびに新しい彼女に魅せられ、惹かれた。
 女らしく着飾っていつもとは違う姿を見せた彼女の姿を綺麗だと思った。
 そして、たかがキスくらいで、泣いてショックを受けるそのウブさが可愛いくて、もはやその想いを止めることなどできはしなかったのだ。
 つくしを知れば知るほどに、新しく鮮烈な世界が彼の目の前に広がってゆく。
 ただの興味本位、暇潰し、そのままでいられたなら、つくしの為だけではなく彼自身のためにもどれだけ良かったことか。
 けれど―――。
 もう過去には戻れない。
 戻りたいとも思えなかった。
 彼女を知らなかった世界へは。
 司は堂々巡りの思考にケリを付け、小さく息を吐き出し気を取り直す。
 いいかげんつくしも目を覚ました頃だろう。
 「部屋から出してやらねぇとな」




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