「愛してる、そばにいて」
第4章 凍える牙②

愛してる、そばにいて0312

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 予備室に向かい合ったまま返事を返さないつくしに怪訝な顔をしながら、隼斗が玄関を上がってくる。
 「ただいま?」
 「あ…お、おかえり…なさい」
 もう一度、面と向かって声をかけられ、どうにかこうにか挨拶を返した。
 しかし、不審げな隼斗の視線が、自分が伸ばしたままの手に向けられている気がして、慌ててその手を後ろ手に隠し、精一杯の何食わなさを装い隼斗に纏わりつくように寄り添う。
 バクバク言う胸の鼓動がうるさい。
 「きょ、今日は早かったんだね?」
 「来週からの仕事内容の説明と打ち合わせだけだったからな」
 「そ、そうなんだ」
 「…何してた?」 
 「え?」 
 「物置部屋の前にいただろ?」
 疚しいことなどない。
 ないはずなのに、動揺する心を鎮めることが難しい。
 …落ち着け、あたし。
 「掃除、そう、掃除しようと思って!」
 「…こんな時間に?」
 チラッと居間の壁掛け時計を見上げた隼斗が不審そうに眉根を寄せて、首を傾げる。
 「そ、そうよ。ここのところ忙しくて、あそこまで掃除する余裕がなかったじゃない?埃も溜まってるだろうし、時間がある時くらいたまにはね?」
 「ふぅん?大して使いもしてないんだから、そんなに無理して掃除したりしなくていいぞ?君は妙に完璧主義的なところがあって、頑張りすぎるからな。休める時には休めよ?」
 「……うん」
 隼斗の彼女を気遣ってくれる言葉が胸に染みて、…痛む。
 つくしは渡されたスーツの上着をハンガーにかけて、キッチンに向きなおった。
 「夕ご飯食べてきたんだよね?」
 「ああ…陽太の顔を見て、どっかで食事しようと思ったんだけど、ほら、病院出てすぐのところにコンビニあるだろ?そこでおにぎりと惣菜買って済ませたよ」
 「え?なんだ、それなら言ってよ?簡単なもので良かったら今から何か作ろうか?」
 冷蔵庫を覗いて、あれこれサッとできるメニューを思案する。
 陽太の容態については、すでにメールと電話で隼斗には連絡済だったが、遠方に出ているのならともかくとして、子煩悩な隼斗としては心配だったらしい。
 仕事帰りに病院に寄って帰るから夕食はいらないというので、つくしも病院の帰宅途中にあるラーメン屋で食事を済ませて帰ったのだ。
 「いいよ、君は食べてきたんだろ?」
 「まあ」
 「もう遅い時間だし、明日にするよ」
 「そう?」
 それならお茶でも出すかと、先ほど沸かしたばかりのヤカンに手を伸ばす。
 …さっきお茶飲んだばかりだから、まだ温くなってないよね?
 パチッという音が聞こえて、隼斗がテレビをつけたようで、ちょうどチャンネルは今期臨時国会での政党助成法を廃止する法律案についての報道。
 …そうだ。
 ふいに思いついたことにつくしはわずかに迷い、しかし、舌先で唇を舐め、不自然さを感じさせないタイミングを図って、できるだけの平静さでサラリとそれを口に出した。
 「そういえばさ」
 「ん?」
 視線を上げた隼斗の目が真っ直ぐに見られない。
 つくしは、手の中の急須に集中しているフリで顔を俯けたまま、話を続けた。
 「こ、今年からの法律改正で、薬機法から薬事法へと名称変更になるじゃない?その余波の過去の契約書内容の変更手続きなんかで、うちに出入りしているMRさんたちがテンテコ舞いしてるみたいなんだけど、隼斗さんもそれでよけいに大変なんじゃない?」
 「…ああ」
 ‘薬事法’とは医薬品等の品質・有効性・安全性の確保等を目的とする法律で、数年前すでに‘薬機法’へと名称を変え、医療機器の規制が付け加えられているものだ。
 当然、担当は違えど、製薬会社の人間がそうしたことを知らないはずはない。
 「医薬品と同様の扱いになるなんてますます大変だね」
 「そうだな」
 言葉少なく答える隼斗の態度は変わらない。
