「愛してる、そばにいて」
第4章 凍える牙②

愛してる、そばにいて0316

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 「道明寺財閥の顧問弁護士で、勅使河原(てしがわら)と名乗ったな」 
 「…ああ」
 つくしも知っている人物だ。
 道明寺財閥におけるゼネラル・カウンセル※1の直属の部下で、日本支部を任されているインハウス・ローヤー※2であり、道明寺家の顧問も兼ねている弁護士だったが、特に司個人とも密接な間柄の人物のようで、二人の離婚の際にも、司と彼女双方の代理人として間に立ってつくしの便宜を図った。
 本来だったら、それぞれに代理人を立て、それぞれの権利を守るべき事柄だが、つくしが望まなかったのだ。
 …どうでもよかった。
 どちらにせよ、つくし個人が代理人を立てようと立てまいと、単なる儀礼的なものに過ぎず、本気で司に対抗出来るはずもないのだから、無駄なことをする気になれなかった。
 そして現在、彼女が放棄を希望している、…司から分与された種々の財産の管理を任されてる人物でもある。
 「知ってるよな?」
 「まあ。…それで?勅使河原さんはなにを?」 
 「君の資産についての詳細と、それらの資産が君個人の特有財産であり、万が一、俺が君と離婚しても、分与の対象にはならないこととかの説明だな」
 「…なによ、それ」
 ‘特有財産’とは、婚姻前から片方が有していた財産もしくは、婚姻中であっても夫婦の協力とは無関係に取得した財産のことをいい、これはたとえ夫婦が離婚したとしても分与の対象にはならない。
 つまり、つくしが司から分与された財産は、扶養的財産及び慰謝料的財産であるので、当然、隼斗と婚姻し後に離婚したとしても、彼に分与されることはないということなのだ。
 隼斗の顔がどこか力ない複雑な笑みを浮かべていた。
 「君は本当に、凄いとんでもない男と結婚していたんだな」
 「…そうね」
 自分でも未だに信じられないくらいなのだ。
 「あれほど莫大な資産を君が分与されていたと聞いて、離婚後の君に護衛がつけられるのも仕方がないことかと、ある意味納得した」
 「最初から、知ってたんでしょ?」
 「ある程度だけだ。その時に具体的な金額や資産運用内容を聞かされるまでは、詳しくは知らなかったから、さすがに度肝を抜かれたよ」
 「勅使河原さんに会ったのなら、あたしがその資産を返却したことも知っているよね?」
 桜子によると留保・保全されているだけで、必ずしもつくしの意思を反映されてはいないようだが、つくしの中では済んだことだったし、正直、もう知ったことではない。
 「ああ、聞いてる」 
 そのことに対しては、隼斗も異存がないようで、特に口出しする気配がないのには、つくしも内心小さくホッと息をついた。
 今の心情がどうであれ…過去の経緯がどうだったのだとしても、一度は夫にと選び、今なおそう呼ぶ男にこれ以上幻滅したくなかったのだ。
 「それと、俺に対して提案をしてきた」
 「提案?」
 「ああ。俺に起業をする気はないか。今の職種に一職員として所属するのではなく、経営者として再スタートを切る気はないか。そのつもりなら、十分な援助をするってな」
 「起業?」
 ボンヤリと隼斗の言葉を反復し、ハッと隼斗の顔を改めて見返す。
 「受けたの?」
 「……いや?」
 「どうしてっ!?」
 隼斗が司の…本当に司のなのか…提案を受け入れなかったことに安堵しているというのに、彼がその提案を受け入れなかったことが不思議で、つくしは語気を荒げた。
 「どうして、って当たり前だろ?俺が君の元旦那にそんな援助をしてもらう謂れも、義理もないじゃないか」
 そのとおりではあるが、あまりにバカ正直すぎて融通の利かない返答に、自身も似たような人間の自覚のあるつくしでさえ言葉に詰まった。
 金は人を変える。
 それを自分の両親で、すでに嫌というほど思い知らされているのだ。
 むしろほとんど変わらないでいられた隼斗の資質こそ、稀有なものだと今のつくしにはわかっていた。
 そして、だからこそ彼はつくしが莫大な資産を放棄したと聞いても平然とし、魅力的な提案を受けても断ることができたのだろう。
 …隼斗さん。
 以前までの彼に感じていたものとはまた別の感慨に、改めて目の前の男の顔に見入る。
 「それに俺はあくまでも現場の叩き上げで、経営者って柄じゃない」
 「なんで…」
 「…………」 
 「なんで勅使河原さん…道明寺は、隼斗さんにそんな申し出をしたの?」
