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「愛してる、そばにいて」
第4章 凍える牙②

愛してる、そばにいて0319

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 息を吸って吐いて、スーハー。
 大きく深呼吸して携帯電話に向かい合う。
 東京からこちらに転居する時にも、もう必要ないのだからと削除してしまおうとしたが、毎年、春になると一方的に送りつけられる一通の封書のせいでそれができないでここまできた。 
 「…よし、かけるぞ」
 気合一つで、呼び出したアドレスの番号に触れる。
 隼斗と二人、陽太の治療のこと、その費用のことについて話し合ってからすでに5日が過ぎ、陽太の次の健診日まで2日に迫っていた。
 奈良に出張に出ていた隼斗も、明日の朝には帰ってくる。
 隼斗に自分の気持ち―――司との離婚の際に受け取った慰謝料を携え、隼斗や陽太と共にアメリカに行くことを伝えようと思いつつも、なんだかんだとそれを引き伸ばしてしまい、電話どころかメールでさえ連絡できていない。
 隼斗が帰ってから伝えよう。
 でも、顧問弁護士にはすでに返却の意志を言い渡してしまっているのだから、もうすでに手続きはなされていて、資産についてはつくしの手を離れているのかもしれない。
 期待させるだけさせて、もしダメだった場合、隼斗や陽太を落胆させてしまう。
 グタグタとそんな言い訳を繰り返しては、結局いまなお隼斗への返事を引き伸ばした挙句、逃れようとしている自分をつくしは自覚していた。
 だから、せめて本当に桜子の言うとおり、司から彼女へと与えられた資産が、今なお存在するのか先に確かめることに。
 ちゃんと確かめられたら…そう自分に言い聞かせ、つくしは震える指先で、触れていた番号をタップした。
 トゥルルルルルルル、トゥルルルルルルル、トゥルルルルルルル。 
 …出ないで。
 陽太の為に出て欲しいと思っている理性の裏側で、そんな内心での本音が、理性を凌駕してしまうよりもホンのわずかに早く相手が応答した。
 『はい、勅使河原です』
 「あ、あの…あたし」
 覚悟を決めて、何度もシミュレーションを繰り返したはずなのに口ごもってしまう。
 『つくし様ですね?』




