「愛してる、そばにいて」
第4章 凍える牙②

愛してる、そばにいて0320

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 「ちがっ、違う、よ…うちゃん」
 とっさに口を押さえた手が、溢れそうになった嗚咽を防いだ。
 「…陽ちゃんのせいなんかじゃない、あたしの…せい、なの」
 それでも滲んできた涙を、堪えられなかった。
 司から送られてくる画像の戒は毎年、驚く程に成長していてつくしを安心させてくれた。
 しかし、その体の成長とは裏腹に、その目に宿る孤独と哀しみは拭いきれず、寂しそうな横顔に笑みはなかった。
 …あんなによく笑う子だったのに。
 人見知りで、陽太のように誰にでも笑う子ではなかったけれど、つくしにはいつも満面の笑みを見せてくれていた。
 それだけに、そのつくしが去ってからの彼のことが心配だった。
 …あいつがいるからとか、神崎さんなら大丈夫だからなんて嘘だ。
 自分がいなくなってしまえば、戒がどんなにか悲しがり、傷つくことかわかっていて自分は彼を見捨てたのだ。
 自らの幸福を選んで、我が子を捨てた。
 そんな彼女が泣く資格などあるはずもない。
 …戒に会いたいだなんて、思っていいはずがないんだよ。
 「もう…戒には会えない。会っちゃいけないの」
 両手で顔を覆う。
 「どうして?もう戒君のこと嫌いになっちゃったの?」
 「…っ、そんなわけないっ」
 あるはずがないではないか。
 小さな手が伸びて、彼女の頭をそっと撫でてくれる。
 「じゃあ、会いに行きなよ。きっと戒君も待ってくれてるよ?」
 そんなこと言ってくれるから、我慢しようと思っていた涙が溢れ出してしまって耐えれなかった。
 まるで頑是無い赤ん坊のように泣きじゃくって、ただ首を振るつくしに寄り添って、陽太が優しく慰めてくれる。
 「戒君に会えなくて、つくしちゃんが悲しんでたり泣いちゃってたら、きっと戒君ももっと悲しくなって泣いちゃうと思う」
 「…でも、あたしは戒にひどいことをしたの。だからきっと戒はもう許してくれない」
 ずっとそばにいて…。
 そう願った小さな息子の願いを踏み躙って、その手を振りほどいてきてしまった。
 彼を裏切ったのだ。
 「悪いことをしちゃったの?」
 コクコクと頷くつくしに囁く陽太の声は、ひどく温かくて、それがよけいにつくしを泣かせてしまう。
 幼い子供の無垢で真摯な愛情と優しさ。
 「じゃあ、ごめんね…って言うんだよ。それでも許してくれなかったら、またちょっとしてから何度も謝るんだ。そうしたらきっと許してくれる。だって、つくしちゃんは戒君のお母さんなんだもの。お母さんを嫌いになれる子なんて絶対にいないよ!」
 「…………ぅっ、……」
 ありがとうと、ごめんなさいは、魔法の言葉だから、真心を込めて言えば、きっといつかわかってくれる。
 昔、彼女も知っていたこと。
 けれど、病んでしまった心が、そんな言葉を信じられなくしてしまった。
 絶望の連続に、諦める方が楽だと…戦わず逃げることばかりをいつの間にか選ぶようになってしまっていたのだ。
 あの時―――楓の手をとり、司の元から解放を望んだ時には、たしかに彼女なりの戦いではあったけれど、しかし、今思えば、本当に他に方法はなかったのだろうか?
 卑怯な手段で逃げ出した負い目はいつまでもついてまわって、自分ばかりか大切な人の心をも傷つけ、結局いまなお、自分は暗い闇の中をさ迷い続けている。
 …でも、あの頃のあたしに、他にいったいどうできたというの?
 司という強大な力を持つ男の前に、あまりにつくしは無力だったのだ。
 「陽ちゃんは、どうしてそんなにいつも強いの?」
 …強くいられるの?
 たった9才の子供の持つ強さに、つくしはそんなことを問いかけてしまう。
 陽太は赤ん坊の頃に実母を亡くし、大好きな父とも一緒にはいられず、祖父母に育てられてた。
 そして、さらには自らが死の病に冒され、きっと苦痛の連続だっただろう。
 それなのに常に陽太は明るく優しかった。
 せっかく仲良くなれた友達とも離れ、中々学校にも通えず、頻繁な入院生活が楽だったはずもないというのに。
 彼女の質問の意図を捉えきれず、首を傾げる陽太へと、つくしはさらに問いかける。
 「去年入院した時も、その前の時も…毎回の検査の時だってイヤなことや痛いことが一杯だったでしょ?なのに陽ちゃんはいつも泣いたり、ダダをこねたりしないで頑張ってるよね?」
 それどころか普段の生活にもたくさんの制約があって、この年頃の子供だったら周り中に八つ当たりしてもおかしくはないのではないだろうか?
 大人でさえ、そんな人間は少なくはない。
 もしかしたら、つくしの質問こそが酷なことだったかもしれなかったけれど。
 この大きな愛と優しさに満ちた子供に、聞いてみたかったのだ。
 どうしてそんなにも毅然としていられるのか、と。
 「だって、僕が泣いたり辛がったりしたら、お父さんが泣いちゃうんだもん」
 「……っ」
 目を見開き驚くつくしへと「内緒だよ」、と前置きして陽太が小さく笑う。
 「お父さんたら、僕が交通事故にあった時、泣いちゃったんだ」
 「………」
 「そりゃあ、僕だって体中痛くて泣きそうだったけど、頭がボウッとして、泣きたくても泣けなかったのに」
 陽太の話からして、おそらく本人の意識が朦朧としていてそれどころではなかったのだろう。
 「それまでもお父さんのことは大好きだったし、ずっと一緒に暮らしたかったけど、たまにしか会えないからさ。なんかちょっと怖いなぁって思う時もあったんだ」
 隼斗はいかついタイプではないし、わりに愛想も悪くないが、やはり職業柄か時々人を萎縮させてしまうような時がある。
 敏感な子供にはなおさらだろうし、滅多に会えないだけに、人懐っこい陽太にしても気後れするところがあったのだろう。
 「でも、僕の寝てるベッドの横でね。お父さんったら、陽太、陽太って、おいおい泣いちゃってた。あれであんがい、泣き虫なんだよ?」
 「はは…」
 陽太は茶目っ気たっぷりに生意気なことを言うが、つくしとしては同意していいものやら反応に困って曖昧に笑う。
 「でもさ、そんなお父さんを見てて…ああ、大人でも辛かったり、怖かったりして泣いちゃうことがあるんだなって思った」
 「陽ちゃん」
 「お父さんは僕が大好きだから、僕が死んじゃうかもって、きっと怖かったんだね」




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