 『薬機法から薬事法ではなく、薬事法から薬機法への変更だろ』あるいは、『医薬品と同様の扱いになる、じゃなくって逆だろ?これだから知ったかぶりの門外漢は』と苦笑とともに訂正される、そんなことを期待していたというのに隼斗はただ流してしまった。
 ゾクリと背筋を這い登るものがある。
 これまで知っていた、いや知っていると思っていた夫が、まるで知らない男であったことへの空恐ろしさ。
 …誰?この人はいったい何者なの?
 柔らかな笑顔と優しさで、彼女と彼女の家庭を守り、新しい家族を作ろうと言った男。
 『君に愛されたい』、と言ったその口で平然とウソを吐き、彼女を欺き続けているこの目の前の男は――?
 ゲストのコメンティーターたちは舌戦鋭く討議しあっていたが、隼斗は特に興味を惹かれなかったようで、ざっとチャンネルを回し、結局は再びリモコンのスイッチを押してテレビを消してしまった。
 「…君に話したいことがあったんだけどな」
 「えっ!?」
 自分の過剰反応に自分で驚き、つくしは慌てて語尾を弱めた。
 「な、なに?」
 「電話でも言ってあっただろ?」
 そういえば、陽太の入院先から隼斗へと連絡した時、彼がそんな事を言っていたかもしれなかったが、陽太への心配と自分の中の疑惑で精一杯だったつくしは、そんな隼斗からの言葉を軽く流してしまっていた。
 「ああ、うん、そうだったね」
 「…陽太の容態の経過と、これからの治療方針のことだ」
 「あ…ああ」
 沸騰しかけていた思考が一瞬で沈静化して、冷静さが戻った。
 隼斗のことと、陽太の問題は別個のものだ。
 「とりあえず、お茶を淹れたら、君もそこに座ってくれないか?」 
 「…ええ」
 カウンター越しに見る隼斗はひどく疲れているように見えた。
 以前にも、顧客との間でストレスを感じるようなことをチラッとだが口にしていた。
 しかし、ここ数日は仕事の切れ間だとかで、わりに余裕のあるスケジュールだったはずなのに、なぜかさらに疲労が色濃く、屈託や苦悩が深いようにも思える。
 前回の陽太の定期検査の後にもその兆候はあった。
 …まさか、陽ちゃんに何か?
 隼斗の疲労やストレスが仕事だけのことではなく、実は陽太の治療や病状のこともあったのだと、やっといまさらながらに気がつかされる。
 淹れたお茶の湯呑を隼斗と自分の前に配膳して、彼が座っている椅子の対面側の椅子へと腰を下ろす。
 「それで…?」
 「その前に、まずは君の話を聞こうか」
 「……なにを」
 「なにを…は俺のセリフだろ?君は何を聞いた、何を知ったんだ?」
 隼斗からの不意打ちに、つくしが大きく目を見開き、絶句する。
 「まさか、こんなところで、俺のことを知っている人間がいたとはな」
 …まさか、まさか、まさか。
 何かを口にしようとして、
 「まさか、本当に、道明寺…なの?」
確証もないままに思わず飛び出してしまっただけの言葉に、隼斗が泣き笑いのように奇妙に顔を歪め自嘲する。
 「そうだ」
 「!」
 叫びだしたいのに、喉の奥から洩れたのは、鋭く小さな呼気だけで…。
 「俺は道明寺司に依頼をされて、君の護衛と…素行調査をしていた」 
 「……っ!?」
 「君の動向を逐一、報告していたんだ。君の前夫に」
 逃れ出たと思っていた影が大きく長く伸びて、再び自分の上に覆い被さる錯覚につくしは低く呻いた。
 
 
 

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こなこもち様

こんにちは、いつも応援ありがとうございます!

ご指摘の307話・田町(岡山県の歓楽街)表記からのつくしの在所について、ご指摘の件、北陸ではなく、中国地方もしくは山陽地方の表記ミスでした。

○山陽地方・中国地方
×北陸地方


311話、312話の記載部分について修正いたました。
今後も何かありましたら、どうぞよろしくお願いいたしますm_ _m

いや^^;
作中の舞台についてイメージしているところはあるんですが、いろいろ変なところがでてくるので、具体的な場所、病院についてはあるような、ないような、ってところでご容赦を。



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