*****




 「ただいまぁ」
 ガチャリと回ったドアノブの音とほとんど間を置かずにかけられた声に、つくしは我に返ってボンヤリと見入っていた携帯電話から顔をあげた。
 いつの間にか時間は午後を大きく過ぎて、せっかくのオフを無意味に座ってボウッと過ごしてしまっていたようだ。
 …はぁ、しまったなぁ。
 陽太が小学校から帰ってくる前に掃除をしたり、物干し竿から取り込んだ洗濯物を畳んでしまう予定だったのにと嘆息する。
 「…あ、戒君だ」
 ランドセルを下ろしがてら、陽太がつくしの手元の携帯電話の画像を覗き込んだ。
 「どれどれ、見せて?もう今年の分、届いたの?」
 「ううん、今年はまだ。いつもお誕生日のすぐ後くらいに届くから、去年のやつ」
 「そっかぁ、もうすぐだね」
 以前にも見せたことがあるはずだが、見せてと言われたので手渡すと、陽太が楽しそうにフォルダ内の写真を一枚一枚くって見てゆく。
 つくしが道明寺家の顧問弁護士・勅使河原の連絡先を削除できない最大の理由。
 毎年、3月…戒の誕生日の月の末日に届く一通の封書。
 勅使河原法律事務所から、一年間の戒の写真が収められたSDカードが送られてきていた。
 最初、この封書が届いた時には困惑した。
 心当たる人々の中に、タマや道明寺邸で懇意にしていた使用人たちが思い浮かんだが、その誰にも自分の居場所を教えてはいなかったし、彼女たちはあくまでも道明寺家の使用人であって、その分を超えてつくしに連絡をとるなど考えられない。
 また戒本人ということも、チラッと脳裏を横切ったりもした。
 しかし、当時彼はまだ6才になるかならずの幼さ。
 その父親である司は、つくしのことを迷惑な存在だと言い切ったのだ。
 そんな彼が、つくしの連絡先を戒に教えるとはとても思えない。
 となると、残るは、その当の司本人だけ。
 それこそ迷惑なはずの女に、こんなものを送りつけてくる彼の意図はつくしには計り知れなかったが、それでも受け取ったデータを目にした時の複雑な気持ちの中には、たしかに‘感謝’が含まれていた。
 「戒君って、おっきいねぇ」
 「そう?」
 「うん。僕の同級生は戒君より一こ下だから小さくても当たり前かもしれないけど、4年生や5年生の子よりたぶん大きいよ」
 証明写真のようにかしこまったスタイルで、戒単体で写っているものでは判別つけがたいが、黒塗りのリムジンから運転手に介助されて降りる姿や、運動会か何かの催しだろうが、他の子供たちに囲まれている姿から、彼が同年代の子供たちよりも大柄であることが見て取れる。
 …もっと小さい頃から、背が高かったものね。
 母親であるつくしが小柄であるので、将来的にはわからないが、パーツのほとんどが司に瓜二つで、道明寺家の人々が皆、日本人離れした体格の持ち主なのを鑑みれば、戒が同年代の子供たちよりも大柄なのも当然かもしれない。
 すでにその片鱗が見えた気がして、つくしの口の端にほろ苦い笑みが浮かぶ。
 この戒の写真の存在を、隼斗は知らなかった。
 知ったとしてもそれでなんだと言われることもなかっただろうが、自分が道明寺司の妻でだったことも黙っていたくらいなのだ。
 この写真から前夫の正体を知られ、あれこれ詮索されることを厭って、つくしは毎年送られてくるこの封書の存在を隼斗には告げていなかった。
 隠していたわけではない。
 聞かれれば正直に答えただろう…おそらく。
 しかし、それも…、
 …意味のないことだったけど。
 隼斗はつくしの正体を知っていたのだから。
 いや、それどころか知っていて近づいた。
 彼女のその後を、司に報告するために。
 ただ陽太にはひょんなことから知られてしまっていた。
 たぶん、つくしにも子供だからという内心の侮りがあったのだと思う。
 それでも他の人には、誰にも言わないでくれと頼んだ彼女との約束を陽太は今も守り、彼の父親である隼斗にさえ、この写真のことは言わないでくれていた。
 「笑ってる写真は、あんまりないんだね」
 陽太の言葉に、一緒に画像を覗き込んでいたつくしが視線を伏せる。
 「お母さん…つくしちゃんは、戒君に会いたい?」
 ハッと陽太の顔を見返す。
 隼斗と結婚前に陽太が呼んでいた呼び名。
 澄んだ透明な目が彼女をジッと見つめ、彼女の心を見透かしていた。
 答えられないでいるつくしへと儚く微笑み、陽太がポツリとこぼす。
 「僕は…お母さんに逢いたいよ」
 それはつくしのことではなく、陽太を生んだ実母・美沙のこと。
 これまで陽太はつくしに懐く一方で、実母のことをほとんど口にしたことがなかった。
 それをつくしが厭ったわけではなかったが、もしかしたら、それこそが陽太の気遣いだったのだと、今気がつかされる。
 継母になったつくしへの気遣い。 
 妻を亡くし、新しい妻を迎えた隼斗への気遣い。
 子供は大人が思うほどには幼くはない。
 何も感じていないわけではないのだ。
 「僕はお父さんの話や、写真の中のお母さんしか知らないけど、時々、すごくお母さんに会いたいな、って思うんだ」
 「…陽ちゃん」
 ゴクリと唾を飲み込み、つくしは何かを言いかける。
 しかし、結局何を言っていいのかわからず、ただ幼い少年の顔を見つめていることしかできない。
 少年の横顔は病で窶れ、成長も遅く、その年齢よりも幼く見えたが、その目に宿る英知の光は不思議に凪いで、まるでつくしよりも遥かに年を得た人間であるかのように老成していた。
 「つくしちゃんのことが大好きだし、お母さんになってくれてすごく嬉しい。ずっとずっと、一緒にいてくれたらって思ってる。でも、それでも、僕を生んでくれたお母さんにも会いたい。…ダメかな?」
 「ダメじゃないよ」
 ダメだなんて言えるはずがないではないか。
 小さく笑って、陽太が再び写真の中の戒へと視線を戻す。
 「きっと、戒君もお母さんのつくしちゃんに会いたいんだよね」
 「………っ」
 「僕がつくしちゃんをとっちゃったから、僕がつくしちゃんをずっと独り占めしてたから。だから戒君は、こんなに悲しそうなんだよ。…ごめんね」




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