 今度の疑問は、隼斗にも答えようがないだろうことを察していながら、それでもつくしは口にせずにはいられなかった。
 「さあな。…君への口止めの意味なのか、あるいは、俺みたいな一介の風来坊的な職種の男に君を預けるのが不安で、金と地位を与えたかったのかもしれない」
 何とも言えない奇妙な思いに、つくしは上手く二の句を継ぐことができなかった。
 「もしくは単純に、俺や君が知り得た道明寺家についての内部事情をよそに洩らすな、という布石だったのかもしれないけどな」
 「……そう」
 つくしにしても釈然としないものの、それでも先に提示された理由よりはよほど納得できる気がする。
 「だが…人物は見られてる気はしたな」
 「人物?」 
 「ああ」
 隼斗という人間の質。
 次の言葉を探して、二人の間に沈黙が落ちる。
 「…これで君に対する俺の答えは全部だ。他に聞きたいことがあれば、遠慮なく聞けよ」
 「隼斗さん」
 「もっともこれ以上、尋ねられても俺自身も知りえないことばかりだ。むしろ君の中にこそ、その答えはあるんじゃないか?」
 「答えなんて」 
 あるはずもない。
 しかし、たしかに、それ以上隼斗に何かを尋ねたいことなどなかったし、今は知らされた事実に飽和状態で何も考えられなかった。
 「ああ…最後にもう一つだけ」
 「なんだ?」
 ふいに思い浮かんだ問いは自分でも意外で…。
 「結局、隼斗さんは、道明寺には会わなかったのね?勅使河原さんと会っただけ?」
 「……………ああ」
 間があったと思うのは、気のせいだったのか。
 しかし、たとえそれがウソだったとしても、今まで知らされた事実以上に重大でも…衝撃的でもないことだけはたしかだろう。
 「そう、わかったわ。もう…いい」
 「…………………」
 ふと思い出して、すっかり冷えてしまっているだろう湯呑へと手を伸ばし、お茶を啜る。
 ズズズズ。
 …けっこうまだ温かいじゃない?
なんて、虚ろな感想を抱いて一気に飲み干してしまう。
 沈黙が続いた。 
 そろそろ自分もそうだが、隼斗も寝なければならない時間だった。
 そんなごく日常的な、ありふれたどうでも良いことがつくしの頭に思い浮かぶ。
 先程までの非日常的な会話など、まるで何もなかったかのように、見なかったフリ、聞かなかったフリを続ければ、きっと平和で平穏な毎日がこのまま続けていけるのだろうけれど。
 じんわりと絞めるけるような頭の痛みが、心の感じている痛みと悲嘆、苦悩を鈍らせて、普段と変わりない自分を演じさせてくれる。
 しかし、それさえも装えなくなってしまったら、いったいどうしたらいいというのだろう。
 …崩壊する。
 すべてが。 
 偽りの中で築いてきたものすべて。
 また再び彼女の指の間から溢れ落ちてゆこうとしている。
 かつて彼女自身が打ち壊し、泡沫の中へと置いてきたものと同様に、今また自分は全てを振り捨てようというのか。
 …あたしは。
 「今度は、俺の話をしていいか?」
 「…………」
 一人思索の海に沈んでいた隼斗が、静かに声を上げ話を切り出した。
 「ずっと、迷っていた。どう君に話していいのかもわからなかったし、…実際、どうすることがベストなのか俺には今もわからない」
 「…なにを?」
 その言葉のとおり、隼斗が今なお迷っているのはあきらかで、二度、三度と顔を顰め…だが、意を決したように、つくしへと視線を真っ直ぐに据える。
 「君に頼みがある」
 「………」
 「金を…金を貸して欲しい」
 「お、金?お金って…」
 意外すぎる隼斗の頼みに、一瞬何を言われたのか理解できなかった。
 しかし、彼から提示された金額に、もうこれ以上驚くことはないと思っていたつくしが、驚愕に言葉を探したまま絶句する。
 「1億8千万円…できれば2億、俺に貸してくれないか?」 
 「いちおく…はっせん、まん…」




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ゼネラル・カウンセル※1=アメリカの企業における法務部の長。経営陣の一員として経営トップに法的なアドバイスする立場の者が多い。

インハウス・ローヤー※2=官公署又は公私の団体における職員。また取締役あるいは理事、その他の役員となっている弁護士のこと。特に、企業に所属する者を企業内弁護士という。
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