「愛してる、そばにいて」
第4章 凍える牙②

愛してる、そばにいて0300

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 「ああ、そのことね」
 言われるとは思っていた。
 「社会福祉士資格取得の為の養成学校を卒業されて、東京の大学病院に就職された後すぐ、道明寺家から分与された財産を返却されてましたよね、たしか」
 「まあね」
 つくしは司や桜子の説得もあって、一度は莫大な慰謝料を受け取っていた。
 『…母親を路頭に迷わせたと、戒に父親を恨ませるつもりか』
 司によって突きつけられたその言葉は、まさにつくしのアキレス腱で、下手な矜持や意固地さを打ち砕くものだったのだ。
 桜子からも、道明寺家という名家の威信もあり、受け取らないでいられるものではないと言われていたし、またそもそもからして、世間一般的に見ても正当な慰謝料でもあっただろう。
 その名目は対外的には離婚慰謝料の形をとってはいたが、実際には、搾取されたつくしの10年間への補填でもあったのだから。
 だが、それだけにその金を受け取ってしまうことは、つくしにとって、自分自身を司へと身売りしたに等しい。
 だからといって法の裁きを叫ぶには、月日が経ちすぎている上に、道明寺家という強大な権力の前に無力だった。
 第一、戒という存在がいる以上、そもそもからして敵対しきれるものではなかったのだ。
 だから一度は受け取った。
 最初から、自立するまでを目処に自分に妥協して。
 「…どのみち、あたしが受け取ってなくても、代わりにうちの親が受け取ってるし」  我ながら浮かべた笑みは、薄ら寒いものがあるだろうとつくしにも自覚が有る。
 当然のように、司はつくしへの慰謝料とは全く別に、彼女の両親への援助を続けてはいたが、もしそれが身内に対しての援助であるならばそれらは過分な処遇であって、本来は受け取るべきものではないはずなのだ。
 そして、彼らの娘へと加えられた暴力と略取に対する慰謝料だったというのなら、つくしの意思や苦痛を無視し続けた彼らも司と同罪のはずだった。
 ―――結局、十数年前、司が口にしたように、両親はつくしを司に売り渡したのだ。
 そして、現在もその報酬でのうのうと暮らし続けている。
 自らを恥じることなく。
 それで本望なのだろう。
 千恵子の大望は果たされた。
 「おそらくその返却されたという財産は留保されて、先輩につけられた顧問弁護士によって保管・管理されているだけで、放棄したことにはなっていないと思いますよ」
 「そうなの?…でもあたし自身はもうビタ一文受け取っていないし、この先も受け取る気なんてないんだから、あたしには関係がないよ」
 「……………そのことをご主人は?」
 「言ってないから知らないし、…あたしの前の結婚のことも詳しくは話してないの」
 「そうですか」
 進や優紀、それに桜子に知らせたくらいで、それ以外の人間には誰にも連絡先さえも伝えずに転居したのだ。
 もちろん道明寺家からつくしへと派遣された顧問弁護士もその例外ではない。
 とはいえ、道明寺家の力をもってその気であれば、つくしの居場所など容易に知れることだろうけれど。
 …だって、もう本当に何も関係がないんだもの。
 当事者の片割れである司自身が海外だ。
 そうである以上、彼の母親の楓はなおさらつくしになど興味は無いだろうし、他の誰にしても同様のこと。 
 離婚以来、それこそ拍子抜けするくらいに、司や道明寺家からのつくしへの接触は皆無だった。
 密かに危惧していただけに、つくしは大きく安堵していた。
 胸の奥に時折滲む不可解な空虚感や失望…喪失感の意味を深く追求しなければ、それで万事解決で…。
 しかし、それからのつくしはまるで揺り戻しのように、真逆な不安を感じるようにもなってしまっていた。
 本物の司が遠ざかったことで、悪夢の中の司の存在感が増してしまったとでもいうべきだっただろうか。
 さらには、奇妙に相反する葛藤にも苛まれることとなった。
 …あいつはもう、あたしを苦しめることはない。
 ―――でも、本当に?
 …もう、あいつには新しい奥さんだっているんだから大丈夫。
 ―――あたしのことが好きだ、愛してるって、あれほど言ってたじゃない。
 …あれはもう過ぎ去ったただの悪夢に過ぎないのよ。
 自分に何をどう言い聞かせても、どこかで安心しきれなかった。
 ふと振り返った背後、あるいは聞こえてくる足音に、司が追いかけてくるのではないか、どこかの暗い街角から飛び出して、つくしを悪夢の中へと引きずり戻すのではないかと恐ろしかった。
 そうかと思えば、ひどく孤独が耐え難くて、寂しくて…目を覚ました時に理由のわからない涙にくれていたこともある。
 つくしは混乱した。
 自分の自我の危うさを自覚しながらも、どうすることもできずに。
 …このままじゃ、ダメだ。
 ある意味、東京からの離脱はそんな自分からの逃避でもあったのかもしれない。
 「とにかく、こっちに来て以来、もう道明寺家とはなんの関わりもなく過ごせている。道明寺家からの謝意もお金も、何も欲しくない。ただ…ただ、このまま普通に平穏に生きていければ、あたしはそれでいいの」




*****




 夕方の病院は閑散としていて、どこか物悲しい。
 エントランスの全面窓から入り込んだ夕日の残滓が、タイルの床を照らし赤く染めていた。
 時計を覗いてみれば、そろそろ17時を回ろうとしている。
 「…今日はたしか、なんかの特売日だったよなぁ」
 一人ごちた。
 うっかり今週の分の広告を見逃していたので確かではないが、先週は何かと忙しくてロクに買い出しにも行けなかったから冷蔵庫が寂しい。
 今日は幸い相談者がガラ空きで、いつもは時間外にまで持ち越してしまうというのに、どうやら定時で帰れそうだとつくしは密かにほくそ笑んだ。
 …先に、トイレ言って帰る支度しちゃおうっと。
 そんなことを思いながら、事務方から渡された書類を手に、エレベーターホールの階数表示盤を見上げ、一人昇降機の到着を待つ。 
 チーン。
 さっさと乗り込んで階数ボタンを押し、クローズに指先を伸ばしかけたところで、制止の声がかかった。
 「す、すみませんっ!乗ります」
 「え?あ…っと」
 慌ててオープンボタンを押して、飛び込んできた人物を挟んでしまう事態を回避する。
 かなりの距離を走ってきたのか、柔らかな癖っ毛をハネさせ、男はゼーゼーと息を喘がせ、体を真っ二つに折ってしまっていた。
 つくしの同年代…あるいは年下だろうか。
 …そんなに急がなくてもいいのに。
 男のつむじを見下ろしながら、内心でそんなことを思い、ついクスリと笑ってしまう。
 「はぁ~、良かったぁ。今日はあんまり時間がないから、ここで待つのイヤだったんで、とても助かりました」
 「いえ、ここってかなり高層階だから、けっこう待つ時は待ちますものねぇ」
 一応は彼女もおもねりはしたが、EVは一台っきりというわけではないのだし、この時間帯ならばそう待たされることもなかっただろう。
 つくしの言葉に、体を起こした男がニッコリと微笑みかけ、「あ…」と口を開いたまま絶句した。
 「つくしちゃん?」
 

 

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